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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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抱き込み

七百話を超えました! ダイジェストやまとめもあるので、純粋な話数換算とは違いますが……それでもここまで続けられたのは、読者の皆様のおかげです! ありがとうございます!


前回のあらすじ


話の節々で匂わせていた『陸での新型』について、晴嵐は確かめようとする。しかし人魚族のガミウメがはぐらかす気配を見せた。『悪魔の遺産』が関わる案件に踏み込みたい晴嵐と、隠し通したい老人魚。硬直する二人を取り持ったのは、獣人の私掠船船長だった。


「レオ。コイツを調子に乗らせるな」


 晴嵐に向ける声色と同じ……凄みの聞いた声量が響く。隣の大男、マルダが腰に手を回したところを、笑みを浮かべながら女獣人が制した。


「……すみませんお嬢。ですが、それがオレの務めなので」

「ビビらないの。相手はお年寄りよ?」

「――気遣いはありがたいが、ならばこちらの話も聞け」

「進展のない長話に付き合えないわ。それに観念した方がいいわよ、ガミウメ氏。もう薄々気づいているでしょ? この人、ただのカタギじゃないって」


 ね? 晴嵐に向ける笑みは、確信を持った表情だ。彼女とは一度交戦しているし、部下とも刃を交わしている。ワケアリな事は、とっくの昔に見抜いているか。

 ならばますます分からない。何故ここで晴嵐の肩を持つような発言を続けるのだろうか。


「こういう展開になった時点て……秘密を開示するか、この話をお開きにするかの二択よ。のけ者にされてるって分かったら、馬鹿馬鹿しくなって会議に身が入らないじゃない」

「しかし……迂闊に公開できる事でもない。だから私掠船を稼働させている。非公式の者に任せるしかないとな」


 ヒリつく会話が、老人魚と獣人の間で繰り広げられる。晴嵐も事態の流れが読めないが、隣の副官も近い心証のようだ。


「お嬢、何をお考えで? ガミウメ氏の主張にも一理あるかと……」

「さっきも言ったじゃない。取引よ」


 これが……これが目的か。最初からそのつもりか。レオよ。

 晴嵐は『援護を受けて助かった』と思った事を恥じた。非公式の政府組織とはいえ……レオもまた油断ならない人種らしい。

 老人魚と言葉で綱引きし、目の前の『水中銃のベース武器』についての情報を求めた晴嵐。このタイミングで取引の単語を持ちだすなら、情報開示の交換条件を出してくる。すぐに思い至らなかったのは――


「いったい、わしに何を求める気じゃ?」


 取引である以上レオは、晴嵐に何らかの対価を求めてくる。交換条件と言い換えても良いだろう。無言で待つ晴嵐に提示された条件とは――


「難しい事は言わないわ。アタシの船に乗りなさい!」

「「「!?」」」


 堂々と胸を張り、いわゆる『ドヤ顔』で宣言するレオ。彼女以外の全員が固まったが、一番早く復帰したのは副官のオークだった。


「お嬢! またそんな突拍子無い事を言って!」

「何よ? 別に珍しくはないでしょ? ウチのクルーの何割かは、普通に殺しった仲じゃない。留守番中のヒルアントなんていい例でしょ?」

「わしがお主に、何をしたのかを忘れたのか?」

「固くて長い棒で頭をペシペシと……」

「ピンク頭が」


 意味を要約するに、レオは『自分たちに同行しろ、私掠船のメンバーになれ』と言っているのか? 命のやり取りをし、銃を突きつけた相手に? 正気の沙汰とは思えない。これが業界の普通なのか? と脇を見れば――険しい顔の老人魚が苦虫を噛み潰していた。


「コイツを抱き込む気か?」

「えぇ。これならガミウメ氏の懸念も解決できる。要は『この場限りの参加者カタギに新型の情報を流す』のに抵抗がある訳でしょう? だったら身内に取り込んでしまえばいい。ヒルアントと一対一タンゴを踊れる人ですもの。腕前も申し分ないわ」

「…………何者なんだ。オマエ」


 老人魚の目線がより険しくなる。明かす気はないし、本当の事を言った所で信じる訳もあるまい。晴嵐は唇を歪めて皮肉った。


「自分たちは露骨に秘密を臭わせて、わしには質問か」

「……こんな面倒な奴だったとはな」

「見抜けなかったお主が悪い」

「チッ」


 強烈な舌打ちを放つが、もう威圧して来ない。晴嵐に効果が無いと知ってやめたようだ。それに、話は『スカーレット私掠船団』が抱え込む方向に進んでいる。事態をややこしくしないためにも、静観に徹する構えのようだ。

 改めてレオの提案を考えてみるが……晴嵐としても悪くない。ただ情報を得るだけでなく『悪魔の遺産』が関わる案件に参加できる。展開次第では、製造元に辿り着けるかもしれない。『新型の銃器』を流せるような奴らだ。かなり確信に近い情報があるだろう。

 飛びつきたい本心もあるけれど、すぐに食いつくと不審がられる。ここはむしろ、露骨に警戒心を見せた方が良いだろう。


「船に乗れと言うが……10年・20年と付き合う気はないぞ」

「一日でバックレられても困るわ」

「だったら、具体的な時期はどれぐらいになる?」

「んー……最低でも一か月は欲しいわね。贅沢を言うなら半年、アタシの船が気に入ったなら、ホントに乗組員クルーになってもいいわよ!」

「それは断る」

「早くない⁉」


 晴嵐。即答。一時的な協力者ならいいが、船の上で長く過ごす気はない。ましてや、頭真っピンクの獣人船長などもっての他。わざとらしいオークの咳払いで、レオは話を本筋に戻した。


「一応言っておくわね。承知の事だと思うけど」

「……何を?」

「アタシの船に乗るなら、生命の保証は出来ない。普通に暮らすのに比べたらクソみたいな世界よ。スリルを手軽に味わいたいなら……聖歌公国のダンジョンなり、亜竜自治区の武人祭に参加するなりすればいい」

「それを『承知していない』と思っとるのか?」

「思ってないけど『後で聞いていない』なんてゴネられても困るから」

「あぁ。なるほど」


 自分の想像力不足を棚に上げて、好き勝手言い出す奴は確かにいる。

 もう本心は決まっているが……彼女は言質を取りたいのだろう。予期せぬ形ではあったが、この再会は晴嵐にとっても僥倖ぎょうこうか。

 少し前、彼女が発した『運命の再会』が脳裏にちらついて嫌になったが……明言をする前に、最後に一つ確認した。

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