表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

721/739

スリル溢れる場所へ

前回のあらすじ


晴嵐はレオとの初遭遇時の事を思い出す。彼女から奪ったリボルバーが発射出来なかったが、あれは『セーフティー』の影響とレオに問う。回答は得られなかったが、晴嵐を一般人カタギと判断したのはこの時のようだ。イかれたリスクを好むレオは、もう一度ひりつく勝負がしたくないかと晴嵐を誘う。

「どこに連れていくのかと思いきや……はぁ」


 何度目かのため息に、レオが少し拗ねて頬を膨らませる。ずっと不機嫌な晴嵐に対し、ノリが悪いと言いたげだ。……だったらその強引さ、少しは控えて欲しい。心から男はそう思った。

 秘密の工房から足を運び、港町を進んで十分ほどの位置。派手に輝く明かりと巨大施設は――こちらもまた、晴嵐は創作物の中でしか見たことのない。何せ日本では違法だったし、オンラインでやっている奴らもバシバシ取り締まられていたから。


「よりにもよってカジノか……ロシアンルーレットはせんからな?」

「それもスリルあって楽しいけど……公共の場で出来る訳ないでしょ?」

「まるで『やった事ある』ような言い方じゃな……」

「ふふふ……ナイショ」


 意味深な言い方だが確信する。この女、間違いなくロシアンルーレットの経験者だ。全く困った奴である。半ば無理やり連れられる形で、晴嵐も賭博場に足を踏み入れた。

 ――港町と同じく、大規模な賭けの場も、世界を跨いだ所で雰囲気は変わらないらしい。やたらと大きな音量、煌びやかな照明、外でひもじい顔して俯く敗北者ルーザーに、上品なスーツを着込んだディーラーが場を取り仕切っていた。

 ……古い日本を土台とした『東国列島』とは思えない光景である。船乗りが利用するのもあって、洋風文化に合わせたのだろうか? 周囲に視線をやる晴嵐と同じように、レオもまた目線を泳がせていた。


「まだちょっと早かったかしら……」

「早い?」

「あと一、二時間ぐらいしたら……アタシらスカーレット私掠船の面子で『テキサス・ポールデム』の身内大会開く予定なの」

「貸し切りで全員参加か?」

「希望者だけだし、店側にそういうルールも無いから、飛び入りも歓迎してるわね。だからセイラン、降りてもいいわよ?」


 煽るような表情と言葉だ。どうせ逃がす気などないクセに……内心思いながらも、実は晴嵐にとってこれは窮地だったりする。


「逃げる気はないが……ルールをよく知らん」

「うっそ⁈ そんな事ある⁉」

「ポーカーはなんとなく分かる。じゃが『テキサスポールデム』の方は分からん。初めて聞いたわい」

「なら、数回はけんに回ってから……レートの低い台で遊ぶといいわ。知識だけでも、経験だけでも上手くいかないゲームだもの」

「そんなのに初心者を突っ込むなよ……」

「ビギナーズラックってあるでしょ? それにアンタならすぐ適応するわ。これは賭けてもいい。だから――ちょっと待ってなさい」


 すっかり顔なじみなのか、気さくな様子でカウンターに向かうレオ。彼女が懐から金を出し、代わりに……これまた創作物の中で見たような丸いメダル、いや『チップ』が渡された。そのまま晴嵐を手招きして、彼女が山の半分を分けようとする。


「はい。アンタの分ね」

「おいおい……店員の前じゃろ」

「おかしなレートで分けあったり、譲渡するのはダメだけど、文句の言われない範囲でなら大丈夫よ。ね?」


 ちらりと流し目だが、ホールスタッフは苦笑気味だ。本当は良くないのだろうが、レオの一団は上客なのだろう。船団丸ごと利用してくれるなら、カジノ側としても軽視できない客か。

 ……レオなりに晴嵐に気を使ったと見える。ほぼ拒否権無しにカジノに連れられ、自分の金を投じろと命じられては、誰だって反感を抱くに決まっている。だから最初の分はおごろうとする……そういうのは嫌いじゃないが、晴嵐はやんわり断った。


「気持ちはありがたいが、ちゃんと自分の財布から出させてもらう」

「え? やっぱり降りたくなったの?」

「違う。心理的なツケになりそうだからやめておくって話じゃよ。タダより高いモノは無いと言うだろう?」

「アンタそういうの気にするの? 細かい人ねぇ……」

「無意識に影響するかもしれん。加えて一、二時間後には船団巻き込んで勝負するんじゃろ? そしたらお主ともやり合う場面が出てくる」

「そのつもりで誘ったもの」

「だったら分かるじゃろ? 対戦相手に借りを作った状態で挑みたくない」


 素人の晴嵐だが……ポーカーにおいて、心理の綱引きが行われるのは間違いない。ならば勝負の前段階で作った『借り』は、後々の勝負に悪影響をもたらしかねない……晴嵐はそう判断した。

 レオとしては、せっかくの親切を蹴られた形になる。だが彼女は機嫌を悪くする様子はなく……じっと晴嵐の内面を観察するような目つきをしていた。細めた瞳孔の真意を見抜こうと、晴嵐もまた彼女と目を合わせる。……読み切れなかったが、レオなりに納得はしたようだ。


「ふぅん。ま、それも考え方ね。あ、それと一応言っておくけど――」

「貸し借りを作る気で申し出たことではない、じゃろ? 海上ならともかく、誘ったゲームの場でみみっちい事はせんよ。お主は」

「よく分かってるじゃない! ま、こっ酷く負けたら、一回ぐらいは補填してあげるわよ。それが嫌なら、実力でどうにかする事ね」

「酷な事を言う」


 事前に支給された給金も、少なくはない。豪遊は無理でも、慎重に立ち回ればしばらく遊べる額はある。彼もチップを交換してから、これから身を投じる賭けの舞台の観察に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