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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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鎧蜘蛛の猛攻

前回のあらすじ


如何にもボス部屋の門をくぐると、本当にボスが待ち構えていた。上半身に鎧を身に着けた人型と、八本の脚をもつ蜘蛛の胴体が立ちふさがる。気の抜けたルノミの言葉に調子が狂ったが……戦いの火ぶたは切って落とされた

 十九階層の最奥、二十階層への道を守る門番は難敵だ。八つの脚で肉体を支え、前足の二つは攻撃にも用いてくる。手に持ったシンプルな直槍も脅威で、明確に命の危機を晴嵐は感じていた。


(わしの武器や立ち回りと相性が悪いな……)


 晴嵐の手持ちは大振りのサバイバルナイフと、ユニゾティアに来てから用いるヒートナイフ、投擲用のダガーが主な攻撃手段。あとは鎧の指輪による簡易防壁と、手製の煙幕袋が晴嵐の手札だ。小回りとからめ手を主としている。正面戦闘が強要される領域に加え、間合いの広い槍使い相手はやや厳しい。懐に入ろうにも前脚が邪魔だ。

 他の択としては……近接格闘か投げ技か? しかし打撃は鎧で防がれそうだし、組技はむしろ危険だろう。以前亜竜種組み合った時も、重心が安定する相手では有効打にはならないと経験済みだ。だからこそ晴嵐は、素直に隣のゴーレムを頼る。


「ルノミ、腹くくれ。わし単独ではキツい」

「……はい!」


 勝ち目があるとすれば……自分たちが二対一な事と、ルノミの『フィンガー』『ネイル』の使い所だろう。試作品故に、初見殺しが通る可能性があるが……現在エネルギーの残量がギリギリで、この部屋に入る前に話し合った所『何とか数回動かすのが限界』と言っていた。

 となれば……不意打ち一発で決めるか、使わない前提で戦局を進めるか。現状を冷静に分析し、自分たちの勝ち筋を晴嵐は練るが、相手も黙って待ってはくれない。僅かに現実から意識が逸れた刹那に、鎧の蜘蛛が大きく跳躍し上から襲い掛かった。


「転がれ!」

「ひぃっ!」


 攻撃が大振りで助かった。八つの脚部を使った跳躍は、天井近くまで飛び上がっている。構えた直槍を地面に向け、着地した瞬間に決戦のバトルフィールドを震わせた。

 二人はそれぞれ反対に転がって避けたが、細かに飛散するつぶてから身を守らねば。晴嵐は鎧の指輪で、ルノミは二回り大きな腕部を前にして防いだ。

 余波だけでもひしひしと危険を感じる。直撃は鎧の指輪では防げないだろう。ゴーレムの身体でも受け切れるかどうか怪しい、強烈な技だ。

 けれど、まだ心構えの甘かったルノミは……本気の攻撃を受けたからだろうか、怯えながらも勇気を振り絞り、何か叫び声を上げながら、不器用に槍を構えて真っすぐ突進する。拙いながらも挑むゴーレムへと足を動かし、門番は正面からルノミの一撃を悠々と受け止めた。

 槍を使うまでもない。二つの前足で防がれ、門番は不敵に嘲った気がした。


「どうした? 及び腰ではないか」

「何おぅ!?」


 煽られて頭部の液晶画面を(#^ω^)と表示させ、力任せに槍を振るう。伊達にロボットめいた構造をしておらず、前足二つを大きくはじき返す。思わぬ反撃を受けた鎧蜘蛛は揺らいだが、反撃の刺突を繰り出した。

 同じ槍が激突し、力比べの形になる。両者拮抗し、押し切れず近距離でにらみ合った。


「訳が分からぬな!?  素人な癖して馬力だけは強い。ゴーレムなのに感情豊か。一体そなたは何なんじゃ!?」

「自分でもよく分からない事だらけですよ! その答えがダンジョンの底にあるかもしれない。だから……だから! 押し通ります!」


 やっと覚悟を決めたルノミが、渡された槍を必死に振るう。雑な扱いでも、槍は比較的扱いやすい武器種だ。無視の出来ない状況に――音も無く晴嵐が迫る。

 完全に気配を殺した彼の、僅かな隙をつく奇襲。逆手で握ったナイフを上体に向けて振り降ろすが、寸前の所で後ろ足に防がれてしまった。


「ちぃ!」

「えぇい! 本当に訳の分からない組み合わせよな……! なんでこんな素人と――そなたのような修羅が組んでおる!?」

「利害の一致だ」


 無駄口を叩かず、淡々とした回答を刃物と共に振るう。サバイバルナイフは弾かれると踏み、今度はヒートナイフへと持ち替えた。

 誰でも使える魔法を起動し、赤熱する刃を押し付けるように振った。物理攻撃は防がれても、高熱までは防げまい。上半身を狙ったナイフは……全く見ていないのにも関わらず、後ろ足を器用に動かし防御してくる。


(どうなっておる?)


 視界は通っていないのに、晴嵐の攻撃が受け流されている。正面のルノミと戦いながら、背面まで防ぐとはどういう理屈か。多脚の利点を生かして、前後で挟まれながら立ち回るにしてもおかしい。手数はともかく、この精確さは見えているとしか思えない。

 何か手品の種がある……思案する彼の前で、不意に足が妙な動きをした。晴嵐のヒートナイフと接触するたび、躊躇うような、嫌がるような挙動をする。大ぶりに振りかぶった後ろ足を見て、追撃の投げナイフをいくつか投げつけた。


「えぇい! 暗器まで!」


 鎧蜘蛛が吠えると、くるりとその場で180度回って晴嵐と対峙した。後ろ足で素人のルノミをあしらいつつ、投擲されたダガーを槍ではたき落とした。

 ――二点ほど妙な所がある。記憶にとどめつつ、威圧する敵と対面する晴嵐。改めて数本ダガーを浴びせたが、これには手早く鎧蜘蛛が叩き落した。

 続いて距離を詰め、ヒートナイフを振りかざす。前足で防がれるかと思いきや、わざわざ槍を使って受けて来た。

 ますます違和感が強くなる。背面の後脚を用いていたとしても、脚の本数に余裕はあるはずだ。牽制するように前足を掲げるが、攻撃に使ってこない。わざわざ自分から手数を減らす敵に、一つの予測をかける。思考する時間を欲した晴嵐が、懐から煙幕をぶつけて距離を取る。

 ――舞い上がる粉塵が、不自然に地面を煌めかせたのを晴嵐は見逃さなかった。

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