表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/740

第一回・常識講座

前回のあらすじ


 億劫になりながらも、宿屋の部屋から出てくる晴嵐。待ち構えるハーモニーと亭主が用意したのは、今日仕留めた猪の内臓系料理だった。最初こそ不安を感じた晴嵐だが、口にしてみればあら美味い。張りつめ過ぎなくともいいと感じ、しばし時間を楽しむ。

 ハーモニーと今日の事を振り返りつつ、ゆっくりと晴嵐は食器と口を動かす。

 徐々に活気づく店内の中、マスターは新たな客の応対に追われる。来店客を見ると、同じ格好の人間が多い。軽く漏らすと、ハーモニーが耳打ちした。


「今日は、村の兵士たちが打ち上げするって話ですから」

「あぁ……昨日のオークとの戦いでか。朝方耳にした気がするの」

「はい。でも今思うと複雑ですよね」


 頷いて、同意を示す。

 彼らの行動が、森の中でオークが熊に襲われる原因を作り……結果として人食い熊が生まれた。晴嵐とハーモニーが猪に襲われる因果も、ここから生じている。

 湿った空気を払拭すべく、皮肉を抑えて揶揄した。


「わしらも冷や汗をかいたが……おかげで今日の晩飯は豪華になった。それでトントンじゃろ」

「豚の先祖だけに?」

「ハハ、面白いことを言う」

「言ったのはセイランさんですよ~!」


 下らなく笑って、空になった食器を端に纏める。酒場として騒がしくなる前に、二人は階上に上って退散しようとした。

 階段を数歩上ったところで、慌てて亭主が彼を呼び止めた。


「セイランさん。アンタは残ってた方が良いかもしれんぜ」

「何?」

「今日昼間に、テティが顔を見に来てたぞ。大した用じゃないらしいが……これから店に来る予定だ。ここで待って、話聞いてみたらどうだい?」


 彼女側も気にしていたようだ。晴嵐としても、早めに常識を学ぶ必要がある。ありがたいことだ。

 公共の場ではあるが、酒盛りの中に紛れれば、聞き耳を立てる馬鹿もいないだろう。ちらとハーモニーに目くばせすると、彼を置いて「それじゃあお先に!」と二階に上がった。

 元の席に戻った晴嵐は、水のコップを片手に彼女を待つ。戸の開く音のたびに、ちらちらと横顔で窺う。やがて一人の女性と目が合ったが……彼女は待ち人ではない。兵士長のシエラだ。

 慌てて目を逸らすも時すでに遅し、通る声で彼を呼んだ。


「セイラン君! 昨日ぶりだな!」

「う、うむ……」


 勘弁してほしい。晴嵐は心からそう思った。苦手な人間と入れ替わり立ち代わり付き合いたくない。内心頭を抱える彼に、シエラは改めて礼を述べる。


「君の情報提供もあって、無事にオークの大半は撃退できた。今日はその祝勝会だ」

「役に立てて何よりじゃよ。ところでテティは?」

「そろそろ来ると思う。戦いの詳細が知りたいなら、彼女から聞いてくれ」

「? お主でも良かろう?」

「私は幹事として準備が……それと彼女の方が、要領よく伝えてくれると思う」


 話し上手の印象を受けていたが、テティは仲間内でも同じ評価らしい。遠目で幹事を務めるシエラを眺め、水を煽っていると待ち人は来た。


「いたいた。昼間どこ行ってたのよ?」


 むすっとした表情で、生まれ変わりの彼女が問う。来訪者の彼は肩を竦めて見せた。


「ちぃと強引に、ハーモニーから『共に狩りに』と誘われてな」

「随分余裕あるじゃない。問題起こしてないでしょうね?」

「……若干危うかった」

「ちょっと?」


 白い目で見られることを、甘んじて受け入れる。晴嵐もさんざん自虐し、反省した事柄だ。縮こまる態度を確認し、テティも棘を引っ込める。彼は懇願した。


「頼む。この世界の事を教えてくれ」

「それはいいんだけど……どこから話すべき?」


 本音を言えば……知ってる範囲の事を、何もかも教えてもらいたい。がしかし、彼女にも人付き合いや都合がある。優先順位を決めて、まず最初に彼が聞いたのは――


「この世界の、異種族についてから頼めるか? 未だに……あの従業員にギョッとすることがある」

「テレジアさんの事? 確かあなたの世界って……ヒューマン以外いないんだっけ?」

「うむ……オークだのエルフだの、全然わからん。取るべき態度や作法もな」

「……ホント、よく問題起こさなかったわね」


 改めて冷や汗を流す晴嵐。テティの声を神妙に聞き入れ、彼女の説明を頭に入れる。


「じゃあまず、一次種族から話すわね。まず私たち『ヒューマン』。あなたの世界の『ヒューマン』と同じかどうか分からないけど、私から見てあなたと差がないと思う。身体的には、だけど」

