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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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新着アリ

前回のあらすじ


 この世界の歴史を聞き終え、テティは二次種族の説明に入る。途中、晴嵐の世界を崩壊させた『吸血鬼サッカー』に似た種族に殺意を漏らしながらも、二次種族の事を晴嵐は学んだ

 翌日――宣言通り晴嵐は寝坊した。

 本当に無理だった。脳の処理が追いつかなかった。個室に戻った後も復習に追われ、頭がズキズキと悲鳴を上げ、知恵熱を出しながらベットに潜った。

 ……結局こちらに来てから、一度も休む日がない。今日は遠出こそしないが、この世界の常識を叩きこむ作業がある。予告通り『黄昏亭』にやって来た少女は、彼の顔を見てぎょっとした。


「……セイラン、大丈夫?」

「気にするな……お主の都合もある。わしも早めに、一人で動けるようにせんとな」

「焦るのは分かるけど……あんまり無理するのは」

「無理をすべき時はある。わしにとって、それは今じゃ」


 体調が悪い自覚はある。心身が強く、安息を求めているのもわかる。

 それでも止まるべきじゃない。まだまだ、この世界の常識を固めきれておらず、その方法は……事情を知る彼女から聞き出すしかないのだ。


(何が起こるかわからん。最低限、常識は聞き出しておかんと……)


 普通の人なら、テティの意見を採用するのだろう。彼本人も「休みたい」とも感じている。

 しかし、しかしだ。手をこまねいてるうちに、彼女の協力を得られない状況になったら? せっかく得た常識への橋頭保が、失われる危険が全くないと?

“世界が壊れた”経験のある晴嵐は、常に想像してしまうのだ。最悪が起こる可能性を、病的なほどに。

 引く様子を見せない晴嵐に、鼻息一つ返して彼を手招く。外に先導する彼女に続き、異界人がホラーソン村へ歩き出す。

 室外には陽光が射さず、分厚い雲が空を覆う。数回鼻をひくひくさせ、彼は「降りそうだな……」と呟いた。


「そうね。だから今日は、講義の時間は短くするわよ」

「外でする必要があるのか?」

「あんまり他の人に聞かれたくないし……今日に限っては必要だから」


 腕に巻いた緑色の石ころを指差し、彼女は言う。今日の講義はどうやら、あの便利な石ころについてのようだ。


「これの名前は覚えてる?」

「なんじゃったか……? ら、ら、らい……くぅ、思い出せん」

「『ライフストーン』ね」

「そうそれ」


 強がりめいた晴嵐の声色に、テティはクスクスと笑った。不可抗力とはいえ、常識でからかわれるのは、やはり気恥ずかしい。

 羞恥心に目を背けつつ、石の意味を彼は聞いた。


「『生命の石』と言う意味か?」

「ううん『生活の石』って意味」

(あー……確か崩壊前の、ライフラインの意味合いか?)


 軽く横目で観察し、一度だけ使った覚えもある石ころ。『生活に便利な石』と名づけられたソレは、名前の通りの機能を持っていた……と記憶がある。


「地図やメモ、方角を示す石ころか」

「そそ。色々便利なコレは、私達の生活に欠かせない物。でも一番の機能はそれじゃない。ついて来て」


 歩く方向は、昨日座り込んだベンチの広間。大きな黄色の水晶が鎮座する広間だ。


「これが『ポート』……村や、一定以上の集落に置かれている『要』よ。送信機でもあり、受信機でもあり……そして座標でもある」

「座標……地図の時に浮かんでた光点か」


 オーク二人との別れ際、浮かび上がった地図を思い出す。緑の石ころが示す方角は、やはりこの水晶がカギのようだ。


「察してたのね……その通り。浮かべた地図での光点や、方角を示す機能もこの水晶……ポートに反応してる。そしてこの『ポート』には……もう一つ重要な機能があるの」


 コンコンと水晶を手の甲でノックし、ぱちりと目を瞑って見せる。緑の石を彼に見せてから、黄色の水晶に触れさせた。

 瞬間――鮮やかな緑が、水晶と同じ色に染まる。初めて見る色彩の変化に、晴嵐は目を丸くした。少女は得意げにフフンと鼻を鳴らす。


「何をした?」

「メールを受信したのよ」


 かつて現代で使われた単語を耳にし、驚愕のまま固まる晴嵐。テティの石ころが空中に文字を投影し、彼の目に知人のメッセージが映る。タイトルは『亜竜自治区に無事に着けた』と記されていて――


