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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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船員の援護

前回のあらすじ


人魚の海賊『セイレーン』と、人魚の護衛者『シーフロート』が衝突する。人数不利を強いられた防衛側だが、攻勢に押されて一人の人魚が陣形からはじき出されてしまう。



 客室に戻れと言われた晴嵐だが……どうも彼の性分はじっとしていられない性格のようだ。変に足を引っ張りたくはないが、ただ事態の推移を座って見届けるのは気に食わない。ちょうど良い口実として、手元に船員の帽子もある。しばらくして彼は立ち上がり、おもむろに帽子の無い船員へ声をかけた。


「そこの。ほれ、帽子取って来たぞ」

「今それどころじゃねぇんだ! 後にしてくれ!」


 当然の反応。海賊の人魚――『セイレーン』が襲ってきているのに、呑気に客と話している場合ではない。せわしなく活動する彼を脇目に、晴嵐は黙って通路の隅に移動した。

 ここなら船員の邪魔にならない。客室に座ったままより、外の様子や情報を集められるだろう。野次馬一歩手前だけれど、気配を消して黙っていれば分かるまい。


「状況は!?」

「アランさんの率いる5名が、船に仕込まれたトルピードにやられている! 船下のセイレーン数は7! 護衛は5人!」

「何とかなる人数差か……? 直下の人魚にしばらく耐えるよう伝えろ! アラン隊長が復帰すれば、こっちが数的優位を確保できる!」

「ハープーンを用意しろ! 味方には防衛に徹するようにと通達! 水上で跳ねる奴らは全員敵と認識! タイミングを合わせて射出準備!」


 水中で繰り広げられる、人魚同士での戦闘。船員に出来る事は無いと思いきや、そうでもないらしい。甲板に目をやれば、折りたたまれた兵装が姿を現した。一目見た晴嵐の感想としては『大型のクロスボウ』としか言えない。この大きさなら『バリスタ』と呼ぶべきだろう。古い時代の映画で出演する、懐かしい攻城兵器の形状に思えた。


「まずい……! 左舷側に一人追い立てられている! 支援準備!」


 差し迫った声に、緊張が一層深まる。船員たちがせわしなく移動した先へ、晴嵐も静かに後ろから続いた。目立たないように、邪魔をしないように、彼も船尾端から海面をのぞき込む。客船『桔梗』の左舷側の海が、激しくうねり波打っていた。

 海の下で渦を巻く魚影。中心にいるのが味方の人魚で、周囲にいるのが敵のセイレーンだろう。誰が見ても危険な状況を、船員も黙って見ていない。


「船下に離脱するまで時間を稼げ!」


 左舷側に三つのバリスタが起動し、人員が居座る。準備を終えて構えると、一斉に大型の『もり』が発射された。

 本当なら銛は『火薬で筒状の装置で発射する弾頭』なのだが、火薬を忌避するユニゾティア史の影響だろう。古臭い大型ボウガンから、長く鋭い銛が発射される。細い鎖を伸ばしながら、海面に三発放たれた。

 しかし相手は水中を高速移動している。そうそう命中する物でもないのだろう。彼らの努力をあざ笑うかのように、セイレーンの何人かが水面を跳ねる。晴嵐の後ろからも一体が、大きく弧を描いて宙を舞った。


「くそっ! ナメやがって……!」

「チェーンを置くだけでも援護になる! 奴らを思うように動かすな!」

「相手が回避しだしたら、巻き取りを始めろ!」


 水中戦は勢い、流動性が重要な戦闘環境。鎖で進路を僅かに阻み、軌道を変えさせるだけでも支援になるらしい。敵の人魚共が動きを変えた所で、備え付けの巻き取り機が音を立てて銛を水揚げした。

 使い捨てではダメなのだろうか。部外者の晴嵐は、何も言えず観測するしかない。けれど素人の彼の目に見ても、状況は悪いように思えた。またしても晴嵐の背後から人魚が飛ぶ。……彼と目が合い、下卑た人魚の目線に冷たく返した。


「くそっ! 振り払えないか!?」

「なんでもいい! 打ち続けろ! 数を撃てば当たるかもしれん!」


 陸から出来る援護は多くないのだろう。バリスタが三門しかないのも、本腰を入れた装備ではない証明か。海上から狙われていると言うのに、敵の人魚共は悠々と水面を跳ね、味方の頭上から襲い掛かっていた。

 ――なるほど。水面から飛び上がって襲えば、水中に意識が行く人魚からすれば、意識しずらい場所からの攻撃になるわけだ。飛び込む側も狙いをつけるのは難しそうだが『全方位から狙われている』現実は圧になる。ちょうどこちらの人員が、威嚇めいたバリスタを打ち込むのと同じ理屈か。

 晴嵐は少しだけ嫌になった。これでは、かつての自分と変わらない。近くに必死に生きる現実があるのに、ただただ眺めているだけで、何もしない自分の姿……またしても船尾から飛んだ人魚の目線を感じる。今度は冷たい悪意に満ちた、攻撃的な表情だった。

 胸に滲み出る嫌悪感。かといって今の立場で、やれることがあるとでも? 無意識に己を責め、自問自答に陥る彼は……そこから逃れるためか、目の前に広がる光景に一つ法則を見出した。

 普段の晴嵐なら、今までの晴嵐なら、面倒ごとを避けるために黙っていたと思う。ルノミの世話を焼くうちに、お人よしが移ったか? また突っぱねられるのを承知で、帽子の無い船員に近寄った。


「いいか?」

「見て分かんねぇのか! 今取り込み中だ! 大人しく客室に――」

「狙いをつけれる奴がいる。何度も同じような挙動で、水面に飛び出している人魚が一人」


 まだ真剣に聞く姿勢は無い。援護射撃を優先しており、決して手は止めていない。だが一瞬だけ、船員がこちらに視線を送った。内容次第だが聞く気はあると判断した。彼らの眼前で、また敵の人魚が跳躍した。


「今の奴だ。こっちの船尾側から飛んで、今のあたりに着水してる。付近に照準を置いて、タイミングよく射出すれば……」


 命中するかもしれない。闇雲に狙うより見込みがある。もう一度だけ晴嵐を見た帽子の無い船員の目が、鋭く水面を睨んでいた。

用語解説


ハープーン

船に取り付けられた、大型のバリスタ。鎖がついている銛を射出する装置。対人魚用の装備ではあるものの、そうそう命中する物ではない。

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