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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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もう一つの理由と過激な手段

前回のあらすじ


テティは何故、二人がダンジョンに足を運んでいるかを尋ねた。そのうちの一つ、ルノミの生活の面からの必然性があると説明した。

 不思議な部分は多々あれど、ユニゾティア住人が活用する特殊な領域……グラウンド・ゼロのダンジョン。追い込まれた者が独自基準のポイントを稼ぎ、ひとまずの生活を送れる領域でもある。何も持っていないルノミに都合が良かったのもあるが、ダンジョンに潜る理由はそれだけじゃ無かった。


「ダンジョンの最深部には……ダンジョンを生成し、運用している人間がいる可能性が高いんです」

「迷宮教徒の語っている『ダンジョンマスター』の事? 眉唾話と思っていたけど……」


 テティの目線は不審半分、興味半分と言った所だ。迷宮教徒ではないと踏み絵は済んでいるので、その心配はない。だが……妄信者が語る事は、仮に真実だとしても信憑性が落ちる。彼女の心情に理解を示しつつ、晴嵐が補足説明した。


「ただの時空間の歪みで起きた……って説で考えるなら、おかしな話ではある。じゃがチュートリアルを受けたなら分かるじゃろ?」

「……すごく丁寧な導入とは思ったわ」

「新規参入の途切れたコンテンツは衰退していきますからね。初心者は優しく沼に沈めてあげないと……って姿勢です!」


 空気を読めと、晴嵐が軽く咳払い。ルノミはさほど気にせずに続けた。


「ああいう物を用意したり配置するのって、ただ危険なだけの領域ならあり得ないですよ。 タンジョン周囲の人々が、自発的にやり始めるならともかく」

「それが『ダンジョンの意思』……あるいは『ダンジョンマスターの意思』って説はあるけど……」

「間違いなく、一個人の意思と思います」


 迷いのない断言。晴嵐の想像外だが、ルノミは確信を持てる事柄なのだろう。彼は『ダンジョン』について、この世界の住人とも別の視点を持っていた。


「そもそもの話をすると……僕たちが計画した『異世界移民計画』自体が、僕の世界で流行っていた『ある創作物界隈』を母体にいていた部分があります。その中に『ダンジョン』にまつわる物もありました。探索するだけでなく『ダンジョンを運営する』目線の物も」


 テティは難しい顔で唸っている。晴嵐も完全に飲み込めた訳じゃないが……彼女なりに結論は出せたようだ。


「ごめんね。私の想像力だとちょっと、及ばない所が多いのだけど……ルノミとしては馴染みのある光景、想像が働く話って事、よね?」

「そうです。だから……千年前の移転の際、いきなりダンジョンを生成した異能力者がいて、今もダンジョンを運営している……その可能性が高く思えるんです」


 カリカリと彼女が頭を掻く。晴嵐も気持ちは分かる。この想像を妄想と笑い飛ばしたいが、今は馬鹿馬鹿しい話をする場ではない。テティは深々とため息を吐いて突っ伏した。


「僕の計画がどうなったのか、千年前に何があったのか……ダンジョン最奥にいるマスターと接触出来れば、大きな手掛かりが得られると思うんです」

「それなら晴嵐みたいに、ユニゾティア各所を巡ったり……吸血種の方に事情を話してみれば?」

「ところが厄介な事に……素直にソレが出来ん事情があるんじゃよ」

「何ですって?」


 ルノミに特殊な事情が無ければ、テティの提示した選択肢も有力だろう。しかしルノミには厄介な背景があるのだ。


「コイツのゴーレムの肉体じゃが、どうも最初から『人の魂を移し替える』目的で作られたらしくてな。しかも……記憶が途切れているタイミングがおかしい。何せゴーレムが作られたのは千年前の戦争後。コイツが『移動する予定だった』タイミングより後なんじゃよ」

「時系列の矛盾ね」

「加えて、過去の記憶の一部を都合悪く……あるいは都合よくルノミは忘れてしまっている。これらの事から『実はルノミ本人は千年前に転移を完了させており、コイツはゴーレムに魂を移したが、記憶を消された』可能性を配慮せにゃならん。変に千年前の連中に接触すると、ルノミに細工をした奴にバレかねん」

「でも、ダンジョンの主なら……いきなりダンジョンを作って閉じこもった人物なら、ユニゾティアのしがらみに囚われていない。消される心配もない。これが、僕たちがダンジョン最深部を目指すもう一つの理由です」


 ひとしきり二人が説明をすると、彼女はすぐに頷かなかった。こっちの住人からして、イかれた話ではあるし、ここまでついて来られただけ大したもの……そう思っていた。

 が、彼女は晴嵐、ルノミ両名が見落としていた可能性に言及する。


「少し話を戻すのだけどね。ルノミに何か細工をしたって話だけど……黒幕がいたとしたら、ルノミを殺してしまえば良くない?」

「殺すって、どういう……」

「あなたが目を覚ます前に『破壊』してしまえばいい……って話よ。記憶を消すなんて、半端な選択肢じゃない? 回りくどいわよ」


 ルノミが動作を止めて固まる。晴嵐は静かに唸る。指摘されるまで、全くその択を思い浮かばなかった自分自身に……男は無言で震えていた。

 確かにそうだ。バラされたくない過去、明かされると不都合な情報を持った人物がいるなら……喋られる前に口を封じてしまえばいい。移し替えたとはいえ、ゴーレム技師たちは『ゴーレムにも寿命はある』と言っていた。決して不死身ではない。

 だったら……ルノミが目を覚ます前に身体を発見して破壊するとか、転送担当の技師に金を握らせて裏切らせるとか……手段はいくらでもある。

 なのに何故、晴嵐は気づかなかった? ルノミが察しないのはともかく、黒いやり取りに慣れた自分が……どうしてちっとも想像出来なかった? その動揺を見抜いたように……テティは、晴嵐へ一つの事実を突きつけた。

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