表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

594/738

改良期間

前回のあらすじ


迷宮の味噌料理『イシ・カー・リ』の実食に入る晴嵐。懐かしい味噌と濃厚なエビのダシに、見覚えが無いのにどこか懐かしさを感じる白い麺を味わう。ユニゾティア特有のゲテモノ料理なのに、どこか懐かしさを覚える晴嵐。素材の一つ一つを紐解いていけば、日本食のエッセンスがちりばめられていることに気が付く。初体験なのに懐かしい、奇妙な心象だったが、存分に楽しんでから帰還した。

 迷宮の味噌料理を味わって戻り、晴嵐がルノミにその詳細を話した翌日……彼が血の涙を流して悔しがった後、すぐに『もう一度迷宮に!』とはならなかった。

 二人ともやる気はあるのだが、待ったをかける者がいたのだ。ルノミが世話になっている、ゴーレム職人たち……いや、複数形は正しい表現ではないだろう。何せ女性ドワーフ技師のタチバナは、暴走する相方に呆れ果てていたから。


「ごめんね。グリジアが『ロマン馬鹿』状態に入っちゃって……」

「…………」


 額を押さえ、天を仰ぐ晴嵐。何が起きたかは容易に想像できた。工房の入り口で話す二人の耳に……怪しげなドリルの音と、それ以上にやかましい声が聞こえて来る。原因ははっきりしていた。多分、前回の探索の情報を元に、ロマン溢れる改造をしようとしているのだろう。


「グ、グ、グリジアさん⁉ ちょっと待って!? 流石にそれは――」

「何故逃げるんだい? 君もロマンを求めているんだろう!? ならば僕とっておきの改造パーツを装備してくれてもいいじゃないか!」

「う……! た、確かにそうですけど、だからってそんな大量のドリル向けられるのは……!」


 ……どうやらルノミはグリジアに追い回されているようだ。いつもは彼と一緒になって、ロマン馬鹿を増長させていたような気がするのだが……今回は事情が違うらしい。本気の焦りが外にまで響き渡っていた。


「何故そんなに心配なんだい? ルノミ君が『エネルギー切れが怖いから増設してほしい』と『飛行分離パーツを腕部と統合していると、損傷した時や動力が切れた時に不備を起こす』と指摘されたから……さっそく新しくも大胆な改造を施そうって言うのに!」

「え、えぇと……」


 いつもならノリノリで共犯者になるルノミだけど、今回は『ロマン馬鹿』の被害者らしい。自分の言動が自分自身に帰ってきた形だ。声しか聞こえていないが分かる。きっとルノミは、本気で冷や汗をかいているに違いない。だが、いつもと様子の異なるのをロマン馬鹿の技師に気づかれてしまった。


「どうしたんだいルノミ君……君らしくないぞぉ? いつもなら自分から進んで調整を受けてくれるじゃないか! まさか僕の腕が信用できないと!?」

「い、いや! 信用はしてますよ? してますけどぉ! やっぱりそれはそれとして怖いですって‼」

「新しい挑戦に失敗はつきものさ!」

「失敗前提!?」

「おっと失言。でも大丈夫大丈夫。ちゃんと戻せるようにしないと殺人罪だからね。不可逆な改造はしないから、安心して身を委ねてくれたまえ!」


 キュイイィィイイイィイイイン‼ と、ドリルの回転音が上がるのと、ルノミの叫び声はほぼ同時。晴嵐が不安げな顔をすると、微妙な顔でタチバナも苦く笑った。


「こんな感じで……ルノミは改造手術中だからダンジョンに入れないの」

「……大丈夫なのか、アレ?」

「平気平気、腕は確かだから……」


 なんて談笑していた直後、工房から事件性のある悲鳴が聞こえてくる。同時にマッドサイエンティストの気配を滲ませた、とても楽しそうなグリジアの声が響き渡った。


「……本当に?」

「…………たぶん」


 絶対はあり得ないので、タチバナも断言はしかねるのだろう。真面目な二人組がため息を吐く。これ以上ルノミの悲鳴が外部に漏れると、あらぬ疑いを持たれかねない。工房の扉を閉めて、改めてタチバナが話を続けた。


「セイラン、今日は暇?」

「まぁな。ダンジョンに潜る気でおったから」

「それなら……おつかい頼まれてくれる?」


 晴嵐が軽く首を傾げる。人手が足りないのだろうか? それに晴嵐と共通の知人、ラングレーもゴーレムを輸送した経緯から縁があったはず。彼の沈黙と疑問に対して、タチバナが自分から明かした。


「ラングレーも最近、ダンジョンに潜っているみたいなの」

「あいつもか?」

「うん。なんでも、友人の治療法を探すために『賢者カイル』ってレアアイテムを探すって」


 初めて聞く名称の道具だ。ユニゾティア固有の物かと思ったが、ならばダンジョンに潜る必要はあるまい。恐らくはそこでしか入手の出来ない何かなのだろう。友人とは恐らく……


「……スーディア」

「? 誰?」

「ラングレーの友人の名前じゃよ。わしとも共通の知人だ」

「……そっか」


 タチバナの想像するような、一般的な知人関係ではないが……そこにある結びつきを知って、タチバナは深入りを避けた。だから晴嵐もそれ以上は語らず、タチバナ側の話を引き出す。


「お主は行けないのか?」

「そのつもり……だったんだけど……」

「あー……」


 タチバナが後ろを気にして察した。ロマンに飲まれ暴走するグリジアを止めれるのは、相方のタチバナ・ムライただ一人。もしも目を離そうものなら、ルノミがとんでもないゲテモノ改造されてしまうかもしれない。絶対に避けて欲しい展開だ。


「……何をしてくればいい?」

「オデッセイ商会に行って、ルノミのボディ……憑依型ゴーレムについての調査報告を受け取って来て欲しいの。紙とライフストーン、両方の書類があるはずだから受け取って来て欲しい」


 話を聞く限りだが……どうもルノミの現在の肉体は、現在製造されていないタイプらしい。何故そうなったのかについて、調査を依頼していたようだ。場合によっては、ルノミの身体がどこで作られたかなども、大手商会の伝手を使って調べていたらしい。晴嵐としても少し気になる点だ。話を了承し、頷く彼にタチバナが続ける。


「それと、ゴーレム部品の発注をしてきて欲しい。リストはここに全部入ってるから、商人に渡せばそれで大丈夫」

「ふむ……専門的な事は分からんが、平気なのか?」

「汎用的な部品しか注文してないから。ただし、変な口車には乗らないで」


 何かにつけて、あれもこれもと勧めてくるのも商人である。売り込む側だった晴嵐も身に覚えがあるので、神妙な顔で頷いた。

 そこでふと思い出す。確かオデッセイ商会とは……ちょっとした物を貰っていた筈だ。


「タチバナ、余計なお世話かもしれんが……確か、あそこの割引券が手元にある。もののついでじゃ。何か日用品で買ってくるものあるか? 少しばかり安く買って来よう」

「ん……ちょっと待ってて」


 晴嵐の言葉を受けて、タチバナが閉じた扉をもう一度開ける。

 ルノミの悲痛な叫びが響いたが……二人は、聞かなかった事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