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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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おつかいのついで……のつもりが

前回のあらすじ


タチバナからの頼みで、オデッセイ商会に行くことになった晴嵐。初代やその時の時代背景について考えるが、考察すればするほど分からなくなる。反則能力持ちなら中途半端、現地住人ならえげつないリスク覚悟で大罪人と取引した事になる。頼まれごとついでに、軽く探りを入れてみるのも良いと晴嵐は考えた。

 オデッセイ商会、聖歌公国本部は……相当な広さを持っていた。

 有する面積敷地もさることながら、それが三階建てに加えて、地下二階までの合計五フロアが存在するとなれば……晴嵐がこの世界で見た建造物で、最大クラスの敷地と見て間違いない。緑の国の古い建造物『ユーロレック城』に匹敵するだろう。違いがあるとすれば、建造物そのものが新しい匂いに満ちている事か。必要に応じて増改築を繰り返したのだろう。


「ふぅ……探し出すまで一苦労じゃわい……」


 ゴーレムの部品を扱う部署は一階だったが、それでも扱う品々が多すぎる。日用品、輝金属の製品、ゴーレムの部品などなど、多彩な商品を流通させているようだ。おかげで、晴嵐が用のある部署を探すのに時間がかかった。


「あー……ゴーレム部品の受付窓口はここか?」

「はい。そうです。ご用件はなんでしょうか?」

「ゴーレムの部品発注と、そちらに依頼していた調査報告を受け取りに来た。わしはゴーレム工房・タチバナの使いで……」


 受付の丁寧な受け答えと、事前にタチバナから預かったメモのおかげで、発注受け付けはすぐに終わった。受付表も、恐らくは専用のライフストーンだろう。紫色の石に切れ目が入っており、少し力を入れれば、綺麗に二つに割れるだろう。それを差し出しつつ、光り輝く無数の文字列を表示した。


「これで一通りでしょうか? 契約を締結しますので、お手数ですが再度確認をお願いします」

「承知した」


 契約書類のようなものだろう。最後の確認も手を抜かずに、一字一句逃さずに確かめる。変な内容を追加されていないかも、素人なりに読みこんだが……変な改変などはない。軽く息をついて同意を示すと、受付がパキリと石を二つに割った。


「では、こちらが控えになります」

「あぁ。助かる」


 これで双方の合意の上、書類が作成できたのだろう。そのままの流れで、受付は紙の書類と別のライフストーンを取り出した。


「こちらが調査報告書になります。ご確認下さい」

「あぁ」


 受け取って、大事にしまい込む晴嵐。これでメインの頼まれごとである『おつかい』は完了か。立ち去ろうとする受付の人員を男が呼び止める。


「あー……すまん、別件の話になるのじゃが」

「なんでしょう?」

「ここ、直接商品を売買している訳では無いんじゃろ? 小売店の場所はどこにある? 特に日用品を扱っていて、コイツを使える店がいい」


 彼が懐から取り出したのは、赤い輝金属のプレート。商人から割引券として雑に渡された物だ。確か、ユウナギの本店で……なんて事も言っていた気がする。

 ――そこでふと妙だと思った。ここは確かに大きな発注や受注はしているが、商店ではない。いくら大手商会とはいえ、本部は取引の場であって……実際に客相手に品を売買するのは小売店の仕事だ。なのに『ここで使え』は、ちぐはぐな気がする。現に、受付の相手も首をひねっていた。


「こちらは……?」

「身なりのいい商会の人間から『割引券』と言って渡されたんじゃが……」

「……見覚えが無いですね」

「何……? まさか詐欺師だったか?」


 相手の芳しくない反応を見て、晴嵐は若干動揺したが……仮に詐欺だとしても、何もおかしな事はあるまい。

 有名どころの大手商人や商会の名を使って、何も知らない奴をハメるのは詐欺の常套手段。名前こそ忘れてしまったが……大手商会一族の人間であれば、個人の知名度も十分。現に晴嵐は、ここに来るまで詐欺の可能性を考えてもいなかったのだから。


「場所と時期は覚えていますか?」

「亜竜自治区で……武人祭の最中。緑の国との戦争前……宣戦布告の前だった気がする」

「なんと名乗りました?」

「おぼろげにしか……確か、り、り、」

「リリック・オデッセイ?」

「そうじゃ。確かそんな名前じゃった」


 この受付、中々勤勉な人物らしい。自分が勤める会社役員の名前など、いちいち全部覚えている人間も多くはあるまい。それとも、たまたま近い部署で名を知っていたのだろうか? どちらなのかは晴嵐に分からないが、応対する相手の表情は、不審から緊張に変わった。


「……どう思う? 騙りか?」

「私個人としては、現状では何とも言えません」


 第三者目線からしても、晴嵐の主観で見ても、詐欺か本物かも分からない。おぼろげな記憶を辿ってみれば……黒い所もあったものの、普通の商人と駆け引きした気がする。露骨なハメ手はそぶりも見せなかった……と思う。


(……もしかしてわし、なんか面倒な事につっこんじまったか?)


 割引されるからと釣られてしまったのだろうか……? 渋い顔を見せる晴嵐に対し、あくまで事務的に受付の人間が応じる。


「上に確認してまいります。そちらにおかけになってお待ちください」

「……了解した」


 ……本当は逃げてしまいたい気持ちもある。けれどここで逃げ出したら、それこそ『何か後ろめたい事があるのではないか?』と疑われる。これが晴嵐個人ならまだいいが、今回はゴーレム工房・タチバナの使いとして来ているのだ。そちらに傷をつけるのは申し訳ないし、今後ルノミとの関係に難儀するだろう。


「タダより高い物はないと言うが……ううむ」


 ただおつかいして、運が良ければ史実についても探ってみようかと考えていた晴嵐。

 けれど人生、思ったようにはいかないもの。指し示された休憩スペースのテーブル席に、一人そわそわしながら、居心地悪く次の展開を待った。

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