「なんだ、これは……?」

「あぁ。やっぱりびっくりする? この『ライフストーン』で書き込んだ文章は、知った顔と名前の相手に、メッセージを送れるのよ。

 送り方は簡単。まず宛先の人物の顔を思い浮かべて、文章を書きこんだ『ライフストーン』をこの水晶、『ポート』に触れさせる。すると世界の各所にあるポートに、メッセージが保留される。宛先の人が『ポート』に『ライフストーン』を接触したタイミングで、その人に文章が届く……その時は色が変わって、新着ありと教えてくれるってワケ」


 悪戯を仕掛けた子供が、リアクションに満足するように笑う。絶句する晴嵐の反応を受けてだが……テティの想像と晴嵐の内面は、大きな解離が存在していた。

 昨日の異種族の話を聞いて、ここは自分の住んでいた世界と、異なる事は了承した。その矢先に……文明が生きていた時期の技術、『電子メール』めいた物を目の当たりにすれば、頭がどうにかなりそうだ。

 混乱する彼に畳みかけるよう――未知の技術を見せつけるための、彼女なりの善意で――文章の内容を見せつける。送り主の名前は、『スーディア・イクス』だ。


「あの二人……ちゃんと亜竜自治区に入れたみたい。私達への感謝と、近況報告ね。これから今、私たちのいる国『聖歌公国』の中心を目指すみたい。これがどういうことか……わかる? セイラン」

「……あの二人は亜竜自治区の『ポート』に……『ライフストーン』を使ってメッセージを書き、お主宛に送信した……つまり生きているし、これから連絡を取り合うことも出来る。タイムラグは多少発生するが……」

「……呑み込み速いのね」


 完全な初見では、理解不能だったと思う。からかい損ねた彼女は、拗ねたように唇を尖らせた。

 

「似たような技術が、わしの世界にもあった」

「へぇ? 考えることは、みんな同じ?」

「……わからん。わからんから恐ろしい。間違いなくここは違う世界じゃ。それは体験したし、納得しておる。だから……だからわからない。違うはずなのに、同じものがあることが……」


 常々感じていた違和感だ。例えば言語が共通だったり、例えば通貨単位が『¥』だったり……違うならいっそ、世界の根っこにある物まで別々のはず。


「わしの与太話も、そろそろするべきか」

「そうね……雨も降りそうだし、続きは私の家でしましょ。外では話したくない」


 往来で話せる話題ではない。以前の話は「この世界の常識」だからまだ問題ないが、地球の話は誰かに聞かれたくない。密室がベストだ。


「うむ……しかしいいのか? 母親がうるさそうじゃが」

「そろそろ仕事の時間よ。あなたならヘンな事もしないでしょうし……上がっていいわよ、クソジジイ?」

「……この場合、クソババアとでも返せばいいのか?」

「あら酷い」


 暴言にも涼しい顔で、大人の対応を見せる少女。

 中身の違う二人は、秘密を深く明かすべく、彼女の家を目指した。

用語解説


ライフストーン


 何度か晴嵐も目にしていた、この世界で流通する緑色の石。文字やイラストのメモ機能、町や村の拠点にあるポートに反応して、方角を示したり、地図と連動したナビゲート機能を持つ『生活に便利な石』

 しかし最大の機能は、ポートと組み合わせた『メールの送受信機能』にある。(次のポートの項目で解説)

 


ポート

 ホラーソン村では広間に置かれた、巨大な黄色の水晶体。『ライフストーン』の地図機能で、表示された光点になる他、メールの送受信機能の要。手順はこう。

 1 ライフストーンでメッセージを書き、送信したい相手の顔を思い浮かべてポートに触れさせる。

 2 すると世界各所にあるポートに、相手へのメッセージが留め置かれる。

 3 相手のライフストーンがポートに触れると、メッセージが送られる。緑色が黄色に変化して、メッセージの受信を知らせてくれる。


 現代風に言うならば『ライフストーン』が『ポート』に触れる時のみ、メールの送受信ができるみたいな感じです。ポートはメッセージをとどめておく、保管庫やサーバーのようなものと考えてほしい。

 常にアンテナ立ってるのと比べると不便ですが、村や都市にたどり着けば、そこから連絡を取り合うことが出来ます。(このためユニゾティアでは、紙の手紙が衰退気味である)

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