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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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割引券の正体

前回のあらすじ


オデッセイ商会に辿り着いた晴嵐は、頼まれた通りにゴーレム部品の発注手続きを終える。ついでに割引券を渡し、使い道を尋ねたが受付は首を傾げた。詐欺の疑いもあると相手方が調査に入り、晴嵐はしばらく待つ事に。

 オデッセイ商会に行き、ゴーレム工房の部品発注をして帰る予定だった晴嵐。そのついでに、過去に貰った割引券を使おうとした……それだけだったのだが、受付の反応が芳しくない。偽物や詐欺の可能性があるらしく、現在確認中とのこと。思わぬ藪蛇を踏んでしまい、逃げ出したい気持ちもあるが……ルノミが世話になっている工房の『おつかい』で来た以上、すっぽかして印象を悪くするわけにもいくまい。頬杖をついて、けれど落ち着きなく待っていると、受付を担当した人物が結果を伝えに来た。


「お待たせしました」

「ん。どうだった?」

「『本物』です。ただ……」


 受付の人物が、渋い表情で頭を掻く。どう説明した物か……と思い悩んでいるようだ。普通に使える様なものでは無いらしい。悩み込む相手に対し、晴嵐は無言で続きを促した。


「こちら……割引券になるかどうかは、これからのあなた次第と言いますか……」

「一定金額以上のお買い物で無いと使えない……とかか?」

「いえ、そういう訳でも……お時間取れますか?」

「…………」


 正直回答に困る。本当の事をぶっちゃけるなら、今後の用事は特にない。このまま帰るか、ライブラリに行って歴史資料の調査を考えていた。優先事項は無いのである。

 が、それはそれとして……面倒な駆け引きやら、ややこしい商談に巻き込まれるのはゴメンだ。根なし草の晴嵐は、決して余裕のある生活をしていない。金もあるにはあるけれど、あくまで備蓄の一環。無駄使いはしたくないのだ。


(じゃが……ここでしか聞けない話はありそうなんじゃよなぁ……)


 歴史ある商会、創業者の一族については興味がある。あの時は時期の悪さもあって、深く追求する事は出来なかった。

 迷いはあるものの……話に乗っても良さそうではある。信用云々については、何も晴嵐側だけの話ではない。ここで彼に対し、高圧的なやり方をすれば……それはそれでゴーレム工房側の心象を損ねる結果を招くだろう。黙考の後に晴嵐も切り返した。


「……今からなら、少しだけ」

「では……これから応接室にご案内します。そこから先は担当の者が応対します」

「分かった」


 あくまで受付は受付。赤い金属プレートには、専用で担当する人間がいるらしい。これから何が待っているのやら……晴嵐は固い面持ちで、案内されるがまま応接室に招かれる。質素ながらも嫌味の無い装飾の扉に手をかけ、出迎えた相手は見覚えがあった。


「リリック様、お待たせしました」

「おう。お疲れ。悪いな」

「いえ。それでは業務に」

「上になんか文句言われたら、俺の名前を出して黙らせていいぜ」


 上物を着ておきながら、口調は軽く粗野な印象を受ける商人……間違いない。亜竜自治区で会った人物『リリック・オデッセイ』だろう。大手商会の一族の姓を持ちながら、妙に軽薄な態度で接する姿は変わらない。恐らくは素なのだろう。

 テーブルには紅茶とビスケットが置かれ、いくつか開封済みのようだ。その手元には、渡した赤いプレート上の輝金属がある。この男から渡された『割引券』を手に、まじまじと本人が文字列を浮かべて読んでいた。


「旅人のセイラン……か。詳細を見るまでは忘れてたが……ざっと通しただけでも思い出せたぜ。顔見りゃ一発だ」

「……こっちはやっと思い出せたって所じゃな。色々と忙しかったものでね。しかし、これはどういう事だ?」


 胸の内にとどめておくか迷ったが、あえて晴嵐は声に出す。牽制も兼ねての疑問は、軽薄な……けれど剣呑な眼差しを持って返された。


「コイツは一族御用達の……使えそうな奴に唾をつけておくためのモンでね。会った場所、日時、名前、印象や職業を書き込んで保存できる。中身を確認したり入力や削除が出来るのは『一族』だけ。要はスカウト用のタグだよ」


 ライフストーンの亜種なのだろう。閲覧や文章の書き込み、削除に制限を持たせるのも利便性は分かる。ただ、晴嵐としては非常に納得が行かない。


「おいおい……割引券じゃ無かったのか?」


 系列店で安く買えるからと、釣られてみればコレである。だまし討ちにあったような気分だが、リリックは肩をすくめるばかりだった。


「気分悪くなるのは分かるよ。それに何も詐欺って訳じゃない。こうして再会した相手には最低でも3%の割引を、それ以上を求めるなら要交渉って所だ」

「随分と実践的な面接だ。絶妙に嘘でないのも素晴らしい」

「嫌味言われるのも慣れてるよ。でもこうでもしないと、別れた相手と再会なんて難しいし、縁も切れやすい。だろ?」


 一定の論理はあるけれど、いくつか疑問点もある。唐突な面接なのもあって、少しだけ強気に声を出した。


「だったらその場で誘えばいいじゃろ。一度別れて、間を置く理由は?」

「縁と運を見るためさ。あとは……一旦時間を置いて、渡した俺達側が冷静になるための期間を作るって感じ。その場合はNG登録して、3%の割引券を渡してお引き取り願う」

「後々冷静になるための期間……ってのは理解できる。じゃが運と縁は? どんな人間だっていつかは死ぬし、いつ死ぬか分からん」

「その時はご縁が無かった……って奴さ。実力も必要だが、運の強さも欲している。ましてやこれは普通の選考ルートじゃねぇ。これぐらいのハードルは超えて貰わないと」


 軽薄に飄々と、調子を崩さないリリック。まだ心情を伺いきれないが……まだ晴嵐は席を立つ気になれない。

 見方によっては……これはオデッセイ商会の内情や歴史的背景を聞き出すチャンスだ。ここに就職するかはともかく、すぐに蹴ってしまうのはもったいない。言葉で駆け引きしながら、内情を引き出してみるとしよう……

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