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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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嫌われ者の仕事

前回のあらすじ


小型船に突入する晴嵐たち。釣り人一人を乗せた船に乗り込み、不法行為が無いか抜き打ちで検査に入る。物々しく厳粛な態度のマルダと、寝不足を交えた鋭い眼光の晴嵐が睨む中、不審物の調査が一通り完了した。

 小型船の三名が捜索し、釣り竿も糸を巻き取って……何の不審物も発見できなかった私掠船一行。てっきり『迷惑をかけた』と詫びるかと思いきや、マルダは強気のままだった。


「なるほど。一応聞いておきますが、貨物の受け取りや逆に『貨物をある海域に降ろしてくれ』などと、頼まれていませんよね?」


 まだ大男のオークは、疑念を残しているようだ。問われた釣り人は顔色を変えず首を振る。


「ありません。こっちは一時間前に陸から出て……普通に釣りしてただけですよ」

「ならばよろしい。今後、その手の話があったとしても乗らないように。金を積まれても。です」

「えぇと……それは、どういう?」

「密輸の手口の一つですよ。中身を知らせず、見ないように釘を刺した上で『これを運んでくれ・受け取ってくれ』と素人に頼む。不法な物品でも、そうと知らずに運ばせれば素人の目はごまかせますから」

「こ、わぁ……」


 どこかで聞いた事のある手法だ。崩壊前の地球で、似た話を聞いた気がする。確か空港で麻薬を運ばされる奴だったか……? 闇バイト的手法は、こっちでも共通なのは嫌になる。などと晴嵐が想起していると、取り調べに一区切りついたようだ。マルダは部下三人を先に引き上げさせ、釣り人に言った。


「本当にただの釣り人のようですね。ただ、漁業許可海域の境界線付近は、我々私掠船や海賊がうろついています。トラブルを避けたいのなら、出来るだけ隅は避けた方が良いかと」

「釣り仲間から聞いた事はありましたが……でも、ちょっと夢中になっただけでして! 何もここまでしなくても……」


 釣り人があからさまに不機嫌な様子だ。マルダも気づいているはずだが、全く意に介さず言ってのけた。


「不審物や不法行為は無いようです。違反があるにしても漁業権の外で釣りをした程度。完全に外でしたら罰金でしたが、今回はグレーゾーンですので大目に見ます。念のため、船を漁業権の内側に回頭させてもらいますが、構いませんね?」

「それは……まぁ、はい。そう、ですね」


『謝罪の一つも無しかよ……』と顔に出ている釣り人。晴嵐もオークの言動に少し違和感を持つ。

 過去、武器の検分や私掠船の身内で話す際は、マルダは一般的な礼節を弁えていたと思う。他の私掠船メンバーと比較しても良識人・常識人に該当していた。となるとこれは……わざと、か? 事実小さな詫び一つも入れずに、いっそ厚かましい態度で粛々とマルダが釣り人に告げた。


「漁業許可の時刻は日が落ちるまでです。それまでに海域を出てください。法律的な制限とは別に、可能なら一時間前に撤収する事を薦めます。時間ギリギリですと釣果ちょうか狙いの海賊もいますから」

「…………」


 目線が訴えている。『突然船に乗り込んできた奴らが何を言っているんだ?』と。露骨に武力をちらつかせていなければ、口論や取っ組み合いのになりかねない。そんな不穏が漂うが、晴嵐は刃物をちらつかせ、クマの浮かんだ眼光を閃かせて牽制。怯えた釣り人の声を背に、マルダが手を置いて晴嵐を軽く引いた。


「ここでの仕事は終わりです。引き上げましょう」

「了解」


 頷き、後に続く晴嵐。背中の視線がとげっちいが、殺気と比べれば可愛いものだ。最後の二人が大型船に戻ると、彼らもすぐに進路を変える。これからまた、海の見回りに戻るのだろう。

 マルダに同行し、レオの待つ操舵室に行く晴嵐。面白みのない報告を終え、持ち場に戻ろうとした所、オークに呼び止められた。


「セイラン。先ほどの応対ですが……」

「問題があったか?」

「いえ。逆です。おおよそあの立ち振る舞いで問題ありません。先ほどは空振りでしたが、気に病む事はありません。基本相手を黒と思って接触してください」


 それは分かる。黒なのに演技派の奴や、運び屋をやらされている自覚のない者もいるだろうから。疑問があるとすれば、調査後のマルダの態度の方だろう。良い機会なので、ついでに聞いておく事にする。


「承知したが……しかし、相手に詫びを言わんで良かったのか?」

「あー……そのことですか」


 マルダの表情が苦く引き締まる。これは……内心、相手側に負い目を感じていたのだろう。次に彼の口から出て来た言葉も、マルダの性根の良さを匂わせていた。


「シーフロートから聞いているかもしれませんが……我々私掠船は一般人から見て、海賊と区別が出来ないようにしておく必要があるのです」

「うむ……悪魔の遺産をこっちも運用しとる以上、仕方ない事じゃな」

「ですのであえて……普通に生きる人々の心証を、我々は損ねておかないといけないのですよ。変にその差を擁護されては、かえって仕事がしづらくなる。誤解を誤解のままにしておいた方が……むしろ、都合がいい」


 やはりあの態度、土足で人の船に上がり込んで検閲して、謝罪の一つも無いのは『わざと』だったか。心証を損ねている相手を、わざわざ擁護する人間もいない。


「嫌われる所まで仕事の内……か」

「その通りです」


 嫌な奴を演出するのも含めて、私掠船に求められる役割らしい。素でガラの悪い人種もいるから、ある意味では噛み合っているのかもしれないが……最低限の常識があると踏んでか、マルダは最後にこう付け加えた。


「ですので、陸に戻る時は気を付けてください。この界隈の感覚で戻ると……悪い意味で浮いてしまいますので」

「そうじゃな。忠告感謝する」


 仕事上の態度と、普段の態度は別。界隈の複雑さを改めて知りつつ、彼は見張りの仕事に戻っていった。

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