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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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よぼよぼ歩きとエスコート

前回のあらすじ


海底都市を出る前に、これまでの事に思いを馳せる晴嵐。レイにも世話になったと感謝を告げて去っていった。

 レオの私掠船が迎えに来る予定より、一時間以上早く到着した晴嵐。以前の会談場所に行く通路の手前、水中と陸の境界線に座っている。まるで足湯に浸かる人のようだが、下半身にはヒレが残っていた。


「この姿も終わりか。やっと少し慣れてきたが……ま、人魚になる訳にもいかないしな」


 今まで身に着けていた、白い貝殻を模した首飾り……『マーメイドの抱擁』を外して待機する晴嵐。人魚族に変身するための魔法の装飾品は、身体から外して一時間待てば元の姿に戻れるとのこと。待ち時間はライフストーンを読み込み、情報整理で暇を潰していた。


「そろそろかの……おっ?」


 海洋哺乳類めいたヒレと、本来の身体の境界線に指を入れる。すると何の痛みも無く、衣服を脱ぐかのように、人魚のヒレが晴嵐から離れていった。脱ぎ捨てたヒレの先からは、晴嵐の生足が姿を現す。こっちが正常な姿の筈なのに、久々に見たせいか、何故か違和感を覚えてしまっていた。


「本当にスルッと脱げるな……」


 まじまじと脱いだヒレを見つめる。今までコレに神経が通っていたのが信じられない。魔法で作っていたとはいえ、コレが身体の一部だった。なのに今は……ペラッペラの皮のような、雑に作られたゴム製の水着のようではないか。指で広げたり、伸ばしたりして見ても、完全に晴嵐の肉体では無くないっている。……脱皮する生物に知性があるなら、脱ぎ捨てた皮をこんな気分で眺めたりするんだろうか? 自分のおかしな想像に鼻を鳴らして、そのまま海面に投げ捨てた。


「後は勝手にバクテリアや魚が、コレを食って分解してくれる……らしいな」


 珍しい事ではない。海もまた自然の一部で、人間もまた生命だ。人魚族とて例外ではなく、死骸を放置すれば……海に生きる生命が捕食し、分解されていくのだ。大自然の神秘、食物連鎖の働きでバランスをとってくれる。晴嵐が脱ぎ捨てたヒレだったモノも、その内海の掃除屋が処理してくれるって訳だ。

 レイにもシーフロートの面子にも、一応確認を取っている。ならばあとは気にする事ではあるまい。久々の足に靴を履かせ、ゆっくり立ち上がろうとして……老人のようによろめいた。


「おっ、とととっ……」


 久々の歩行がおぼつかない。これが当たり前で当然だったのに、人間しばらくやってないと、簡単になまってしまうらしい。しばらくは歩く事に意識を向けて、ちゃんと頭で『動け』と命じた方が良い。足場が悪かったら転んでしまいそうだ。


「もう三十分、早く来た方が良かったか」


 人魚族用の道は整備されているけれど、他種族用の道は細かな石を敷き詰めたような形だ。うっかり躓いてしまいそうだと不安になる。しっかりリハビリ時間を取った方が良かったか? 強い後悔を抱くも後の祭り。早く体が慣れてくれるのを期待するしかない。足元に細心の注意を払いながら、亀のような歩みで部屋へ向かう。


「ふぅ……ふぅ……手すりか杖が欲しくなるのぅ……」


 過去の老人だった頃を思い出す晴嵐。足腰の弱くなった時の、杖や手すりのありがたさったらない。二つの足以外に体重を預けられるだけで、移動は驚くほど楽に、そして身体が軽くなるのを体験していた。


「亜竜種なら……老いても楽なのかもしれんなぁ……」


 二足の脚と一つの尻尾で、身体を支えるユニゾティアの種族『亜竜種』……体幹が非常に強く、近接戦闘で無類の強さを誇る彼らの事を思い出す。彼らは常に三点で自重を支えているから……こんな時も楽だろうなと想像を膨らませた。

 これも学びか……としみじみしつつ、鈍い歩みを進める彼。集中して足を動かすも、よぼよぼ歩きの晴嵐。だからだろうか……背後から近づく彼女に気づかなかった。


「ハぁイ! セイランっ!」

「おぅっ⁉」


 思いっきり背中をはたかれ、変な声が出てしまった。驚き振り向いた目の前に、胸を張る獅子の獣人の姿があった。


「そんなに驚く事ないじゃないの! ちょっと早く来ただけ……って、大丈夫? 足が震えているわよ? 武者震いかしら?」

「ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ……」


 久々に機能する脚へ、衝撃がぷるぷると電波する。表現が難しいが……これはアレだ。肘を何かにぶつけてしまった時、腕全体に痺れが広がるヤツの足版だ。

 耐え切れなかった晴嵐は、へなへなとその場に両手をついて崩れ落ちる。怨めしい目線で彼女……レオを涙目で睨んだ。


「ば、馬鹿者……! 何をするか……!」

「大袈裟ねぇ……あ、もしかしてビビっちゃった? 今更になって」

「違うわい! 人魚族化が解けたばっかでまだ、足のリハビリが終わっとらんのじゃ……!」

「あ、そっち? 早く来てたから、時間に余裕を持たせているものだと……」

「変身を解くだけの時間は作ったが、準備運動まで想定しておらんかった」

「ツメが甘かったわねぇ……」


 立ち上がろうと力を入れるが、生まれたての小鹿のように震えてしまう。何とか直立二足歩行しようとするが、誰が見ても危うい。見かねたレオが手を差し出した。


「エスコートするわ。アンタを待ってたら日が暮れちゃう」

「……逆な気がするんじゃがの」

「何も逆じゃないわよ。アンタをアタシの船に招くんだから。でも、ま、船に着くまでに、誤魔化せるくらいにしといて。他のメンツにナメられると面倒よ?」

「第一印象……ってヤツか」


 まるでこれでは老人介護。そっと差し出された彼女の手を取り、なんとか足を運んでいく。つい漏れた「腰に来ないだけマシか……」の言葉に、レオは思いっきり噴き出した。


「ちょっとちょっと、アタシはデート気分だったのに……これじゃお爺ちゃんに孝行する娘じゃない」

「船の上で、命のやり取りしとる不良娘が何言ってやがる」

「ぐうの音も出ないわ……でも、そうねぇ、たまにはお父様とも直接顔を合わせようかしらね」


 こんな稼業だ。血縁と会う機会も少ないのだろう。深く掘り下げてみたくもあったが……どうも彼女の横顔は影が深く、立ち入る事を躊躇わせる。

 ――これからの事もあるし、関わっていれば時間も出来る。今はまず船員の第一印象を良くするために、晴嵐は手を引かれながら脚力の回復に専念した。

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