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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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一次種族

前回のあらすじ


 食事を終えた晴嵐は、部屋に籠る前に亭主に呼び止められる。なんでも、これから兵士たちの打ち上げ回があり、テティも来ると言う。飲み物片手に彼女を待ち、やって来た彼女に常識を乞う。

 まずは『ヒューマン』と『エルフ』について学び、次の種族の解説を、興味深く彼は聞いていた。

「多いからサクサク行くわよ」


 まだこれで序の口と言うのか。この世界の底は深いようだ。一度こくりと頭を動かし、彼女もひと口、水を含んで語りを再開した。


「次は『ドワーフ』ね。主に山岳のある寒冷地に、山の中に洞穴を掘って暮らす種族ね。あまり外交的じゃないし、外と関わりも持ちたがらない種よ。140cmぐらいで成人の、小柄な種族ね」

「ほーん……この村では見なかった気が」

「……そうかも。本当に排他的と言うか、自前の領域に引きこもりがちと言うか。でもこの世界は、彼ら無しに成り立たない」

「どうして?」

「『魔法の金属』を精製してるのは、ほとんど彼らだから。武器に加工するのは、各所の職人も担当しているけど……大元のインゴット? を生産するのは、彼らか『人魚族』が主ね」


 魔法の金属……あの電撃のレイピアや、魔法の旗を精製に使う金属の事だろうか? 科学が浸透していないこの世界では、極めて重要な役割を果たす種族……なのだろう。

 もう一つの種族に、晴嵐は言及する。


「その『人魚族』ってのは、上半身が人間で、下半身が魚か?」

「彼ら曰く『イルカやクジラ系』だそうよ。想像通り海や……あと大きな川や湖にも、住居を作ることがあるみたい。水底に、だけど」

「想像つかんな」

「人魚族以外だと、招かれた人以外行けないからね……」

「いや溺れるじゃろ……」


 彼の反応を見て、少女はくすりと笑った。


「ところがどっこい……人魚族も肺呼吸なのよ。だから、住居には息継ぎポイントがあるんですって。ま、私実物見たことないから、詳しくは知らないけど」

「なかなかブッ飛んでおるな……」

「もっとぶっ飛んでいるのは『真龍種』よ」

「これ以上は勘弁しとくれ……老体にはこたえる」

「あと二種で区切るから頑張って」


 悲鳴を上げる脳に喝を入れ、水を空になるまで飲み干す。空になったコップをよそにやってから、テティの話を聴き入った。


「『真龍種』は……現在六名の存命が確認されているわ。彼らには寿命がないし、食事も必要ない」

「おいおいおい、霞でも食っておるのか?」

「真剣にその説が提唱されたこともあるわね……『だから調べさせて』って直談判した馬鹿は、消し炭になったけど」

「……怒らせてはいかん相手じゃな」

「そうね。一人ひとり能力は形は違うけど……龍形態の時は異常な怪力とサイズ、魔法金属無しでの魔法行使、そして固有の能力まで持っているから、まず勝ち目なんてない」


 意味を全て理解できずとも、語調から規格外だと伝わってくる。生息数は極端に少ないし、遭遇することはないだろうが……と、想像した晴嵐は甘かった。


「他にも、現存の種族に擬態できるそうよ。たまにお忍びで、下々の生活に紛れているとか、いないとか」


 何たることか。思わず彼は天を仰ぎ……物分かりの良い少女に、湧いた疑念をぶつけた。


「……テティ。念のため聞くがお主、その真龍種ではなかろうな?」

「恐れ多いこと言わないで……」

「いや、念のためじゃ。念のため」


 やたらと話が巧く、晴嵐の非常識にも付き合うのは……その規格外の怪物の戯れではないか? 一瞬よぎった想像は、彼女の呆れの混じった反論で打ち消された。


「それに真龍種の方々は子供を作れないの。わかる? 私はちゃんと母様の娘だから」


 妙にテティは『母親』に拘る。彼女の心情は引っかかるが、今は種族の話に集中しよう。


「わかったわかった。で、最後の一種は?」

「えぇと……『ヒューマン』『エルフ』『ドワーフ』『人魚族』……で、今『真龍種』まで話したから、後は『亜竜種』で一次種族は終りね。茶色の肌と鱗、前傾姿勢と尻尾が特徴ね」

