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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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二次種族

前回のあらすじ


 千年前に起きた出来事の続きは、空から降って来た人々の恩恵と、彼らの行動に重点を置いていた。知識による恩恵と、彼らの独立と参戦。奇襲に加え、圧倒的な戦闘能力を発揮するも、最初の女性『歌姫』が離脱を宣言。彼女の『測定不能の異能力』を用いることで、全ての民族を融和、世界を大混乱に陥れた、欲深き者どもを殲滅した。

 その話の中に、オークが存在しないことを突っ込む晴嵐。二次種族とは、この動乱の最中、またはその後に出現した種族だと言う……

「『二次種族』は四種類よ。『オーク』『獣人』『ゴーレム』そして『吸血種』よ」

「吸血……っ!?」


 再開された解説。その最後の単語を聞いた瞬間、反射的に殺意が晴嵐から噴出した。

 ――彼の住む終末世界には『吸血鬼サッカー』と呼ばれる化け物どもが闊歩していた。

 理性のない、人型のケダモノだ。夜行性で人間を襲い、殺した相手を同族の怪物に変異させる奴等である。現代の人間が無様だったことは認めるが……こいつらさえ生まれなければ、人類が立て直せる希望はあったのに……!


「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?」

「……っ。すまん。感情的になった……わしの与太話の時に話そう」 


 少女の声が冷や水になり、表面上は抑え込む。

 本人はそのつもりだが、テティは彼の変化を見逃さない。あからさまに硬化した晴嵐へ、気遣う様子で声を潜めた。


「『吸血種』は後回しの方が良い?」

「いや……先に終わらせてくれ」

「……分かった。『吸血種』……この人たちは、ちょっと特殊な種族よ。肉体的には人間と差がないみたい。なのに身体能力に優れ、魔法の行使も得意、加えて不老不死ね。夜行性で日の光が苦手と、これまた癖の強い種族ね。食事も普通にするけど、それに加えて生きていくには『誰かの生き血を吸う』必要があるわ」

「……牙で、相手の首筋に噛みついてか?」

「それは眷属化する時だけ。基本は手首から、相手の承認を得てからね」

「待て、そいつら理性があるのか?」

「? あるに決まってるでしょ」


 どうなっている? 晴嵐は混乱した。彼の知る『吸血鬼サッカー』は、人の形をした獣だった。会話も意思疎通も不可能で、人間を獲物としか感じない……恐ろしい捕食者だ。

 

「……わしの知っている奴等とは違う」

「何を想像してたか、今度教えてよ?」

「あぁ……頭がおかしくなるぞ」


 彼女が終末世界や『吸血鬼サッカー』の話を聞いたら、きっと肝を潰すだろう。その時が楽しみだ。

 不敵な気配に両目を瞑って、テティは若干引いている。軽く咳払いを挟むと、気を取り直して一気に解説を進めた。


「次は『オーク』と『獣人』について話すわ。この二種は対極な種族なの」

「何?」

「子孫の残し方が特殊なのよ……『オーク』は男性しか、『獣人』は女性しか生まれない」


 彼は思い出す。ラングレーをナイフで脅した時、自分の種の事を嘆いていた気がする。

 ――オークは男しか生まれない。だから、女性を得るために強引な手だって取る……

 こうした意味合いの事を口にしていた。記憶がやや曖昧だが、ラングレーの言動は頭に残っていた。


「その特性のせいで、オークは厳しい立場とラングレーは言っておったが、実際は?」

「……あまり社会的立場はよろしくない。『オーク』をカモにする詐欺もあったり、実は『緑の国』に侵攻した記録もある。その憎悪ヘイトやネガティブ・キャンペーンもあって、民族への印象が悪いのよね。で、そうなるとオークはオークで、強引なやり方をするしかなくなる。傭兵ならまだいい方で、汚れ仕事や、この森みたいに蛮族化してしまうの」

「それがまた憎悪を産む……悪循環か」


 オークなりの事情や、歴史的背景があると言うことか。この前提で行くと、スーディアもまた例外と考えるべきだろう。


「獣人は?」

「オークに比べれば大分マシよ。特徴は、身体の一部が『獣』の特性を持っている事ね」

「例えば?」

「耳が兎のようにピーンと立っていたり、身体が毛むくじゃらだったり……性格や個々の能力も、体に出ている動物の能力を継承していることが多いわ。あと、野生の勘? が鋭い人も多い。バランス感覚も優れてるわね」

「社会的な立場は?」

「オークより大分マシよ。ただ……婚姻や性に関するトラブルも多いけど」


 困った顔をするテティに、晴嵐は突っ込んだ。


「いまいちわからんが……何が?」

「例えばだけど……さっき『獣人は女性しか生まれない』って言ったでしょ? 結果浮気相手と子供が出来ても、必ず獣人の女が生まれてくる。つまり母親似の子供になるわけで……だから男性側が『別の男との子供かどうか』に気づきにくいのよ。獣人も獣人で、移り気な人多いみたいだし……この手の話は絶えたことがない」


