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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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エンカウント

前回のあらすじ


森に漂う血の臭いを察した二人は、元をたどってオークの死体にたどり着く。やられ方や残った足跡から、人食い熊の存在を断定。村に帰ろうとする二人、響く誰かの悲鳴。逃げるべき、助けるべきともめる二人へ、森の中から飛び出した気配は――

 茶色の体毛、口の端から鋭く伸びた牙。長く伸び、鼻息荒く走り回る姿は、まさに猪突猛進。成体の猪が、森に佇む二人の前に飛び出した。

 さっきの悲鳴に興奮したのだろう。目が血走り、フゴフゴと殺気立った呼吸で、晴嵐とハーモニーを睨みつけて対峙する。

 熊よりはマシだが、この遭遇はついてない。動物にとっても、二人にとっても、不幸な事故のようなものだが……なだめて済ませる空気じゃない。敵意を膨らませた猪が、首を上げて咆哮を上げた。

 

 フゴオオオオォオオッ!!


 木の根や枝も何のその。全力疾走で突き進む獣に、狩人たちは左右に分かれて避ける。牽制でナイフを投げつけたが、態勢の悪さと毛皮に阻まれ刺さらない。舌打ちする晴嵐側に、通り過ぎた猪が再び突撃を仕掛けた。

 手に持った道具を切り替え、調味料の詰まった袋を握る。思いっきり振りかぶり、投げつける寸前に叫んだ。


「鼻を塞げ!」


 投擲される袋が、猪の頭部に着弾。中身の粉末が一気に広がり、猪が動揺して悲鳴を上げた。

 袋の正体は、乾いた小麦粉とコショウを混ぜ込んだ粉末。晴嵐お手製の護身用催涙煙幕だ。今回はトウガラシ粉末も配合されて、催涙効果を上げている。猪は大きな鼻で吸い込んでしまい、赤みのかかった白い煙幕に悶絶した。


 フゴッ!? フゴオォッ!?


 突進をやめ、バタバタと頭を振って悶える獣。近場の木に激突し、一斉に枝から大量の葉っぱが落ちる。指示通り鼻を覆っていたハーモニーは、慌てて弓を構え矢をつかえた。

 鼻を刺激する粉末を堪えて、粉塵で視界の悪い中で狙いを定める。白い煙を引き裂き、一本の矢が獣へと突き刺さった。


 フゴオオオオオォッ!!


 立ち位置が悪く、さらに煙幕で狙いがずれた。命中こそしたが右足の臀部。人間で言えば尻、脂肪と筋肉の厚い部分だ。痛みに呻いても、致命傷には程遠い。ぎろりと殺意の矛先を変え、再び猪が速度を上げてエルフの狩人に突撃した。

 慌ててハーモニーは『鎧の腕輪』――『鎧の腕甲』の一般向けの道具だ――を起動させ、強襲から身を護る。衝撃を殺しきれず、吹っ飛ばされた先の細木が、みしりと軋んで絶叫する。


「っく!」


 そのままもらえば致命傷だが、光の膜に守られ重傷は負わずに済んだ。呼吸も鼓動も早くなって、打った背骨がズキズキと傷む。歪んだ視界の先に、荒れ狂う獣がハーモニを睨んでいた。

 狩人と獣が、体制を整える前に――もう一人の狩人が、後ろからナイフを振り下ろした。

 ちょうど矢が刺さった場所に、追撃の刃物を捩じ込んでやる。たまらず大きな悲鳴が森の中でこだまし、鼓膜に痛みを伝えてくる。

 それでも彼は手を離さない。刺さった矢で内部を抉り、追撃のナイフを連打する。暴れ出し、振り払われる前に晴嵐は飛び退き、一瞬向いた頭部目がけ、投げナイフを食らわせた。

 数本は外れ、一本は牙に弾かれるも……一本が瞼の上に突き刺さる。眼球への直撃にはならなかったが、薄い皮膚が切り裂かれ、激しい出血を引き起こす。

 さらに追撃は止まらない。もう一つ煙幕袋を投げつけると、猪は先程より四肢を痙攣させ、激痛に身悶えた。開いた傷口から刺激物が染み込んでいく。トウガラシ入りの粉末は、傷口に塩を塗り込まれたようなものだ。


「どうした!? それで終いか!? この豚野郎!」


 痛みに沸騰する猪に、痛烈な罵倒を浴びせかける。煙幕の外から叫ぶ挑発に、顔を真っ赤にして猪は突っ込んだ。

 音を頼りに煙を向けた先は……太い幹を持つ木が直立している。視界を潰し、木の裏に隠れて、晴嵐は挑発し誘導を仕掛けた。まんまと引っかかった猪だが、走り出したら急に止まれない。猛然と激突し、巨木が歪む。無数の葉が散らばり、裏に居た晴嵐も倒れた。

 顔を歪めたのもつかの間、相方の狩人に向けて叫ぶ。


「今じゃ、やれハーモニー!」


 打撲の痛みから復帰した彼女が、もう一度弓を構える。

 風を裂いて突撃した猪は、頭を打って脳震盪を起こし動けない。その心臓目がけて、真っすぐに一本、矢を放った。

 正射必中。この近距離で、視界が十分なら外さない。斜め後ろから肺を貫き、心臓を射抜いて見せた。

 やかましかった猪の断末魔は、小さなブゴッ。という呟き。一度大きく痙攣して、地面に横たわり、口から血の泡を吹いて、絶命した。

 ずじりと地べたを振動させ、あれほどの脅威が動かなくなる。構えた二本目の矢を下ろし、ほっと彼女は一息ついた。


「や、やった……!」

「落ち着くには早いぞ」

「!?」


 まだおぼつかない足取りで立ち上がるも、瞳に鋭い光がある。息を飲むハーモニーに、淡々と事実を告げた。


「コイツが襲ってきたのは、人の悲鳴を聞いたからじゃ。誰かが熊に襲われた悲鳴をな」

「そ、そうでしたね」

「早めに運び出さんと、その人食い熊が来るかもしれん。連戦はゴメンじゃぞ」

「っ! は、早く行きましょう!」

「いい感じの丸太を探すぞ。ロープはくくり罠用をわしが持っておる」

「分かりました!」


 まだ去ってない危機に煽られ、二人の狩人が大急ぎで猪を逆さに縛る。

 激戦の疲弊も、大物を仕留めた余韻も忘れて、二人はグラドーの森から抜け出した……

用語解説


鎧の腕輪


 鎧の腕甲は軍人用の装備だが、全身に防壁を張れる機能は護身用に便利。なので、一般向けの出力と見た目に落とし込んだ物。性能は低いが、より持ち運びやすくなり、ワンポイントおしゃれアイテムとしても人気。


晴嵐手製の催涙煙幕(専門用語ではないが一応)


小麦粉にコショウなど、刺激的な調味料を配合した粉袋。投げつけると白煙を立てて広がり、視界を塞ぎつつ催涙効果で足止めする。今回はトウガラシ粉も配合で、より涙腺に刺激的。店で作ってた「護身用の道具」はコレ。

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