「あぁあの、と――」


 晴嵐が「トカゲのようだ」と口にする直前、しゅっ! としなやかな掌が晴嵐の口を塞いだ。あまりの早業に目をぱちくりさせ、周囲に目を配らせ、小声で言う。


「セイラン……『亜竜種』の人に『トカゲ』は、強烈な蔑称よ。たとえ悪意無く言ったとしてもね。ハーモニーはそれで痛い目にあったんだから」

「……人間に『猿』と罵倒するようなもんか?」

「もっと酷い言い方だそうよ。だから絶対に言っちゃダメ」

「そう……なのか」


 剣呑な気配といい、咄嗟の反応といい、トカゲはかなり危険な発言らしい。ちらと広間で見た印象は、直立二足歩行するトカゲとしか思えなかった。


「他の特徴としては、魔法がかなり苦手ね。ただ近接戦闘能力はかなり高いわ。純粋な格闘戦なら、オークより上とされている。武人気質だったり、食文化が独特だったり……クセの強い種族だと思う。ここまでが、一次種族ね」

「……先程から聞いとるが、その区分けは何なんじゃ?」


 共通項があまり見られない、別々の種族たち。一体その括りは何なのだろうか? 語り部の彼女は、深く目を閉じて息を吸う。


「千年より前から、この世界で暮らしているかどうか? そこが境界よ」

「???」


 妙に彼女の口が重い。後ろめたさ? 慎重さ? 一体何が彼女の態度を変えさせている? 心構えを終えてから、晴嵐は彼女に改めて問うた。


「……この世界の千年前、一体何があったんじゃ?」

「世界を変質させた……大きな戦争があったの。ちょっと歴史の話になるけれど……『ユニゾティア』を語る上で外せないから、よく聞いてね」


 奇妙な単語が耳に残響し、語り手が重要性を言外に教えてくる。

 唄うように、彼女は言った。


「始まりは千年前……神様からの通告だった」

用語解説(今回は長いです)


 ドワーフ


 成人が140cm程度の、小柄な種族。髭や毛が多く、山の中腹に洞穴を掘って過ごす。排他的で、外に出たがらない気質だが……彼らが精練する金属が、この世界で魔法を使う鍵のようだ。


 人魚族


 所謂マーメイド系の人々。

 海は勿論、大きな川や湖にも暮らしている種族。水底に住居を作るが、呼吸方式は肺呼吸。なので住まいには息継ぎの空間があり、定期的に海面に顔を出している……らしい。また、彼らも少数だが、魔法の金属を精練しているとのこと。


 真龍種


 この世界の現在で、六名のみの生存が確認されている種族。こちらは所謂ドラゴン。

 魔法金属無しでの魔法の発動、寿命なし、食事も不要で生存可能と、文字通り規格外の存在。さらに、現存の種族に擬態、変身する能力まで持っており、お忍びで世界の様子を見に来るとか……?


 亜竜種


 茶色の肌と鱗を持ち、尻尾を生やした前傾二足歩行の種族。こちらは『リザードマン』をイメージして頂ければ早いと思います。

 ただし彼らに「トカゲ」と蔑称で呼ぼうものなら、全力でブチ転がしに来るという。軽い気持ちで言おうとした晴嵐を、テティが予測して瞬時に静止するほど。それほど危険なのだ。

 魔法は苦手だが、近接格闘戦に優れた種族。独特の価値観や文化を持つが、武人気質とテティは評した。


 一次種族


『ヒューマン』『エルフ』『ドワーフ』『人魚族』『真龍種』『亜竜種』の六種族を、ひっくるめた名前。他にも種族は存在するが、上記の種族をこう呼んでいる。きっかけは、この世界の千年前にあるようだ。

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