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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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言葉の平行線

前回のあらすじ


唐突に消えた三人の冒険者。対人関係のチュートリアルだったと判明し、冗談で言った事が本当になったと困惑するルノミ。本当なら面倒ごとをあえて引き起こす役だったが、あまりにルノミがお人よしだったがために、チュートリアルにならなかった。甘い奴ではあるが、同時に彼の美徳なのだろう……

 対人チュートリアルを終えた二人は、気を取り直してダンジョン内部への探索を続ける。これから起こるであろう、様々な相手との関係性について……否応なしに意識する事になった。

 二十一階層の初期位置から移動を始めると、他の探索者たちの声や戦闘音などが聞こえて来るようになる。ここから先から本格的に、他者との接触が起こり得る空間なのだろう。今までの二人きりで進んできた道のりと異なり、どこもかしこも騒がしかった。


「来やがったなイカレ野郎!」

「もうダメだ……おしまいだぁ……」

「逃げるんだよォォォォッ‼」

「ここは俺に任せて先に行け!」

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

「おいおいおい、死んだわアイツ」


 ルノミにとっては、聞いた事のあるようなセリフなのかもしれない。見知らぬ冒険者たちがドンバチ賑やかにおっ始めたようだ。


「……面倒な敵がいそうだ。迂回するぞ」

「アッハイ。僕は何も聞いていません」


 進路の先の喧騒を耳にして、晴嵐がすぐに身を引く。お人よしの彼は後ろ髪を引かれる思いのようだが……渋々と言った様子で彼に続いた。

 あまりルノミらしくない行動だろう。今までの彼なら、すぐに『助けないと』と飛び出したに違いない。足取りの重さからして、救出したい本心も透けている。当然の如く見抜いた晴嵐に、改めて促された。


「まだ割り切れんか?」

「……すいません」

「仕方あるまい。自分自身ってのは、簡単に変えられないモンじゃよ」


 彼らの行動は、対人チュートリアル後に話し合い、決めた方針だった。

 現在、晴嵐とルノミの目標は『ダンジョンを運営する人物との接触』だ。恐らく最深部に到達するのが確実。他にも隠された手段があるかもしれないが……少なくても、容易に対面できるとは思えない。

 加えて、ルノミには制限時間タイムリミットがある。憑依型ゴーレムの欠陥、精神の変化が生じるまで、どれだけの猶予があるのかも分からない。寄り道・道草で時間を消費している場合じゃないのだ。人を助けるために割って入ったり、偶然出会った誰かと報酬分で話し合っていては、浪費する時間は雪だるま式に嵩んでいく。知人や貸し借りがある相手なら話は別だが、赤の他人に資源リソースを裂いている暇はない――


「頭では……分かってるつもりですけどね……」

「お主自身が自分を許せんか? お人よしめ。じゃが……ダンジョンの主だって、ちゃんと懇切丁寧に説明している。命の危険がある事も、対人関係のあれこれも。お主が見捨てた所で、咎める奴はおらん」


 晴嵐はなかなか素直に物を言えない。知人一人慰めるのにも、遠回りな言い方になる。彼の言葉はいちいち正論だが……それで引っ込むようなルノミでもなかった。


「でも……小さな一を『仕方ない』で取りこぼしていったら、最終的には『何人見捨てたんだ』って話になりませんか?」

「たった一人の人間風情が、出来る事なんて多くない」

「その諦めが、救える人を救えなくしていく事になりませんか?」

「寄り道ばかりした結果、本命の時間切れになりました……なんてのは笑えんよ。それとも、救った人間を失敗の言い訳にする気か?」

「そんなつもりは無いです。ないですけど……」


 晴嵐の方針には従うが、心の底から同意出来たわけじゃない……甘い所は相変わらず。好ましい反面、ダンジョンでは命取りになりかねない――険しい目線の彼が暗に告げている。それでもルノミは……液晶の灯らない頭部を、逸らさなかった。


「それがきっかけで縁が出来て、何かの拍子に事態が好転するかもしれないじゃないですか」

「……創作物の読みすぎだ」

「現実にもありましたよ。異世界移民計画だって、僕一人じゃ何も出来なかった。何も始められなかった。名前を思い出せない誰かと通じ合えたから……始められた事ですから」

「…………そういう話ばかりじゃないんだよ、ルノミ。誰かを救っても、恩が返って来るとも限らん」


 二人の話は、いつだって結論が出ないままだ。

 そして厄介なことに、お互いに相手を『間違っている』とも言い切れない。

 自分の経験、自分の体験を元としたはかりで……こうでもない、ああでもないと論調をぶつけ合う。答えが無いと知りながら、より良い未来に向けて進もうとする。同じ思いを抱きながら、部分的な理解を示し合いながら、根本な所は曲げようとはしない。曲げられない。やがてどちらかが、どこからともなくため息を吐いて諦めるのだ。


「……やめましょう。今はダンジョンの攻略が先です」

「だな。お互い、一番欲しいものは共有しておる」


 ここまで性質が異なるが、地球人であるが故に対立は互いに避ける。ダンジョン内の喧騒に注意しながら、腹に抱える物を持ちながらも、二人組の探索者は階層を攻略していく。最低限の情報を交換しながら、三つほど階層を攻略した所で……彼らは先行する集団とぶつかった。


「よし! 総員点呼! その後警戒班を三分ごとにローテーション。計十五分この場に待機し、十二分の休息を許す。その後は、門番前の二十九階層まで休息は無しだ。連戦想定の行軍訓練とする!」

「はっ! 全軍に通達します!」


 この場に合わぬ統率力のある、覇気のある声が聞こえた。

 前方広場にたむろする集団……その衣服に、晴嵐は既視感を覚えていた。


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