最後の駆け引きと
前回のあらすじ
早速ポーカーに興じようとする晴嵐だが、二回連続でゴミ手を引いて即降りした晴嵐。三回目は良い手が来るだろうと思いきや、今までで一番酷い手が来る。また即ゲームを降りようとしたが、逆張り気味にチップを積み圧力をかける。二回の消極行動からの強気に、他の弱いプレイヤーを降ろす事に成功する。盤面が進む中、最後に明かされる一枚は……
――本当に、運命と言う奴は分からない。最後にめくられた札を見てそう思った。
最後の一枚はダイアの2……これで晴嵐のクラブの2と合わせて、三枚の2のカードが揃った。三枚組の完成である。もう片方のスペードの7は完全に死に札だが、この役は決して悪くない。一組や二枚二組までなら一方的に勝てる手札だ。ここでもう一度、場のカードを確認しておこう。
ハートの2、スペードの5、クラブの6、クラブの13、ダイアの2
伏せられた相手の手札が二枚な以上、絵柄統一は警戒する必要なし。五連番は少し怖いが、手札に3と4を握っている場合限定で成立する役だ。この場合、最初の場札三枚が明かされた時点でストレートが確定している。そんな強い手が早期に入っているなら。がっつり仕掛けてくるだろうし……何より晴嵐は、初手二枚のタイミングで強気に押した。圧力に負けず、3と4で勝負できる人間は少ないだろう。この可能性も軽視していい。
(問題は……他の奴らがわしより強い三枚組か三枚二枚組を保持しているかどうかか)
晴嵐の負け筋は、相手が『5を二枚』『6を二枚』『13を二枚』握っているパターンか、相手も『2を持っていて、もう一枚が7より上』の状況だろう。確率論で言えば……晴嵐が負ける率はかなり低い。
もう2はスペードの絵柄しか残っていない。加えて初手にかけた晴嵐の圧力もあるから……確率的にも心理的にも、2を握っている可能性は低いように思える。
他にも5、6を二枚握っているなら……これも初手で三枚組が完成し、現在は三枚二枚組な訳だ。最初の三枚が公開された時点で、強気に動く事も出来た筈。懸念点があるとすれば――13が落ちた時、やたらと強気に押しているこのプレイヤーだ。
「上乗!」
またしてもチップを積んで、晴嵐と手前のプレイヤーに圧力をかける。さも『自分は13を握っている』と言わんばかりの態度で悩ませてた。
晴嵐より早い手番の、迷い悩んでいるプレイヤーは……多分だか脅威にならない。恐らく初手が良かったのだろうが、場札が明かされてみれば悉くゴミ。最後の一枚にも望みを賭けたが……多分、外れてしまったのだろう。これなら場の2を二枚で一組止まりもあり得そうだ。
弱いフリ、迷うフリしている可能性。名演技で13二枚を隠し持って、対戦相手がチップを積み上げてを待つのは……些か消極的だ。この盤面で三枚二枚組が組めているなら、ほぼほぼ勝ち確定レベル。晴嵐の三枚組でさえ、盤面の酷さを考えれば……相対的に見て強い方。派手に上乗する以外なら、勝てると晴嵐は確信している。もし晴嵐の想像通り、この場面で弱いならば……彼なら降りるだろう。しかし
「……同額」
絞り出すような声で、名残惜し気にチップを差し出す。これもこのルールの恐ろしい所だ。
合計五回の間にチップを積むものだから、後半になればなるほど、累計の出費が多くなる。積み上げた掛金の重さに後ろ髪を引かれ、あるいは投げうった金額に意味を持たせようと、ずるずると撤退できずにチップを落としてしまう……滅びた世界の単語を転用するなら『損切りが出来ない投資家の心理』に似ているだろう。
さて……晴嵐の手番が来た。
同額で勝負するか、チップを積むか、はたまたここで降りるべきか――
(わしより強い可能性は低い、が……)
あるとすれば、13を二枚握っている可能性……一度はブラフとも考えたが、相手の手札が見えない恐怖が、否応なしに敗北の想像を脳裏によぎらせる。それが幻影か真かを自らの感覚と読みで見抜き、自らの手札と場札を照らし合わせ、勝負するか否かを決める――
間違いなく対戦ゲームではあるが、このテキサス・ポールデムは己の心も試される。どれだけ計算や確率を絞った所で、最後の決断を決めるのは自分自身――
降りる事は早々に蹴った。最後まで分からないが、勝てると踏んでいる。だか確実に勝てるなら、ここでさらに晴嵐は賭け額を上げるのが正しい判断だ。
脳裏にちらつく、敗北の可能性。
勝てる、行けると囁くのは、果たして理性か、勝利への渇望か。自分自身の中で暴れる激情に……気づけば、晴嵐は笑ってた。
なるほど。確かにこれはヒリつく。スリルを楽しむ気質のレオがハマる訳だ。チップに伸ばした手を握り……彼は宣言した。
「同額」
引くのでもなく、押すのでもない。妥当な判断かも微妙な所だが……これはまだ経験が浅いからこその判断だろう。晴嵐自身が、自分の読みや立ち回りが正しかったのか……それを確かめるには、下手に上乗して相手をゲームから降ろすのはマズい。降りたプレイヤーの手札は明かされないのがマナー。ひたすらチップを積んで押し切る勝ち方もあるが、それでは相手の手札が見えない。正解を知るための、釣り合いを取るための同額宣言だった。
すべてのベットが終わり、すべてのカード、すべてのプレイヤーが決定した。後は、場に残ったプレイヤーが、順々に手札を明かす番である。ショーダウンと言うらしいが・・…まずは13が場に出た時から、強気に出てきていたプレイヤーが手札を公開した。




