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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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秘密の工房

前回のあらすじ


操舵室に行くと、レオの方も晴嵐に用があったらしい。陸に上がった後、彼女に同行するように命じられた。手荷物を整理し、他の面々が武器を置いて上陸する中……レオは晴嵐を呼び出した理由を、支給品があるからだと言った。

「お邪魔するわよ!」


 まだ深夜帯では無いとはいえ、夜間に大声と共に扉を開くレオ。常識知らずな……と眉根を寄せる晴嵐だが、中に入ってすぐその理由は分かった。

 工房だ。何らかしらの金属を加工する場所だ。周囲は常に金槌の音と、熱された金属の匂いがする。晴嵐に覚えがあるのは、聖歌公国の首都で『ゴーレム工房』に出入りしていたから……近い雰囲気を感じたのだろう。

 そして、レオの声に職人たちが驚く様子も無い。作業に没頭しているか、もう慣れてしまっているのか。大音量の中で作業する彼らの耳に届けるには、声を張るのはむしろ必須。特にお咎めも無しに、強面こわもての男性が無言で手招きした。


「仕上げ以外は終わってるみたいね。流石だわ」


 彼女がここに来るのは、きっと初めてではないのだろう。港からこの工房に移動するまで迷いも無かったし、初対面なら気を使う。……レオに限っては遠慮しないかもしれないが、それでもここまで堂々とはやらないだろう。

 冷静に観察するだけでも、集められる情報はある。だが同時に限界もあるからして……まだ何の説明も受けていない晴嵐は、我慢しきれず彼女に詰め寄った。


「レオ、いい加減教えてくれんか? わしに何を渡す気じゃ?」

「アンタも知っている道具よ」

「まだ引っ張るのか?」


 もっと詳細を……と問いただそうとした直後、身を竦ませる炸裂音が響いた。確かにこの音は知っている。そう――『火薬が爆ぜる音』だ。

 ぴくりと肩が動いた晴嵐に、レオがニヤリと笑って奥に進む。その先で待ち受けていた物は――『悪魔の遺産』だ。

 海賊や私掠船の面々が使う『フリントロック式の銃』が一丁、大仰な装飾の台座上に置かれている。すぐにレオが手に取って、その武器を見分しながら晴嵐へ話しかけた。


「ごめんなさいね。本当はもっと早く支給したかったけど……私掠船の生活が合わない人もいるから、すぐには『コレ』を渡せない決まり。それに、ヒルアントあたりもゴネそうだったから」


 それも仕方ない。モノがモノなだけに、おいそれと渡せる武器じゃないのも確か。彼女が明言を避けていたのも、万が一にも一般人に聞かれたくなかったから……かもしれない。レオが台座に置き直した武器の名称を、晴嵐も呟いた。


「『悪魔の遺産』……」

「それもアンタ用よ! ふふ、驚いてる驚いてる!」

「お前、わしをからかうために黙ってたのか?」

「さぁ何のことやら」


 からかわれて冷静になった。先ほどの思考が過ちと気づく。外に聞かれたくないなら、船内であらかじめ内容を伝えておけばいい。私掠船の上でなら身内しかいない。その環境をスルーしている時点て確信犯。全く困った船長だ。

 二人の会話を、武器を製造した職人は何も言わない。周辺からも発砲音が聞こえるし、それに動揺もしていない。つまり――


「ここは……この工房は『悪魔の遺産』を量産しておるのか?」

「そうよ。なぁに? もしかして『コレ』が畑にでも生えていると思ってた?」

「……基本、生産や所持が禁止されていると聞いていたが」

「唯一の例外が『東国列島』よ。背景は……色んなトコ巡って、お勉強しているアンタなら察しが付くでしょ?」


 男は頷く。

 ユニゾティアで忌避される兵装『悪魔の遺産』は、千年前の地球人に持ち込まれ、こちらの世界の住人に強いトラウマを植え付けた。しかし『東国列島』だけは『千年前』の被害が少なく、メンバーの中には帰化した人物もいたと言う。この国だけが唯一『悪魔の遺産』や『千年前の連中』に対しての悪感情が緩い。

 となれば……他国で恐怖の対象であろうとも、優れた武器である事は間違いない『銃』を、研究や製造する流れも不思議はない。これほど簡単に、便利に、人を殺せる道具もそうは無いのだから。

 だからこそ、ある事が不安になる。晴嵐はレオに問うた。


「流石に……一般には流しておらんよな?」

「詳しい法律までは知らないけど、工房はみんな許可制で……『既に所持している相手』とだけ取引が許可されてるって聞いたわ」

「そんな風に縛ったって、コッソリ法を犯す奴らもおるじゃろ」

「以外と少ないみたいよ? 技術探求が出来なくなる方が嫌みたい」


 職人にはありがちだ。より優れた道具を、より優れた武器を、己の手によって生み出したい……技術者特有の野心が、自然とブレーキになっているらしい。けれど問題が全くない訳でもなく……


「でも、こういうルールだと海賊とも商売できちゃうのよね」

「最初の一丁さえ入手してしまえば……か」

「中にはセイランの言った通り、出所不明の『悪魔の遺産』もあるから……工房側だって商売だし、海賊と私掠船の見分けがつかないから、それを咎めろってのも難しい話よ」

「弊害が出とるな……」


 金さえ出してくれるなら、職人はさして素性を問わないのだろう。加えて私掠船と海賊は、あえて分別が難しくなるよう振る舞っている。両方に武器が流れてしまうのは仕方ない事なのか? やりようはあるのでは……と揺れる目線の彼に、レオの鋭い眼光が返って来た。


「セイラン、そこから先は……出港後に話すわ」

「……了解」


 だから『ここ』では話すな……何らかしらの事情を察し、晴嵐はそれより先の言葉を飲み込む。ニコリと笑って返した彼女は、改めて彼を手招きした。

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