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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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駆け引きと誘い

前回のあらすじ


レオが引き金を引くが、発射できなかった『悪魔の遺産』……それを晴嵐が使うと、弾丸を放つことが出来た。その理由は「登録した人物か、その血縁者で無ければ発射できない」加工を施されていたから。ユニゾティア流のアレンジが施された銃器に思案を巡らせると、過去のある場面が思い至った。

 レオ・スカーレッドと晴嵐……今は協力者として話し合えているが、二人の初対面は緊迫していた。晴

 嵐は運悪く海賊船にフッ飛ばされ、弁明の時間も無く戦闘に巻き込まれた。ヒルアントと近接戦にもつれ込み……距離が出来た所でレオは晴嵐を銃で脅した。ところが一瞬の隙が生まれ、逃さずレオを拘束し人質に取った。それが二人の初対面である。思


「ちょっと待てレオ、って事はあの時――」

「アンタに荒々しくハグされた時の事?」

「…………もうそれでいい。あの時にお主のは……弾切れじゃ無かったのか!?」


 彼女のリボルバーを頭に突きつけた場面。その後マルダが狙撃を行うも、ヒルアントの視線で察し、避けた晴嵐。咄嗟にレオから銃器を奪い、引き金を引いたが発砲出来なかった。

 てっきり弾切れかと思っていたが……『セーフティー』がかかっていたなら、晴嵐では使えない。現にレオは『晴嵐の銃』の引き金を引いても作動しなかった。ならば逆も然りだろう。レオの『リボルバー型の悪魔の遺産』を、晴嵐が使おうとしても不可能だった……と思いきや、レオの反応は少し違った。


「さて……どうかしらねぇ……」

「どうって……」

「実は……ちょっといい? 装填終わってるわよね?」


 彼の握っているマスケット銃は……話をしながら装填の工程をほぼ終えている。着火用の輝金属をずらした所で、レオの手が晴嵐の手と重なった。

 二人で一つの銃を構える形……そう、これは『レオの手を抑え込んで、晴嵐が銃を突きつけていた』場面に近い。引き金の指先に晴嵐とレオの手が重なり……彼女がゆっくり引く気配を見せたので、大人しく彼は従う。すると――『弾丸は発射』された。


「……セーフティーで撃てないんじゃなかったのか?」

「『悪魔の遺産』を使う時って、いちいち念じたりしないでしょ? 無意識レベルの思念を感知して作動する仕組み。だから登録者が、ちょっとでも本体に触れていれば撃てる」

「………………」


 改めて冷静に考えれば……あの状況、リボルバーに弾丸は装填されているだろう。

 理由は二つ。直前まで晴嵐を脅すのに使っていた事。もしも隙が生じる前に、晴嵐が少しでも下手な事をする気配を見せたらならば、レオが晴嵐を撃つのは確実。やられる前にやるのは戦闘の基本だ。空の銃を突きつけていたとは考えにくい。

 他にも『セーフティー』の機構自体は、レオの私掠船クルー全員が知っているだろう。新入りの晴嵐に支給し、説明までしているのだ。他クルーが知らないのはあり得ない。

 だから、晴嵐がレオの銃を突きつけた場面で、安全装置が機能しているなら……脅しは脅しにならなくなる。ヒルアントあたりが鼻で笑って、機能していない人質と取り返しに来ただろう。


「お前……あの場面で命をベットしてやがったのか?」


 つまり……彼女を人質にした時は、発砲もあり得る状態だった。

 頭まっピンクの発言の数々が、あのふざけた態度が『次の瞬間にはられるかもしれない』可能性もあったと? 弾切れと知っていたからならまだ分かるが……呆れる晴嵐に対して、レオは素直に言わなかった。


「教えてあげなーい」

「……は?」

「だって、答え合わせなんて面白くないじゃない。あの時撃てたかどうかを知りたかったのなら、アタシの頭をフッ飛ばす覚悟で、引き金を引くしかなかったのよ」


 突然の拒否に驚く晴嵐。言い方も煽るような口調だ。一瞬だけ頭に血が上ったが、すぐに気を落ち着かせる。

 ……レオの主張にも、一応の道理はある。実行し得なかった『もしもの可能性』なんて、夢想するだけ虚しいのも晴嵐は知っている。無理筋は承知で軽く食い下がった。


「無茶を言うな。それしたら、他のクルーにわしが殺されるじゃろ。ただの乗客が負うリスクとは釣り合わん」

「なら、それを結果と受け止めるしかないでしょ! 『もしも』なんてウジウジ考えるぐらいなら、せめて後悔の無い選択をするしかないのよ。人生なんて」

「…………そうじゃな」

「あれ? セイラン? 何よ神妙な顔して」

「教えんよ」


 レオの言葉が妙に刺さる。交換屋トレーダーとして、中立気取りで、大きな組織に属さなかったツケ……胸の奥にしまった古傷が疼いたが、レオが秘密にしたように、晴嵐もまた明かす気はない。誤魔化しも兼ねて、獣人娘に切り返した。


「じゃが……今の会話で分かったよ。わしが『絶対に撃てないお主の武器』の引き金を引いた瞬間……お主はわしを一般人カタギと断定した訳じゃな」

「まぁね。海賊だったら『セーフティー』の事知ってるし……自慢になるけど、アタシ達の所って大手だから。アタシと刺し違えてもお釣りが来るのよ」


 なんとなしの想像だが、海賊共にとって『強い私掠船団』は目の上のたんこぶ。荒くれ者にとっての、賞金首のようなものだろう。金が入らないにしても名声が得られる……か。


「ケッ! にしたって確信持ったのは最後の最後じゃろ。直前の言動が狂っとるわ! よくもまぁ、頭ピンクな言動が出来るもんじゃな!」

「ヒリつく勝負って最高じゃない?」

「いや全く。わしは安全第一、命が一番大事なんでね」

「よく言うわよ、アタシの船に飛び込んでおいて」

「リスク・リターンをわしなりに考えた上で、これで良いと思った取引をしとるだけだ」


 レオがやれやれと首を振り、晴嵐も悪態をく。二人の価値観はとことん合わないらしい。淡々と三発目を装填する彼に、獣人娘が笑いかけた。


「ねぇ……もう一回、ああいうヒリつくやり取り、したくない?」

「…………殺し合う気か?」

「まさか。イイとこあるのよ! もう何度かソレを試射したら付き合いなさい!」


 ……拒否権は無さそうだ。本気のため息が晴嵐の口から漏れる。進んでスリルを味わいに行く奴の気は知れないが……ここ最近、少し温い空気に触れ過ぎた面もある。そんな風に、なんとか自分に言い訳して、レオについていく己を納得させた。

 なお、火薬と鉛玉の支給は後、本来は銃器の持ち出しも制限されているため、晴嵐は未装填状態で『支給された悪魔の遺産』を持ち運ぶことになった。

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