支給
前回のあらすじ
その後もしばらく、私掠船のメンバーとして過ごしていた晴嵐。ある日レオが『陸に行く』と言ったとたん、船員たちが歓喜の声を上げる。ほぼすべての船員にとって休息を取れる時間だが、そこでふと晴嵐の金払いについて気になり、レオに聞きに行く事に。
「セイラン! ちょうどいい所に来たわね!」
操舵室に晴嵐が入った途端、レオが開口一番にこのセリフを彼に吐き出す。彼女も給料について考えていたのだろうか? 急かさず続きを待つと、獅子の獣人は彼に命じた。
「上陸した後の事なんだけど、アンタはアタシに同行しなさい!」
「なんじゃ? 飲みの誘いか?」
これから私掠船は寄港し、船員たちは久々の陸を味わう。船長のレオも例外ではないと考えたが、彼女は豪快に笑って答えた。
「用事が済んだらそれもいいわね! でも別件があるの。大事な話よ」
それは高揚からだろうか。レオの視線に真剣さが宿っている気がする。晴嵐がそれを表に出す前に、彼女から次の話題を振られた。
「ところでアンタ、なんでアタシのとこに? それとも用事あるの別の人?」
「船長であっとるよ。その、あー……給料の話で」
「そこんとこ全然決めて無かったわね。タダ働きでいい?」
「ふざけるな」
「冗談冗談! ちゃーんと一般船員と同じ金額を、陸に上がった時に支給するから!」
まだ入れたてだから研修期間だと、給金を減らされても仕方ない……そう身構えていた晴嵐だけど、レオは特別視も軽視もしないようだ。この言いぶりだと、最初から研修期間を設けていないのかもしれない。豪放に笑う彼女を見てそう思った。
「さ、そろそろ陸よ! 貴重品はちゃんと持って出なさい?」
「お前はわしのお母か?」
「この船みんなのお母です!」
「若作り過ぎるじゃろ」
「それ誉め言葉だから!」
「へいへい」
軽口を交わしてから操舵室を離れ、手荷物を取りに船室へ行く晴嵐。ちょうどヒルアントも準備していたらしい。先に荷物整理をしていたようだ。
彼は『ある武器』を預けていた。なんでその武器を……と注視する晴嵐。彼の視線に気づいたらしく、エルフの彼がガンを飛ばし返した。
「何見とんのやワレぃ!」
「置いていって良いのか? と思っての。使える武器じゃろ?」
ヒルアントが収納するのは『フリントロック銃』……ユニゾティアで『悪魔の遺産』と呼ばれている武器だ。指先一つで遠隔攻撃を可能とする武器。持ち運べるなら、懐に抱えておきたいだろう。終末世界を生きていた頃も、彼はハンドガンを常に懐へ忍ばせていた。彼の抱く順当な疑問に、最初より軟化した口調でヒルアントが答えた。
「規則で置いていかんとアカン。楽に人を黙らせる手段が手元にあるのは、まぁ色々と良くあらへんからな。昔、酔った勢いで使う馬鹿がおったらしい」
「あー……」
殺人を簡略化する道具が手元にあれば、酒の勢いでついカッとなった時、ブッ放す事故が起きかねない……か。派手な浪費が認可されていれば、過剰なアルコール摂取で理性のタガも外れる人間もいるだろう。非公式とはいえ、国家組織の私掠船が事件を起こす訳にもいくまい。今度はヒルアントが彼に問う。
「つーかセイラン! お前は自前ンあらへんの? ワイと一対一の時に持っとったやろ」
「あれは海賊から奪った物で、その場で使い捨てたわい」
「ふーむ……」
エルフの男が視線を泳がせる。喉に小骨が刺さっているような、何かすっきりしないような……そんな表情だ。掘り下げたい気持ちもあったが、船内からまた大きな声が聞こえる。耳を澄ませても細かく聞き取れないが……多分『陸が見えた』のだろう。
「ままえぇわ。さぁてお楽しみの上陸や!」
「お主にとっても楽園か?」
「当り前や!」
役職関係なく、陸で派手に過ごすのは船乗りの楽しみらしい。命を削り合った相手でさえ浮ついている。さほど感情が揺れ動かない晴嵐でも、少しばかり期待してしまうと言うものだ。
「んじゃセイラン、せいぜいお前も楽しむとエェで!」
「そうさせてもらおう」
が、その前に……晴嵐はレオに呼びつけられている。羽を伸ばすにしたって、彼女との用事を終えてからになるか。手荷物の整理を終え、晴嵐も久々の陸地に上がった。
***
すっかり日の落ちた港町は、爛々と街灯に照らされて明るかった。
視覚的な『明るい』だけではない。港は船員たちがハメを外す場でもあったのだ。彼らが陽気なのは、普段の仕事から解放されたから……その側面もあるのだろう。
「さぁてセイラン! 行くわよ! ついてきなさい!」
レオも高揚を隠していない。彼女としても、セイランとの用事を済ませた後は休息の時間なのだろう。だからこそ彼も問わずにいられない。
「なぁレオ、わしをどこに連れて行く気じゃ?」
彼女は休みを差し置いて、晴嵐を指名し同行を求めた。上陸後は船員が自由行動に入るから、その前に呼び出すのだから……どうしても優先したい事柄があるに違いない。内容を聞かされていない彼としては気になる。しかし彼女は意味深な事を言うばかりだった。
「アンタへの支給品よ」
「金なら貰ったが」
「それとは別枠。仕事上必要だけど、物が物だからすぐに渡せなかったの。これから一緒に取りに行くわよ!」
そんな勝手な……と顔に出ている晴嵐を無視して、レオはぐいぐいと港町の一角を進んでいく。
辿り着いた先は……晴嵐に僅かな懐かしさを思い起こさせていた。




