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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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新たな階層、新たな敵

前回のあらすじ


 タチバナの素性チェックめいた雑談を、昨日終えた晴嵐。朗らかな反応に、不審者扱いは免れたと安堵したが……ロマンに取りつかれた馬鹿騒ぎに巻き込まれ、技師のタチバナと共にげんなりした……

 かくして、ゴーレム工房から出発し……ダンジョン内部に再び潜る晴嵐とルノミ。入り口の魔方陣に立つと、すぐにライフストーンが反応した。

 戻った時と同じだ。十階層ごとにある拠点『タウン』と、ダンジョンへの入り口の魔方陣は同じ仕様らしい。まだ晴嵐たちは下層に降りていないので、行けるのはそこだけだった。

 念じればすぐに転送が終わり、一瞬で見覚えのある十階層へ到着する。安全地帯で一呼吸を整えてから、改めてダンジョン十一階層へ侵入した。


「さて、次は何が待っているんでしょうね、せいら――」

「気を抜くな馬鹿者!」


 光に包また直後、いつもの調子で雑談に入ろうとするルノミ。しかし晴嵐は切羽詰まった声を上げ、反射的に身をひねっていた。

 液晶頭部の表情が(?)o(?)と、実にマヌケなツラで突っ立つゴーレム。その周囲から茶色の小動物が三匹突っ込んできた。

 形状はリス……いや、サイズを見るにイタチに近いか。当然普通の生物な訳もなく、その腕は鋭い鎌のような爪が生えていた。

 襲撃はルノミだけではない。身をひねってた晴嵐が背後を見れば、同じタイプの『エネミー』が迫っている。


「ぬぅっ!」


 転送と同時の奇襲攻撃に、彼は対処を試みていた。愛用の外套をひるがえし、先頭の一匹を闘牛士の如く受け流しつつ、ダガーを二本投げつける。狙いは外套で視界がふさがる前、そのまま二匹が直進すれば刺さる位置に。未来の地点へ『置くように』放たれたソレは、二匹目の体にすべて突き刺さった。


「ち!」


 一体を仕留めたにも関わらず、晴嵐は苛立った舌打ちを漏らす。もし二匹目が盾にならなければ、三匹目も仕留め切れていたのだが……

 勢いを殺され、体制を大きく崩す二匹目。三匹目は動揺し、追撃をやめて一時は引く。受け流された一匹目と合流を試みているようだ。

 一方、背中側のルノミだが……耳障りな金属音が響いていた。


「痛だだだだっ⁉」


 三匹一斉に群がられ、腕の鎌で切り刻まれるルノミ。もし生身であれば、体中生傷だらけだろう。金属の肉体、ゴーレムボディのおかげで、少々痛がる程度で済んでいる。腕を振り回して抵抗すると、運良くイタチの横腹に命中した。

 埃をかぶった試作品、大型のアームパーツが良い方向に働いたらしい。当たり所が良かったのか、打撃を喰らったイタチは溶けて消えていった。


「大丈夫か⁉」

「な、なんとか! 敵の数は⁉」

「残り五! 種類は同じに見える!」


 初手で奇襲されたものの、こちらの損害は軽微。敵の数も二匹削れて出だしは順調。けれど敵意は落ちていない。五匹が二人を取り囲み、すばしっこく円を描きながら駆け巡っている。ルノミと背を合わせて身構えるが、これでは迂闊に仕掛けられない。カウンターを狙うべきか? 相手の殺意と呼吸を合わせようとする晴嵐に対し、ルノミは両手を前に突き出しつつ叫んだ。


「いけっ! フィンガーっ!」


 突然何を言い出すんだコイツは。ゴーレムらしからぬ高揚感のある掛け声は、晴嵐に遠い昔の記憶を想起させる。アニメやら特撮ヒーローやらが、必殺技を叫びながら繰り出す……そんな場面が脳裏に駆け巡った。


「ただ『指』と叫ぶ奴がいるか! 遊んでないで敵への対処をせい!」


 奇襲で脳がバグったのか? 当てにできない、一人で五匹をブチ殺さなければ……覚悟を決める彼の前で、イタチの一匹が不意に『射出されたルノミの指にふっとばされた』のだ。


「……は?」


 ルノミは一歩も動いていない。機能停止した機械よろしく、突き出した腕までは固まったまま。けれど――指先が違った。両腕の薬指、小指に当たる部分が消えている⁉

 合計四本の指先は、フワフワと浮いてイタチ型エネミーを睨むかのように先端を向ける。驚く晴嵐に対して、どこか得意げな声色で腕を掲げた。


「これがグリジアさんのアイデアパーツです! 指を自由自在に分離飛行させる事が出来ます!」

「お、おぅ……」


 大型化した腕部に、何らかの機構を組み込んでいると想像できたが……ロケットパンチの機能を、小回りが利くように改良したのだろう。質量が小さくなった分、破壊力は落ちているようだが……技師たちは当然改良を施していた。


「ネイル展開!」


 今度は『爪』と叫び、飛翔する指の先端が光のブレードを形成する。動揺したイタチ型の一匹を包囲し、四方から一斉に突き刺さった。

 すぐに『指』はターゲットから離れ、光の『爪』を威嚇するように向ける。注意が逸れた刹那の内に、既に晴嵐は踏み込んでいた。

 上から首根っこを掴み、そのまま全体重を乗せて頸椎をへし折る。今度は晴嵐に注意が向いた瞬間、日本ずつ『爪』が標的を貫いていた。

 ただ、狙い所が悪かったのか……一匹だけ撃破に至らない。腰の部分に突き刺さったまま、逃げようと必死にもがいている。さっさとトドメを……と思っていたのだが、ルノミは展開した『指』を、自分の腕に回収していた。


「どうした。今更躊躇うのか?」

「あ、いや、そうじゃなくて……エネルギー切れです」


 ラジコンのバッテリー切れのようなモノだろう。操作の後は、自分の腕に戻す必要があるようだ。それは分かるのだが、ルノミの表情はいたたまれない。弱弱しく転がる獣型の『エネミー』に、同情でもしているのだろうか。

 甘い奴だと思いながらも、晴嵐はきっちち敵の息の根を止めた。

用語解説


『指』フィンガー『爪』ネイル


 ルノミに装備された新型パーツこと、埃を被っていた試作品。大型の腕部パーツの指部分を分離飛行させる機構の『指』フィンガーに加え、先端から小型ブレードの『爪』ネイルを展開可能。いけよファ……いや、何でもありません。うん。

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