「わしも同感じゃ。妙な話だがな」


 文化こそ違えど、多分同じ種なのだと思う。不思議に感じるが、今はここを深堀りするより、彼女の説明を聞こう。


「他の種族と比べた時……よく言われる特徴は、良くも悪くも環境に染まりやすい事ね。他種族の支配地域にも、普通に適応して生活しているわ。結果として種としての一貫性がない、個人差のブレが多いと言われるわね」

「そんなモンじゃと思うが……」

「他の種族は違うのよ。あなたの常識は通じない。簡単には頭に入らないでしょうけど」


 肉体の姿勢と同じだ。長年しみついた常識は、軽々と矯正できるものじゃない。やるしかないと分かっていても、容認し受け入れるのには、時間がかかりそうだ……

 おっくうそうに天を仰ぐ彼。整理を終えたのを見計らって、テティは話を再開した。


「次に『エルフ』ハーモニーの種族ね。長寿命が特徴よ。成長も遅いけど」

「どれぐらい生きる?」

「……最長で1500才行ったか行かないかぐらいって、聞いたことある。平均はもう200年短いそうよ」

「あー……それなら30代なんざガキよな」

「身体年齢は20ぐらいまで、ヒューマンと同じペースで成長する。けど、そこから急激に鈍くなるみたい。心の方はもっと成熟に時間がかかるわ。他の種族からは青年、年頃の娘扱いされるから……いろいろ苦労や問題も多い種族よ。『レイシスト』も多いし」

「レ、レイ……?」


 突然の横文字に晴嵐は戸惑う。どこかで聞いたような気もするが、少なくとも終末世界では使われない言葉……だと思う。

 視線を宙にやった彼女は、謝罪を挟んでから用語を解説してくれた。


「『レイシスト』と言うのは……えぇと、硬い表現をするなら『自民族至上主義』の事ね」

「……ロクな思想ではなさそうじゃな」

「他の種族から見るとそうね。この思想は『自分の種族が一番だ』『自分たちの種が一番優秀だ』と言い張り、他の種族を軽視、蔑視する思想の事よ。どの種族でも、そういう主張をする人は一定数いるのだけど……エルフが主要な国家『緑の国』は特に酷くて。

 一応言っておくと……ハーモニーは例外的にかなりしっかりしてる。あの子をエルフの基準にしない方がいい」

「覚えておこう」


 あれでしっかりしているのか……と一瞬呆れたが、記憶を探ってみれば、強引な所はあるものの、最低限の礼儀は弁えていた気もする。

 改めて……この世界は元と異なるのだと自覚した。最初は生活のために学ぶつもりだったが、いつしか好奇心を刺激され、前のめりで彼女の話を聞いている。


「本当に、ずいぶんと勝手が違う」

「まだまだ序の口よ? オークやゴーレムの話もしていない」


 眉を上げて、晴嵐はまじまじと彼女と向き合う。

 異なる世界の常識に興味を抱き、彼女の語るこの世界を、晴嵐なりに楽しみ始めた。

用語解説


『ヒューマン』

種族としての人間の事。現代の人間と大きく差は無いように思える。

(備考資料)

本作は人間を『知性体』と言う意味で用います。エルフだろうが何だろうが、知性を持って意思疎通可能な相手は『人間』と表現しますので、種族名を人間と別にしました。


『エルフ』

千年以上の寿命を誇る、極めて長寿な種族。ただ、肉体に対して精神の成長が遅れがちで、問題や苦労も多いらしい。ハーモニーは、同年代のエルフと比べてもかなりマトモ……だそうだ。


『レイシスト』

 またの名を『自民族至上主義』その主義者、主張者もひっくるめてこう呼ばれる。

『自分の種族が一番だ』『自分の民族が一番優秀だ』と言い張り、他民族を極度に蔑視する思想の事。特にエルフが多いが、他の種族でもいる上、別種族のレイシスト同士が激突するとロクな事にならない。


代例

エルフ「我々エルフこそ一番だ! この世界で優秀な、選ばれた民族なのだ!!」

人間「何言ってやがる! 人間が一番に決まってるだルルォ!?」

両者「あぁん!?」


とまぁこんな具合になるので、大概取っ組み合いに発展する。はたから見ると、とても醜い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