 彼女は深刻な溜息を漏らす。この様子だと、トラブルが非常に多いのだろう。暗に「気をつけろ」と忠告してくれているのか。胸に刻みつつ、最後の種族の話を聞く。


「最後は『ゴーレム』テレジアさんの種族ね。生命を持っていない、体が金属で出来ている種族よ。数学や演算に強いけど、情緒が成熟されるまで、かなりの時間を要するわ。言い回しやセンスも独特。この世界で一番クセの強い種族ね」

「……テレジアはどうなんだ? ゴーレム全体と比較して」

「普通……だと思う。彼らの種の成り立ちはややこしい。

 元々いろんな作業を代行させようと、『欲深き者ども』が作ったとか、彼らの技術の試験、試作として製造されたのが始まりよ。

 部品を付け替えることで、色んな環境や状況に対応できて、数学や法則の発見、合理的思考や学問の発展に貢献した。労働力としても痛覚が鈍かったり、非生物的な特性のおかげで、生身だと危険な地域の作業や……『単純作業に飽きない』特性もあって、量産作業を担当することも多い。

 で、そうして労働に従事している内に……『自我』を訴える個体が現れた。『ゴーレムにも自我や意識が存在する』『私達にも自由を下さい』って訴えたの。紆余曲折あったけど、最終的には種族として認められた……って感じ」

「どこかで聞いたことある話じゃな……何だったか……」


 現実の話ではなく……確かSFモノの、アンドロイドとかAI物の創作物にあった気がする。細かな題名までは思い出せないが、晴嵐が想起していた『ロボット』と類似性のある種族のようだ。


「ふぅん? 似たような事はあるのね」

「みたいじゃの。不思議な事だが」

「私達の間で、それは言いっこなしよ」

「ほっほっほ」


 年寄りめいた笑い方で、肩の力を抜く。全く持ってその通りだった。

 死ぬはずだった自分、死んだはずの彼女が、別の世界で面と向き合って言葉を交わす。不思議な話を言い出したら、まさに今、この二人が対面することも不可思議なのだ。


「しかしまぁ……似たような事もあるが、全く異なる点も多い。まだまだわからんこともある。しばらく厄介になるぞ」

「そうね。これでもまだ『全然足りない』からね……」

「……頭が痛い」


 カウンターに突っ伏し、酔いつぶれたかのように倒れ込む。現時点でも、詰め込み過ぎでいっぱいいっぱいだ。情報の海に悪酔いしている。

 口元を抑え、テティがお上品に笑う。彼の方をポンポンと叩いて、ゆっくりと席を立った。


「明日も午前中に来るわ。今度はうろつかないでよ?」

「安心せい。疲れ果てて熟睡しておるはずじゃよ」

「しばらく続くでしょうから、頑張って」


 うつ伏せのまま首だけ動かし、疲れた顔で少女を見送る。

 遠目で彼女の日常を眺めながら……今仕入れた情報を、晴嵐は頭に刻み込んだ。

用語解説


吸血鬼サッカー

終末世界に存在した、理性無く人を襲う化け物。晴嵐はこいつらに対し、途方もない憎悪を抱いている。今回は吸血種に反応し、うっかり殺意を漏らしてしまった。


吸血種

 この世界に存在する種族の一つ。太陽光が苦手、身体能力、魔法系も優秀、生存に通常の食事に加え、吸血が必須の種。吸血鬼サッカーとの最大の違いは、理性がきちんとある事。晴嵐も別の種だと、一応は納得した。


オーク

スーディア及びラングレーの種族。男性しか生まれない特性を持ち、その種の特性とエルフ側の憎悪もあって、全体的に社会的に軽んじられる傾向がある。そうなるとアウトローと化し、この森にいたオークのように蛮族化してしまう。それが増々評判を落とし……と、悪循環に嵌っている。


獣人

こちらは逆に、女性しか生まれない種族。肉体に獣の特性を持っている。(獣化の部位はまばらなので、外見的特徴の差異が大きい)所謂野生の直感や、身体のバランス感覚に優れる種族だが、性や婚姻にまつわるトラブルも多いようだ。とはいえ、オークと比較して社会的地位はだいぶマシである。


ゴーレム

魔法で出来たロボット、あるいはアンドロイドと言えば、読者の皆様には大体伝わる種族であろう。ロボット的特性や特徴も多いが、最初は道具扱いだった模様。長い事稼働したゴーレム達の一部が精神に目覚め、自由を訴えた事により、独立を認められた種族。

 Tーほにゃららとか、マーガスとかコナーとか、ベイなんとかはいない。多分。

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