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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編
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テキサス・ポールデム

前回のあらすじ


支給品のマスケット銃を晴嵐に渡した後、レオが連れて来たのはカジノだった。彼女たちの私掠船団は常連らしく、一、二時間後にポーカーの身内大会を主催すると言う。降りれない気配の中、レオが晴嵐に貸し出そうとするのを上手く断り、まずはゲームの流れを掴むためにけんに回った。

 意外かもしれないが、終末世界でもポーカーに興じる輩はいた。

 滅びゆく世界では……電力を使った娯楽は贅沢品になってしまった。しかし人間、気を張り詰めてばかりでもいられない。特に集団を形成した者達は、休息の時にアナログな娯楽を求めたのである。

 チェス、将棋、オセロなどのボードゲームも好きな奴は好きだったが、やはり一番はトランプだ。52枚で一組のカードで、様々なルールのゲームが楽しめる。ババ抜きに大富豪、スピードに七並べ……そしてポーカーも対応していた。


(他のゲームは学生時代に、修学旅行とかで世話になった奴もいただろうが……わしはポーカーの経験値がほとんどない)


 それもそうだろう。基本一人で生きて来た晴嵐は、対戦ゲーム自体の経験値が少ない。農場の時に多少は遊んだ記憶もあるが……せいぜい賭けたのは晩飯や、価値の失った紙幣を使ってチップの代わりにしていた。そんな半端なお遊戯で、ポーカーの醍醐味は語れはしない。このゲームの最大のキモは『チップの駆け引き』にある。

 ゲームとしては『五枚の手札で強い役を作る』のが目的だが、単純にそれだけで勝負は決まらない。相手と自分で『チップ』を積み合い、釣り合わせて初めてカード同士での勝負になる。本当は弱い手なのに大量にチップを積んでビビらせ、相手の戦意を奪い勝負の舞台から降ろす……なんて戦術も可能だ。


 幸い、役とその強さはテーブル脇に一覧が乗っている。やっている内に覚えられるだろう。問題はゲームの推移。晴嵐の知っているタイプは、五枚の手札を配り、一度だけ任意の枚数分だけカードを交換するルールだった。ところがホーカーはルールのバリエーションも多い。賭けや心理戦を題材にした作品でも、アレンジされたポーカーが存在し……それを含めたら『大富豪』並みではないか?


(わしも付き合いで、少しだけ触った事はあるが……このルールは初めて見る)


 確かレオは『テキサス・ポールデム』と呼んでいたか。このポーカーの最大の特徴は――『手札の交換が無い』事だ。

 まず最初に、すべてのプレイヤーに『伏せた状態でカードが二枚配られる』……これは完全に非公開情報で、配られた本人だけが知る事が出来る。自分の手札二枚は分かるが、対戦相手の二枚は分からない。その後は『計五枚が順々に全体に公開され、共有された場のカード』となる。

 たったの二枚、されど二枚。各々に配られた秘匿された二枚と……全体共有された五枚のカードで役の強弱を競うゲームのようだ。


 完全に天運に任せたゲームではないか……と思うだろう。事実プレイヤー側に、配られた手札や役へ干渉する方法は無い。しかしだからこそ――ポーカー特有の『チップの駆け引きや相手への読み』の比重が非常に大きい仕組みとなっている。何せ最初の賭けるタイミングは『自分だけが知る二枚を配られた段階で』なのだ。


(最低分の五枚も見れないうちに、いきなりここでベットがあるのか……)


 ポーカーは五枚のカードで、最終的な強さが決まる。なのに『まだ二枚しか確定していない』段階で、勝負を始めろと言うのだ。

 最初の二枚で強いカードや組み合わせを引けていても、その後公開されるカード次第では……最終盤面で弱くなる。かといって初手が悪いのに、最初の段階で大量に賭けてチップを積むのは怖い。


(この段階で性格が出るし、選択肢も多いな……)


 初手の強さを盾にしてゴリゴリに押す者もいるだろうし……逆に初手の弱さを隠してブラフを張る、そもそも勝負にならないと二枚の段階で降りる、強い札だろうと弱い札だろうと、とりあえず五枚出るまでは様子見する……などなど、あまりにも択が多い。

 そして次に、場の三枚が公開され、最低限の役が決定してから賭け、追加の一枚、四枚目が開かれてチップを積み合い、そして五枚目……最終的な役の強さが決まりきったタイミングで最後のベットがある。ゲームへの参加費も含めれば、合計五回の出費を経てようやく『一勝負』が成立する訳だ。

 場の流れ、ゲームの流れを雑に理解した晴嵐だが、最初に抱く感想は一つ。


(これ……初心者にやらせるゲームじゃないだろ……)


 この『テキサス・ポールデム』のルールは……手札交換こそ無いが、最初に配られる秘匿された二枚、順次に公開される五枚の場札、そしてチップの賭けのタイミングによって、心理戦と読み合いのゲームとして成立している。

 役の強弱はどちらかと言えば表層。要素の一つではあるが、主題はプレイヤー個々の選択と、それに対する応対。最低限は把握した晴嵐は、適当なテーブルに腰掛けた。

 まだ空席があるので、ゲームは始まらない。他の面々の顔つきを見ながら、ふとある事に思案が行く。


(名称について、どう思っておるんじゃろうなぁ……)


『テキサス』ポールデム……詳しくは知らないが、確かテキサスはアメリカのどっかの都市だったと記憶している。他にもレオと話した時『ロシアン』ルーレットと発言しても自然に受け入れていた。

 所どころに出てくる地球の地名。こっちではもう『名称』として定着して、誰も気にしていないのか? 煮え切らない気持ちはあるが……そんな事は、一通りこのイベントを乗り切った後で良い。

 どうせ金や時間を使うなら、せめて有意義に真剣に使いたい。一つ息を吐いた晴嵐は、集まった人と配られた手札に目をやった。

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