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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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ショーダウン

前回のあらすじ


場の札が出そろい、それなりに強い手が入った晴嵐。圧力をかけてくる対面に、不安がちな晴嵐の心がざわめく。ヒリつく感覚に、なるほどレオが好きそうだと納得しつつ……まずは己の読みが正しいかどうかを見るため、無難な賭け金で勝負を成立させた。

 ポーカーでチップの積み合いが終わり、二人以上の参加者が残っていると……いよいよ勝敗は手役の強さで決定する。伏された手札をすべてのプレイヤーが公開する事、これを『ショーダウン』と言うらしい。順番は最後に上乗レイズをした人物から。今回の場合、四枚目の公開札、13がオープンしてから押してきたプレイヤーからだ。

 ゆっくりとまくられる二枚のカード。強気な姿勢を崩さずにいたプレイヤーの顔には、確かな自信が伺える。まだブラフを継続しているのか、それとも本当に強い手が入っているのか……

 秘匿された二枚のヴェールがめくられる瞬間に、晴嵐ともう一人のプレイヤーも、場を取り仕切るディーラーも……そして周囲のギャラリーの視線も注がれる。カジノ故に周辺は騒がしいはずなのだが、張りつめた空気が雑音をかき消すかのようだ。そんな中で聞こえるのは、カード二枚が擦れる音と、役を宣言する声だけだ。


「――二枚二組ツーペア


 公開された伏せ札は11が二枚……13が公開された段階で押してきたが、恐らく他のプレイヤーが消極的と見て圧力をかけたのだろう。13を握っているかのようなブラフをかけていたが、最低保証の11の一枚組ワンペアを自前で確保している。ビビって降りてくれればそれでよし、勝負になっても弱い相手なら十分潰せる。そんな手だ。

 次は晴嵐の隣、苦しみながらついてきていたプレイヤーだが、ため息と共に公開した。


「……一枚組ワンペア


 手札は12と1……ポーカーでは1が最も強く、12は三番目の強さだ。これも初手としてはかなり良い手だが、盤面がゴミ過ぎて『公開された2の二枚しか』役を作れなかったのだろう。苦悶していたのは、自分と同じように相手の手札が『盤面に出た2のワンペアしか持ってない』状況なら……1の札の分の強さで、勝ちを拾える可能性があったからだろう。残念ながらこのプレイヤーの敗北は、この時点で確定した。

 後は晴嵐の番。勝者は強気に迫っていたプレイヤーか、それとも彼なのか……周囲に促された晴嵐は、軽く息をついて手札を公開する。どうしようもなく弱い、2と7で構成された手札を。


三枚組スリーカード

「あぁ、やっぱり? って事は13が二枚――」

「いや違う……!」


 僅かにどよめきが聞こえる。特に対戦相手の動揺は大きい。恐らく晴嵐は、13を二枚握っていると想像していたのだろう。

 ところが、明かされた手札は……とても勝負に出るような札ではない。三枚組の完成だって最後の最後。他のプレイヤーにとって、完全な意識外の手札だ。こんなどうしようもないゴミ手で、初手からゴリゴリに押してきているなど……完全に想像外だったのだろう。

 自分たちに近い手札を予想していたものだから、ますます混乱している。交互に晴嵐と手役に視線がいき、その目線には正気を問うような意志が見え隠れしていた。


「この勝負……2の三枚組スリーカードが最も強い。彼の勝利です」


 場を取り仕切るディーラーが宣言し、今まで積まれていたすべてのチップが晴嵐の所に押し込まれる。六人分の参加費、これまでに降りたプレイヤーが途中まで積んだ物、そして勝負に挑んだ二人分のチップすべてが晴嵐の所へ押し込まれた。


(――……これは)


 読み勝った感覚に、何倍にも増えた自前の資金。目も眩むような高揚感が脳髄に走る。道中のスリルも含めて、夢中になる奴が出てくるのも分かる気がする。事実中々いい気分だが……同時に、晴嵐は自らの失敗を戒めた。

 相手がこちらの手札を誤認していたのだから、最後の場面はもう少し上乗レイズを仕掛けて良かったかもしれない。相手が『自分たちに近い良い手札だろう』と勝手に想像していたのだから、チキンレースを仕掛けるのも選択肢だった。負け筋が少なかったのだから、勝負のうま味を増す立ち回りも良かった。


(相手の手札が分からなかったのもあるが……いや、これは結果論か? それとも……わしの練度が足らんだけか?)


 自分に経験値が足りていないと自覚し、これを成功体験にするのはマズいと判断。高揚感はあるが、数度の深呼吸で興奮を鎮める。次のゲームに移り、配られたカードは……


(スペードの10と11……悪くない)


 絵柄統一・五枚連番の両方を見れる上、数字自体も後半。十分勝負に出ていい手札だろう。またしても初手から上乗レイズを宣言し、参加費用を吊り上げる晴嵐。今度は自信があるが、周囲のプレイヤーは……誰一人降りなかった。


(――……なるほど)


 先ほどはゴミ手で押した晴嵐。今回も続けざまに強気な行動を見て『またブラフではないか?』と疑念を持たれている。コイツは先ほど弱い手で押してきたのだから、味を占めて同じような事をしているのではないか? と。

 全く馬鹿馬鹿しい。その前の二回は、弱い手を引いて即降りしていたのを忘れたのだろうか? 恐らく言われれば思い出すだろうが、今この瞬間は忘却している……のだろう。人間は直近に起きた印象の強い事を、強く記憶し、引っ張られてしまう生き物なのだから。

 だが心理戦やギャンブルにおいて……この発想、この思考パターンは非常に危険だ。以前はこうだったから……なんて思い込み、あるいは思考停止は、そっくりそのまま仕掛ける側にとって『狙い撃ち』にする動機になる。


(場の札次第で立ち回りを変えるが……さて)


 相手が勘違いして、踏み込み過ぎてくれるならそれも良し。だが、これから公開される場の札次第では、今度はこちらが負ける可能性だってある。一歩間違えれば、目の前にいる負け癖思考の奴らに、自分自身もなりかねない。

 飲まれないように。けれど怯えないように。晴嵐は人とカードを睨みながら、着々とテキサス・ポールデムの経験値を積んでいった。

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