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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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影への接近

前回のあらすじ


船室で初宿泊の晴嵐は寝不足だった。慣れない新環境、初めてのハンモック、加えて終末世界で生きて来たことが逆に彼を神経質にさせ、睡眠不足に陥らせた。目にクマを溜めながら、船内清掃を終え次は見張りの仕事に入ったが……

「ゼゼリカ、後方……七時方向に影が見える気がする。わしが疲れているだけか?」


 寝不足と経験不足から、自分の判断を信用していない晴嵐。彼が大声で見張り台の人物に声量を張ると、高台の望遠鏡が太陽光を反射した。


「んー……微妙っす。船影と言われればそうも見えるし、蜃気楼や島影っぽい気もする……とりまあねさんに報告っす!」

「了解」


 誰を差しているかは明白だ。晴嵐は操舵室の戸を叩き、航海士や船長のレオのいる部屋へ入室。船員式の敬礼をしつつ報告した。


「レオ船長、七時方向に影を発見した。上で見張ってるゼゼリカに確認を求めたがはっきりしない。対応指示を」


 船員たちの視線を受ける中、淡々と晴嵐が伝令を果たす。人差し指を唇に当てつつ、レオは小型のゴーレムに尋ねた。


「ミッチー! 海図と照合。七時方向に島はある?」

「確認シマス……遥か遠方ですネ。望遠鏡で見える距離ではありませン」

「セイラン、影の感じはどうだった?」


 問われた彼は『不安定な視界で得た、曖昧な情報』と前置きした上で伝えた。


「はっきりとは見えんが……影の形は小さかった……と思う。少なくても船団じゃない」

「ふぅん……マルダ。どう?」


 大男のオークがライフストーンを取り出し、立体映像を展開。思念を加えて、何らかの操作を行うと、海の中に境界線が敷かれて展開した。


「現在位置から七時方向ですと……漁業権の海域ギリギリですね」

「密猟者か、ただの釣り船か分からんと?」

「他の可能性も考えられます。ハイエナ狙いの強盗かもしれません。お嬢、今日は特にスケジュールもありません。付近の海域から通報は?」

「今の所はナシ! アタシらはこれから『取り込み中』にするわ。仕事の時間よ! 取り舵いっぱい‼」

「取り舵いっぱい、回頭します!」


 映画でしか見ないような、木製の舵輪だりんを左に思いっきり回す。続けざまにレオが鐘を鳴らし、緊張を煽るような音が響く。次に彼女は、拡声器のような機材に向けて声を吹き込んだ。


『不審船を発見したわ! 総員配置につきなさい! 警戒態勢!』


 船員全員へかかる号令は、拒否を許さぬ鋭い声量で響き渡る。……これで誤認だったら、後々袋叩きか? 嫌な想像が頭をよぎったが、船長のレオは次の指示を飛ばした。


「セイラン、アンタも一旦見張りに戻って。場合によっては乗り込んでもらうから……不安な顔しないの。アンタはサポートよ。まだ『悪魔の遺産』の支給だってしてないし」

「別に不安は無いわい」

「だったらなんで、そんな険しい顔してんのよ」

「……昨晩の寝つきが、ちぃとばかし悪かっただけじゃよ」

「あら意外、神経質なのねぇ」


 彼女の言葉が何を意味しているのか、問い詰める頭は回らなかった。警戒態勢に加えて、寝不足で脳のキレも落ちたのだろう。とりあえず指示を聞き、彼はまた船尾側に戻った。

 不明な影は進路側に移っている。正体を探りに向かっているが、それはそれとして後方警戒も必要だ。瞼をこすって目を凝らすが、特に異常なし。代わりに見張り台のゼゼリカが報告した。


「前方、小型船の影が見えるッス! 数は1!」


 幻や島ではなかった。これで晴嵐の誤認ではないと確定。操舵室にいたマルダとレオも、直接甲板部に顔を出している。彼女たちも自前の望遠鏡で確認した。


「んー……民間の釣り船っぽいけど」

「オレもそう思いますが……まだ分かりません」

「そうね。なら警戒態勢そのまま、大砲装填。あとは、射角外の二門に空砲を込めといて。カタギならそれで十分威嚇になるわ。このまま接近するわよ」


 周囲に指示を飛ばしながら、彼女も船影を睨んでいる。他の船員たちも慌ただしく動き、明らかに空気がヒリついていく。晴嵐も身持ちを固くする中、レオが彼に声をかけた。


「セイラン、アンタも乗り込みなさい」

「……戦闘になるか?」

「分からない。けど、動きからして海賊とは違うでしょうね。コソ泥かハイエナか、それとも民間の釣り船ってとこね。必要なら締め上げてもいいわ。アンタ得意そうだし」

「なんで分かる?」

「散々アタシと交渉しといて、今更とぼけないでよ」


 肩を竦めるレオに、鼻息で返す晴嵐。気に留めることなく彼女は動いて、他の船員に指示を出していた。


「あの規模なら、乗ってるのは一人か二人ね。マルダと晴嵐……あと三人手の空いてるのを呼び出して。接舷したら突入し船内を制圧。違法なモノが無いかを検閲して。ただし、こちらからの先制攻撃は原則禁止。一般人カタギの線もまだ残ってるわ」

「いつも通りですね。他にも……いえ失礼。では、あの場面を見ていない三名を」

「――ホント、有能な副官で助かるわ」


 大男のオークが、ちらと晴嵐に目くばせしたが……意味合いを読み解く余裕はない。晴嵐は自前のナイフの位置を再認し、突入の準備に入る。影だった船は、はっきり見える距離まで近づいている。向こうも私掠船を視認したようで、乗った人影が慌ただしく動き出した。そのタイミングで――レオの大音声が海に轟く。


『そこの艦船! 逃げたらフカのエサにすっぞコラァ‼』


 ドスの聞いた声の後、海原に炸裂音が響く。先ほど装填した空砲に火をつけ、弾丸を飛ばさず『火薬の音』だけを放ったのだ。

 ハッタリだが効果は抜群。ユニゾティアにおいて、この破裂音・炸裂音は強い恐怖の対象だ。だいぶ前に晴嵐が使った『折り紙の紙鉄砲』が、ブラフとして有効なように。

 完全に腰を抜かしたのか、観念したのかは分からないが……目標から動きが消える。

 集結した五名が船頭に立ち、魔法を使った橋を架け――小型船に乗り込んだ。

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