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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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風通しの良い船内

前回のあらすじ


レオの案内で、私掠船に迎え入れられた晴嵐。早速ナイフ使いのヒルアントが抗議の声を上げ、晴嵐とも軽い口論になる。互いに睨み合ってはいるが、殺し合いには発展しない。なんとか第一印象でナメられずに済んだ晴嵐に、レオはこっそり笑いながら案内役を付けた

 戦闘や取り締まりを想定しているからか、私掠船内部は思った以上に広い。

 食堂と会議室は同じなものの、調理室も含めて広々としている。弾薬庫や保管庫も十分なスペースがあり、船底部には人魚族が出入りするための下部ハッチも完備。構造を見るに、結構な金額がかかってそうだな……と感じた。


「んじゃセイっち、次の部屋に案内するねー」

「……セイっち?」


 いくつかの部屋を案内してもらい、次へ誘導される際、独特な名前で呼ばれた。思わず晴嵐は聞き返すと、女の船員は軽く笑う。


「うん。セイランだから『セイっち』がいいかなって。後ろの『ランっち』だとちょっと『えっちな響き!』ってレオぇが反応しそうだし」

「お、おう……」


 なんというか……非常に反応に困る。彼女は、以前ホームステイで世話になった人魚族、レイとは別ベクトルで距離感が近い。かなり昔で記憶がおぼろげだが、彼女の言動や立ち振る舞いは『ギャル』の軽さを連想させた。


「あ、メンゴメンゴ! セイっちはこういうノリ初めて?」

「少し前にぐいぐい来る奴と会ったが……」

「えーそれ嘘っぽーい。『不慣れ』って顔に書いてあるよー」


 多分だが、晴嵐は顔を固くしていたのだろう。実際、彼女のような人間と絡む機会はほとんどない。新しい環境に飛び込んだ直後なのもあり、知らず知らず緊張が表に出ていた……か。

 とはいえ、嘘は言ってないので釈明しておく。


「前の奴は……なんて言えばいいのか、体育会系? って感じの奴じゃったなぁ……」

「あははっ! 肩とかバシバシ叩かれてそう!」

「よく分かったの。初対面でそれをされたわい」

「マジで!?」


 豪快に笑うヒューマン女性、ルイス。明るい彼女に悪意を感じず、ある質問をせずにいられなかった。


「なぁ、ルイス。ココって、怨みつらみと無縁なのか?」

「えー? フツーにあるよー? 幹部のヒルアントなんて、ポーカーの負けが込んでよく使いっ走りにされてボヤいてるし……」

「いや、そういう些細な事ではなく……お主、わしが何をしでかしたか聞いておらんのか?」

「見てたし聞いてたよ。レオぇやマルダぃ相手に、大立ち回りしてたトコ! いやぁ、期待の大型新人ってカンジー?」

「……えぇ?」


 どうもこの女、あの場面を見ていたらしい。自分たちのリーダーに銃を突きつけられて、この反応はおかしくないか? 呆れ果てる晴嵐の表情に、ルイスは笑いかけた。


「だってさー? ここってすぐ人が死んじゃうからさー……あんまり重くやってると、それはそれで苦しいんだよねー」

「にしたって……いや、すまん。ここは『そういう環境』と納得するわい」

「あははっ! セイっちって、ホント海に慣れてないんだね! マジで技師なんだ?」


 晴嵐は反応に困った。

 残骸から物品を集めたり、ガラクタを組み合わせて修復・道具の製造などは出来るので……広義で言えば技師に入るだろう。ただ『物は言いよう』の感が強く、本物の技師とは比較するまでもない。後ろめたさがあったのか、彼は補足する言葉を足していた。


「……歴史を探って各所を旅している内に、技術を身に着けたって感じじゃよ」

「それって戦い方もだよね? 野盗とかブチ殺していたりしてるんでしょ!?」

「自衛のためじゃ。不要な殺しはしない」

「別に快楽殺人鬼でも、船のルールに従うならOKだけどね! 過去にそういうヒトもいたし。メッチャ頼りになったよ!」

「お、おぅ……よくもまぁ、そんな物騒なヤツを仲間に出来るな?」

「さっすがレオぇだよね!」


 ダメだ。順当な思考が通じやしない。船長のレオは、使える奴ならお構いなしか。ここの連中は皆、少なからず船長の思考に毒されている……? その前提なら『怨みつらみ』についても、船員たちは納得している可能性もある。現に先ほど新入りとして紹介された時、抗議の声を上げたのは……晴嵐と切り結んだエルフだけだった。


「慣れるまで時間かかるのぅ……これは」

「どーだろ? 一か月後には、意気揚々とあたし達と船旅するセイっちの姿が!」

「流石に一か月は早すぎないか?」

「二週間で適応した人もいます! セイランもガンバレ!」

「う、うむ……善処しよう」


 軽い。本当に軽すぎる。命に関しても、感情のやり取りも、すべてが軽妙な環境らしい。顔の固い晴嵐の頬をルイスがつついてからかい、ますます彼は顔をしかめる。堅物の彼の様子がおかしいのか、またしても彼女がクスクス笑った。


「ま、最初は疲れるかもね。寝るのも大変かも。船員の部屋って、四人で一部屋使う形だからさー」

「寄宿舎や学生寮みたいな感じか?」

「そんな感じ。見てもらった方が早いかな」


 扉の並ぶ区画に案内され、うち一つをルイスが開く。部屋はやや狭い上に、なんとベッドが敷かれていない。晴嵐の視線は、室内のやや上に向いていた。


「セイっちって、ハンモックで寝た事あるー?」

「無いが……木に寄りかかって寝るよりは、ずっと寝心地が良さそうじゃな」

「野宿も経験済み!? やっるぅ!」

「褒められて嬉しい事ではないがな……」


 分厚い白い布をぶら下げた揺り籠。これに全身を預ける独特な寝具は、晴嵐も初めて使うタイプの物だ。よくよく見ると内一つの下側に、綺麗に整列された荷物がある。晴嵐に見覚えのある物品もあった。


「あ、そうそう! セイっちの荷物も先に運んどいたって、レオぇが言ってたよ」

「ありがたい」


 客船桔梗に残してきた物品の事だろう。大した物は入っていないが、あって困る物でもない。自分の物を確認しつつ、ふと一つ気になった事をルイスに問う。


「この部屋の面々は? 同室になる訳じゃし、こっちから挨拶に行った方が……」

「ホントったいねぇセイっち! そんなの後で適当でいいよ」

「名前ぐらいは確認しておくべきじゃろ?」

「あぁ! なら船室入り口にネームプレートあるよ。セイっちの名前も記入済みー」


 顔は分からないが、名前を知れるなら覚えておくのが礼儀と思う。晴嵐以外の三名の名を確かめに行くと……晴嵐は思いっきり、天を仰いで毒吐いた。

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