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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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イシ・カー・リの実食

前回のあらすじ


懐かしい味噌の香りに誘われて、晴嵐が入った店は……ラーメン屋の雰囲気のある店だった。とりあえず推されている商品を一つ頼み、さっそく実食に入った。



 箸とレンゲを手に取り、ユニゾティア特有の料理と向き合う晴嵐。通の食べ方は知らないが、ベースの料理がラーメンとするならば……スープからいただくべきだろう。左手の食器でオレンジ色の液体を掬い取り、ずずっと一口含んだ瞬間――


「ぉぉ……!」


 一口目から美味い! と叫びそうになるほど強烈だった。海老の風味と味噌の香りが鼻の奥を通り抜けると同時に、それらが持つ濃厚な旨味が、雪崩の如く脳髄を突き抜ける。強めの香りだから、苦手な人間もいるだろうが……この店を選んだ晴嵐は、もちろん美味しくいただける人種である。

 まだまだ楽しみはこれからだ。ご飯三杯はいけるスープに、真っ白い麺が浮かんでいる。素早く口に運んで啜れば、ツルツルの喉ごしと絡んだスープが口いっぱいに広がる。一口噛み締めてみれば『モチッ』とした食感が弾力を返してきた。


「んん?」


 やはり小麦や中華麺ではない。滑らかな舌触りにモチモチ食感。噛み締めていくと仄かな甘みがする。それが濃厚スープと混じり合えば、香りと旨味の中に、柔らかな甘みが加わり……たまらない。


「何の麺かは分からんが……ふふ、美味い」


 するすると麺を啜りつつ、晴嵐の箸は流れるままに具材に伸びた。まずは大きなネギを麺に絡めて一緒にいただく。合うのかと少し不安もあったけど、濃厚なスープと調和しつつ、ネギの風味がよく馴染む。麺とも異なる食感が良いアクセントになり、ネギの中の隙間もスープで満たされていた。

 次は白身魚。これもあまり見ない具材だ。どうやら煮崩れしないように、あらかじめ表面に軽く小麦をまぶしてから、焦げ目がつく程度に火を通している。食べやすいサイズに箸で切ってから、これも麺と一緒に味わってみた。


「くーっ……!」


 程よく焦げた香ばしさと、白身魚の淡泊な旨味が、海老味噌スープによって味わいを増幅させている。表面はサクサク、中はホックホクの魚の切り身が彼を楽しませる。改めて麺を啜った時、ふと脳が『懐かしい』と感じた気がした。

 妙だ。こんな料理は食ったことが無い。味噌と海老のスープに、魚の切り身とネギ、謎の白い麺を味わって『懐かしい』とは珍妙極まる。こんな料理は地球上に存在しないはずなのだが……味噌の料理を食ったからか? そこまで自分は味音痴だったか……?


(ぬぅ……食ってれば思い出せるかのぉ……)


 悩んで箸を止めて、麺がのびてしまっては台無しだ。時々レンゲでスープを味わいながら、中身に手を付けていく。次にいただくのはほうれん草。特に目立った味付けは無いが、旨味を全面的に押し出したスープに対し、苦みと渋みで舌を休ませる狙いだろう。栄養価にも気を使ったのかもしれない。その上にある揚げ出し豆腐は……箸だと崩れそうなので、レンゲで掬ってスープごと口に含んだ。


「これはまた……強烈じゃのぅ……!」


 熱々の濃厚な海老味噌スープに、豆腐が合わない訳がない。何より素晴らしいのは……揚がった外枠部分をたっぷりスープに浸らせれば、キツネ色に揚がった部分に旨味が染み込む。浸かっていない部分はザクザクさっくさくの食感を、浸った部分はしんなりとした食感の変化も楽しい。一口スープをいただき、白い麺をもう一度啜った瞬間……稲妻のように、晴嵐の魂に懐かしさと再会の喜びが駆け巡った。


「何だ……? 初めてのはずなのに、この組み合わせは食ったことがある気が……」


 味噌、豆腐と来て、連想するのは味噌汁だろう。しかし味噌汁に麺類は使わない。なのにこの味の組み合わせ、仄かな甘みのするこの白い麺と味噌、そして豆腐の組み合わせに、強烈な既視感がある。

 いや、既視感はこれだけじゃない。ネギや白身魚でさえも、どこかこの全体の味わいが懐かしいと……晴嵐の意識ではなく、晴嵐の奥底のルーツが訴えている気がする。もう一度具材とスープ、そして謎の白い麺をモチモチと食べ進めて……ついに晴嵐はその正体に気が付いた。


「これは……この懐かしい味わいは……! そうか、そうだったのか……」


 麺の正体に気が付いた。これは米だ。米を練って作った麺『米粉麺』に違いない。この僅かな旨味と、仄かだけど確かな甘みは、コメ特有の風味が確かに感じられる。


「どうりで……初見なのにどこか懐かしいわけだ……」


 白い米、暖かい味噌汁、焼いた魚、そしておひたし……日本の代表的な朝食を形作る要素が、この迷宮の味噌料理『イシ・カー・リ』にちりばめられている。海老味噌の濃厚なスープや、食器やどんぶりからラーメンを連想していたから……晴嵐は気が付くのが遅れたのだ。


「まぁでも、ずいぶん魔改造されておるのぅ……」


 濃厚な旨味たっぷりのパンチの利いた味は、伝統的な日本食からはかけ離れている。しかしもう一度意識して米粉麺を味わい、レンゲで濃厚な味噌と海老のスープを飲めば、懐かしくも新しい味わいが口いっぱいに広がった。


「ユニゾティア特有の、ゲテモノ料理には違いないが……」


 期待した日本食とは異なるが、これはこれで美味しくいただけた。麺はもちろんのこと、どんぶりの底がうっすら見えるくらいまで、濃厚なスープもいただく。幸福な充足感で満たされた晴嵐は、気持ちよく迷宮ポイントを支払って店を後にした。

 なお後でルノミに質問を受け、包み隠さず絶賛した所……彼は本気で悔しがりながら、血の涙を流していた。

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