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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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盛り上がる身内大会

前回のあらすじ


ヒリつく勝負を制する、晴嵐の弱っちい手札。読み勝ち、手にしたチップの量に酔いそうになるが、改めて気を引き締めて、晴嵐は練度を高め続けた。

 それからどれくらい、テキサス・ポールデムのゲーム数を重ねただろうか……正直よく覚えていない。大した数を遊んでいない気もするし、十分に経験を積んだような気もする。このゲーム、即降りして離脱すると事実上の観客と化す。逆に最後の最後まで乗っかり、真剣に勝負する際の重圧感は濃い。あっという間のような気もするし、逆に恐ろしく時間の流れが遅いような感覚も味わった。活性化した脳髄が焼けて溶ける感覚もある。真剣勝負に集中する彼に、後ろから声をかける者がいた。


「セイラン? ポーカー……やるの?」

「ん? お主は確か……ドグルか」


 私掠船のメンバーの一人で、晴嵐と同じ船室を使っている人物だ。物静かな奴で、派手な所に出入りする印象は無い。ちょうど勝負を降りた所なので、彼と話す時間はあった。


「意外。セイラン、あまり遊ばなそうだから」

「その印象であっとるよ。だが今回は、レオ船長に一勝負誘われちまっての。これから身内で盛り上がるって聞いて……急遽経験を積んで居る所じゃ。お主こそ、カジノやらポーカーやらで遊ぶ人種に思えんのじゃが」


 晴嵐の疑問に対して、ドグルは素直に首肯した。


「うん。普段、遊ばない。お金もあまり使わない。ちょっといいお酒とツマミ、嗜むくらいかな。今日は控えてる」

「なかなかいい趣味じゃな……」

「そう?」

「港の新鮮で旨い魚介を肴に、海や月を眺めながら一杯……ってのはオツなモンじゃな。向こうじゃ上物が中々手に入らなかったが、一人酒でも悪くは――」

「……向こう?」


 うっかり滅亡世界の事を口にしそうになり、慌てて口をつぐむ晴嵐。崩壊した世界でも、いや崩壊したからこそ、酒類に頼ったり嗜んだりと重宝したものだ。そんなことを話す訳にもいかないので、話題を別に振って誤魔化した。


「で……一人酒を飲む時間を蹴って、どうしてドグルはここに? 大会っつっても、参加は自由とレオは言っていたが」

「今日は、特別。多分ほぼ、全員参加」

「強制か?」

「ううん……もしかしたら今生の別れになる、かもしれないから。だったら最後ぐらい、参加する」


 不意に飛び出した重い単語に、晴嵐は数度まばたきをした。確かに、人間いつ死ぬか分からないものだし……私掠船の稼業を考えれば、生命の危険は言わずもがな。なのに『改めて』それを意識せざるを得ない何かがある? 問いただそうとした直後……聞き覚えの有るやかましい声が、カジノホール全体に響き渡った。


『あーあー! もしもーし! 聞こえてるわね! ただいまより、アタシことレオ主催のポーカー身内大会を始めるッ‼ ルールはシンプル! これより二時間ほど、規定のチップ数を持ち寄り、アタシら身内テーブルのみで勝負を行い、最終チップ量を競うだけ! チップ上限とレートは――』


 カジノ受付にて……多分こちらで言う所の『マイク』に該当する器具、あるいは魔法を借りているのだろう。拡声器めいた反響音が全体に響き渡った。

 相変わらず豪快で、態度にも遠慮がないレオ船長。いきなりの宣言だが、彼が遊んでいるテーブルの面々も……目の前の勝負を進めつつ耳を傾けている気がした。邪険にする様子はなく、むしろ戦意を掻き立てられているような印象だ。


『毎回の事だけど、飛び入り参加や部外者も歓迎よ! 腕に自信ある奴も! アタシから身ぐるみ剥いでメチャクチャにしたい奴も! ちょっとしたお祭り感覚の奴も――遠慮なんていらないわ! みんなまとめてかかってきなさい‼』


 ……途中の一文が何かおかしかったような気がするが、聞かなかった事にしよう。しかし、この行動を黙認しているカジノ側はどうなのだ? 彼の抱いた疑問は、あっさりと覆される事になる――


「……来たか」

「ふはははは……! 今日こそお前を超えてみせるぞ! レオッ‼」

「すまないディーラー、この勝負が終わり次第チップを規定金額になるように預けさせて欲しい」


 他のテーブルでポーカーに興じていた奴らが、演説一つに触発されて動き出す。彼らの目線は一点に集中しており、すべてレオが占拠したゲームテーブルに向いていた。


「あれは……乱入者か?」

「そう。乱入の常連者。レオ船長は来る日、ランダムだけど……ポーカーのプロフェッショナル・プレイヤーは、ほぼ毎日野良試合で腕を磨いている」

「……遊んでいるのではなく?」

「常勝できれば、収入になる。ポーカーの腕一つで、生きていける」


 崩壊前の……プロゲーマーのような物だろうか? あちらよりはより、直接的なゲームで賭けているから、少し毛色は違うかもしれない。ただし、多くの人にとっての娯楽を真剣に極め、結果として収益を得る生き方は類似しているかもしれない。ゲームを遊びにしなかった人間とも言えよう。しかしだからこそ、晴嵐には分からない。


「にしたって、身内大会に乗り込む動機は? 普通にそのまま、ゲームを続ける選択肢もあると思うが……」

「船長、ポーカー強い。船のみんなも度胸あるし、船長に付き合っている内に、強くなったメンバーもいる。その大会に飛び込んで勝てれば、箔がつく」

「……なるほど」


 身内大会と気楽に構えていたが、少なくても箔が付く程度には有名らしい。亜竜自治区の武人祭、そのポーカー版の主催者か。となると……


「レオ船長は……どれぐらいの強さじゃ?」

「ん……ブラフ、ほとんど見抜く。勝てると踏んだら、平気で破滅しかねないほどのにチップを積む。ついたあだ名が獅子心臓ライオンハート……」

「命名した奴、センスがあるな」


 ライオン型の獣人、レオは……頭がピンクな所もあるが、クソ度胸には違いない。己との戦いや、敗北の恐怖が脳裏にちらついても、平然と笑って前に踏み込むであろう事は想像がつく。このテキサス・ポールデムに置いて、強心臓は優位に働く面もあるだろう。


(……全く、そんな二つ名持ちの癖に、初心者のわしを誘うんじゃない)


 内心愚痴りながらも……だからこそ、レオに一泡吹かせてやりたい気持ちも湧いてくる。晴嵐もこの場を切り上げて、身内大会のテーブルに向かった。

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