表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

729/740

奇跡的な大事故

前回のあらすじ


ヒルアントとの一対一に挑む晴嵐。しかし両者は頭を抱えていた。複数の大物手が見え隠れする盤面……どうもヒルアントがポーカーをすると、毎回毎回荒れるらしい。そんなのはただの偶然だと思っていた晴嵐だが……

 乱運の二つ名は伊達では無かった。晴嵐も参加したりしなかったりしたが、毎回毎回、大物手を匂わせる盤面が出来るのだから笑えない。三枚組スリーカードが初手の公開段階から出来ていたりとか、やたらと同じ絵柄が集中したり、飛び飛びとはいえ五枚連番ストレートを匂わせる盤面が登場したりとか……信じられないが、ヒルアントが参戦すると、毎回毎回冷や汗が流れる様な状況ばかりがやって来るのだ。


「あーはっはっは! 本当、アンタと遊ぶと退屈しないわ!」

「ワイやて、好きでやっとるン訳ちゃうんやが……」


 少し前の場面が、晴嵐の脳裏をよぎる。荒れに荒れる卓の中、レオは満面の笑顔でチップを放出していた。この勝負で彼女は負け、ヒルアントが勝利したのが、これじゃあまるで反応が逆だけど、二人の性格を考えればこうもなるか。

 スリルを心から楽しむレオにとって、様々な可能性が乱立するような場面は……彼女が求めるヒリつく勝負に違いない。勝敗ももちろん重要だが、それ以上にゲームを心から楽しんでいるように見える。

 一方のヒルアントは消耗が酷い。そりゃあ、自分が参加するたびに『荒れる盤面』に遭遇するのだから、精神力をごっそり持っていかれるのも当然。彼はポーカーフェイスなんてできやしないが、その欠点を『乱運』で補って? いるような状態と言える。上手い事立ち回っているが……毎回毎回スリリングな勝負をしていては心臓に悪いったらありゃしない。初見の晴嵐はつい聞いてしまった。


「失礼を承知で聞くが……まさか仕組んでいないだろうな? 盛り上がりはするが……」


 カードを配る人物、ディーラーに懐疑の目を向ける晴嵐。偶然で片づけるには、あまりに酷い偏り……プレイヤー側はもちろん、ギャラリーだっておかしいと感じるだろう。ギロリと視線を向けるが、庇うのはまさかのヒルアント当人だった。


「ワイも最初、全く同じ疑問持ったで……このルール、毎回毎回バカみたいな大物役がチラつく方がおかしいんや」

「そうねぇ……全員が役無ブタで、握ってる数字の強さだけで勝負が決まるとか、一枚組ワンペアだけで競うとかもあるんだけど……アンタが参戦すると毎回毎回荒れるのよねぇ……」

「ディーラーを変えるとか……ヒルアントが別のテーブルに移動するとかは?」

「ンなの何度なんべんも試したでェ! でもなぁ、全く効果があらへん! 一番仰天いちばんぎょーてんしたのは……場を変えたにも関わらず、二回連続で全く同じ場札が、全く同じ順番でオープンとかもあったなァ‼」

「お、おぅ……それは……うむ」


 この証言が正しいなら、イカサマや仕込みは考えにくい。場や手札の『操作』が出来るならば、むしろ絶対に同じ盤面は作らないだろうし……ディーラー同士で、他のテーブルを窺う隙は無いだろう。

 純然たる偶然……そう判断せざるを得ない。これでヒルアントだけがボロ勝ちしていたり、逆にボロ負けしているなら露骨だが……ヒルアントは普通に負けもするし勝ちもする。酷い荒れ方こそすれ、勝敗を決める大きな要素は各々の掛金チップの積み方や駆け引き。場や役の強さも大きな要素だが、プレイヤー同士での精神の綱引きこそが一番の醍醐味と言えるだろう。……それが極度に荒れやすいだけで、本質的には心理戦だ。


「ワイも……ワイも無難なポーカーがやりたい……」


 素直な愚痴をこぼすヒルアント。大シケに揉まれる側はたまった物じゃないが、こればかりは晴嵐も少し同情を寄せた。


「お主自身もある意味被害者か。嵐を起こす中心じゃものな……」

「いいじゃない。それはそれで楽しみましょ?」

「スリル狂いめ」


 開き直って、自分から飛び込むレオへの言葉は辛辣。既にゲームを降り、プレイヤーから観客となったたマルダも苦笑していた。


「お嬢はこういう人だからな……だからこそ、面白い」

「ケッ! 高みの見物しおってからに! この場札見てからモノを言えや!」

「ははは……少し後悔してる」

「嘘つけ」


 晴嵐が愚痴りつつ首を向けた先には、既に公開された4枚のカードがある。引いた順番は違うが、まさかの『ハートの2から5までの四枚が連番』だ。五枚連番ストレート絵柄統一フラッシュ濃厚場面である。最低でもどちらか片方、ともすれば準最強役を強く匂わせる公開札だ。既に晴嵐、レオ、そしてヒルアント以外は撤退している。こんな荒れに荒れる場面では、とっとと逃げたくもなるだろう。

 既に賭けも終えており、いよいよ最後の一枚が明かされる。これ如何によっては勝負を大きく左右し得る一枚だが……明かされた最後カードは、全員の動揺と驚愕を産んだ。


「おいおい……」

「ウッソでしょ⁉」

「なんやこれ……なんやこれ!?」


 勝負に最中の三人も、ギャラリーたちも全員が騒めく。それも無理はない。何せ現れたカードは『ハートの6』――つまり全体に公開され、共有される五枚の札のみで準最強役の五枚連番ストレート絵柄統一フラッシュが完成してしまったのである。


「こんな事あるんですか? ディーラー……?」


 勝負を降りたマルダが、何故か自分のカードを確認しながら呆然と呟く。中立で場を取り仕切る相手に質問は、マナー違反寄りだが……そんな役割を忘れてしまうほどの事象だったらしい。おずおずとテーブル中央の進行役が、個人的な事を喋った。


「……五枚連番ストレート絵柄統一フラッシュそのものが、滅多に見ない大物役です。普通に完成する場面もほとんどない。長い事カードを配ってきましたが、場の札五枚でストフラ完成は私も初めてで……失礼、チップの方をお願いします」


 口にしている内に、中立の立場から離れかねないと気づいたらしい。晴嵐に行動を促してきたが、彼もちらとカードを確認してから鼻を鳴らした。


「……馬鹿馬鹿しい。もう勝負にならんだろ。様子見チェックだ」


 場に準最強役が完成してしまっているのだから、駆け引きもクソも無い……だから何もせずに、このまま流して終わらせようとしている。

 だが……ここで獅子の心臓こと、レオ・スカーレッドが動いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