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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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価値観の違いすぎる女

前回のあらすじ


戦闘に割り込んだのは獣人。リボルバー拳銃を突きつけて戦闘中止を迫る。抗議する金髪エルフと、彼と敵対した晴嵐が睨みつける。信じられないが、女は妙に生々しい視線と気配を放ちながら迫って来た。まさかの誘惑を突っぱねると、またしても爆発が起きる。

 爆発は晴嵐のいる船から生じた。お喋りしていた連中も驚いている。何が起きた? 甲板上の全員が抱いた疑問を、若い女の船員が解消した。


「レオぇ! 海賊の奴ら……自分から火薬庫に火をつけたみたい!」

「何やと⁉ やけっぱちか⁉」

「こいつら『例の武器』を積んでたの! でも、証拠品を押収しようとしたら爆発して……!」

「対策済みってワケ……⁉ 被害は⁉」

「ミッチーが回収に……! でも船底の魔法が切れかかってる! このままだと浸水して沈没する!」

「あぁもぅ!」


 何を言っているか分からないが――晴嵐にとって重要なのは『明らかに注意が逸れた』一点のみ。銃口は胸に突きつけられたままだが、獣人は仲間と思しき船員側に顔を向けている。引き金を引くまでに『間』が生じるなら……!


「――ひゅっ!」

「‼」


 死の恐怖を押しのけ、鋭く息を吐いて身体を動かす晴嵐。左手で銃を押し込んで弾きつつ、ぐっと右手で襟首を掴む。流れるように女の身体を回し、獣人の首を左で締め上げ、最後は右手で相手の銃を腕ごと握った。リボルバーを持ち主の頭に突きつけ周囲を睨む。

 立場逆転――晴嵐に向けられた銃口は、今は女獣人の頭部を向けられている。仲間を人質に取られた船員たちが、一斉に彼へ殺意を向けた。


「てめぇっ‼」

「――」

「っ……!」


 激情する奴らは、刹那に灯った晴嵐の覚悟に凍り付く。少しでも妙な動きをすれば――と、言葉なく気迫で告げていた。

 先ほどまでの会話や状況からして、この女は幹部か船長だろう。人質としての価値は十分。誰もが抜き差しならぬ場面で……一人だけ恍惚に濡れている奴がいた。


「うふふふふ……ちょーっと油断しちゃったわねー」

「――……」


 本当に……晴嵐はコイツが、心の底から理解出来なかった。何かの拍子に頭をフッ飛ばされるのに、まるで甘える猫のような声を上げている。恐怖にさえ酔っていると疑いたくなるが、部下に指示する理性は残っているようだ。


「こうも見事にやられるなんてねー……お前たち、下手な事したらアタシ死んじゃうから。あ、でもそれはそれとして悪くない――」

「姫ぇ! こんな時に惚気のろけとる場合かァ‼」

「だってしょうがないじゃないの。こうも力強くアプローチされちゃったら……うふふっ」


 まるで愛おしい恋人にすがるように、締める晴嵐の手に……あろうことか頬ずりまで始めやがった。頭に自分の銃を突きつけられているのに、である。全く油断なく構える晴嵐に対して、信じられない発言を繰り返した。


「ねぇ、このまま押し倒してくれてもいいわよ?」

「阿保か。この場面で発情するヤツがいるか」

「ここにいるわ!」

「……そのピンクの脳みそブチ撒けるか? 世のためにも」

「やめておいた方が良いわ。こんな美女がいなくなるなんて世界の損失よ? 周りにいるファンのみんなにも八つ裂きにされちゃうし」

「黙れ尻軽」

「あらバレちゃった」

「チッ」


 飛び出る舌打ちは心の底から。本格的にコイツとは会話が成り立たない。苛立ちを言葉にしてぶつけた。


「……お前ほど話が通じないヤツは初めてだ」

他人ひとの頭の中なんて、誰だって分からないでしょ」

「飛びぬけて狂ってるっつってんだよ」

「アタシは自分に素直なだけよ。あなたも自由になったら?」

「虚しいだけだよ。ンなモンは」

「面白い受け答えだわ。続きはベットの上で――」

「する話題じゃないだろ。こんな白ける事」

「変な所で意見が合うわね」

「カンベンしてくれ……」


 真剣なのかふざけているのか。もう晴嵐はこの女について考えるのをやめた。大事なのは晴嵐がこの場を切り抜けられるかどうかだ。

 状況は未だに読み切れないが……とにもかくにも、この船から脱出すべきだろう。客船へ脱出すれば、船員側からのフォローも受けられると思う。現状を脱するには、背中側の船に移動するしかない。獣人を人質にしたまま、じりじりと後退した。


(距離はそこそこあるが……)


 晴嵐は考える。煙幕はいつも携帯しているから、船首側に近づいて射線を限定できれば、何とか煙で塞ぐ事は可能だろう。あてずっぽうで射撃されたとしても、単発式で装填が遅い旧式だ。幾分か賭けになるが、逃げきれる算段はある。

 彼の意図を察したのか……女はからかうような、煽るような声を出した。


「えぇ? 逃げるの? もうちょっと遊んでいけばいいじゃない」

「これを『遊び』と認識しているかお前?」

「生きる事を全力で楽しんでいるだけよ」

「死のスリルもか?」

「もちろん」


 銃口を向けられて、華やかに笑う女。理解できない……と思ったが、その表情の中に懐かしさを感じる。確か文明復興組の奴らも、近い表情をしていたような気がした。

 彼らは報われなかった。彼らは無残に死んだ。けれどそこに至るまでの間、苦しみもがきながらも……自分たちなりの希望に向かう姿。今を真剣に、必死に、辛く苦しくとも『生きがい』を感じている奴の表情だ。……眩しいったらありゃしない。

 しかしその瞬間、晴嵐はふと思い至った。

 こいつもこいつで、生きる事を諦めちゃいない――死を覚悟するでもなく、絶望に俯いてもいない顔。それはつまり……何か逆転の手を用意している?

 銃を握る手を強く掲げ、周囲の奴らにしっかりと見せつける。改めて強く脅しつつ、晴嵐は目を配らせると……金髪エルフの目線が、微妙に変化しているのに気が付いた。

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