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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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技師たちの馴れ初め

前回のあらすじ


ダンジョンから帰還し、ルノミを工房まで送り届けた晴嵐。そこで解散かと思いきや、工房の技師タチバナが声をかけて来た。まだ技師たちから信用を獲得できていない、この誘いは晴嵐を信用できるかどうかのチェックだと判断し、彼女との会食に応じる事に。

 タチバナ・ムライはドワーフの女性だ。歳は聞けなかったが、恐らく二十代前半。この聖歌公国首都・ユウナギに来たのは五年前。相棒のグリジアと出会ったのは、ユウナギに到着してから約一か月後の事。ダンジョン内部で共闘したことがきっかけだったそうだ。


「本当にダンジョンは人気があるな……」

「うん。危険はあるけど、ひとまず生活できるから。十階層まで行けば、一応は何とかなるし」

「薬や日用品も、ポイントで購入できるからな……」

「そう。一回十階層まで走ってから、また一階層からスタートを繰り返せば……ポイントを無制限に入手できる。……最初のうちは」


 ダンジョン内での行動によって、ポイントを入手できるシステム……そのポイントで買い物が出来るのだから、危険の少ない入り口十階層なら、ノーリスクで資源を得られるように思える。しかしタチバナの口ぶりから察するに、そう美味い話では無さそうだ。


「何かペナルティがあるのか?」

「近い感じ。徐々に入手ポイントが低くなるの。同じ敵、同じ行動を続けていると、徐々にポイント効率が落ちていく。五十階層までは手に入る物も大したものが無いから、最後には収支が合わなくなるの」

「さっさと深部に行け……って事か」

「うん。多分そういう意図だと思う。深い階層に行けば入手ポイント効率が悪くなっても、ポイント以外の資源でおつりがくる……らしいよ」

「確証はないのか?」

わちきはそこまで潜っていないから。でも、二百層以上潜った人がみんな、同じ証言しているから嘘じゃないと思うよ」


 不自然な証言ではない。断片的に『ダンジョンの主の思考』を察している晴嵐としては、納得して頷いた。

 迷宮の浅瀬で、同じところでグルグル回る参加者。慣らし区間に居座って、楽してポイントを稼いで怠惰に居座る人物……なるほど不愉快だろう。チュートリアルでの対応を見るに、理不尽な罠でハメ殺すのは好みじゃないが、変化の少ないつまらない人間も嫌ってそうだ。より深く迷宮内を探索し、冒険し、成功なり失敗なり、何らかのアクションを求めていると考えられる。ケツを叩いて進めるには、ポイント周りを干上がらせて先に進む事を促す。この辺りの手法も、ルノミは詳しいのかもしれない。


「タチバナとグリジアはどれぐらいの階層まで潜った?」

わちきは八十階層まで。グリジアはもう少し潜っていたみたい。確か……六十九階層を探索している時、馬鹿やってるグリジアと出会った……って感じ」

「……口ぶりからして、グリジアが変なモン作っておったのか?」

「うん。ロケットパンチ……って機能? 武器? をゴーレムの人に試してもらっていたみたい」

「ルノミが喜びそうな機能じゃのー」

「冗談でも言わないでよ? グリジアが張り切って『ルノミ君に装備させる!』って言い始めたら大変なんだから」


 適当に発言したつもりなのだが、ゴーレム技師のタチバナが真顔で答える。若干引きつつも、晴嵐は憶測しつつ尋ねた。


「技術的な問題……いや、既に形になっておるのを考えると、整備性の問題か?」

「――やっぱりセイランって、技術者こっち側だよね?」

「パッと思いついた事を言っただけじゃよ。お主が愚痴りそうな単語を想像すると、この辺りが妥当かと思っての」

「でも正解。腕部って細かいパーツが多く整備が大変で……その上破壊力は低くていい事なかった」

「ボロクソに言っておるのー……」


 酷評するタチバナだが、本気で怒っている様子はない。むしろどこか楽しい思い出を語っているように感じる。話の筋を想像するに、この『ロケットパンチ』が二人の縁の始まりなのだろう。現に晴嵐の相槌に対して、頷きつつも評価を下した。


「でも、技術力はすごくて……腕部内部に推進機構を仕込んだりとか、発射した後のゴーレムが、念じたように操作できるようにしたりとか……」

「その技術をもっと普通に使えんのか?」

「同じこと言った事ある。でも全く聞き入れなくて」

「自他共に認めるロマン馬鹿じゃな……」


 特殊な技術、先鋭的な技術を持ちながら、それを多くの人に普及する気は無い。あくまで自分の『ロマン』を追求し、その実現に向けて活動する……

 身勝手で馬鹿馬鹿しいと思う反面、グリジアの情熱に懐かしさを感じていた。晴嵐に理解できないが、遠い目標に向けて進み続ける行い。かつて壊れた世界を直そうと歩き続けた、晴嵐が関わって来た者たちの姿が重なった。

 そう。彼らのような『ロマン馬鹿』は、決して不愉快な人種ではない。他者を振り回し、世界を引っ搔き回して、新しいモノを現実に出力する。ただ『そうしたいから』『やりたいから』と、理由にならない理由を燃料にして。

 けれどそばで見ている分には、全く飽きない人種と言える。タチバナも同じらしくて、どこか楽しそうに愚痴を続けた。


「で、無茶をする彼の粗い部分を、丁寧に仕上げるのがわちきの仕事。セイランが言ったような事もね」

「あぁ……普及率を上げたりか?」

「そうそう。汎用的な技術に調整したりとか」

「……苦労してそうじゃな」

「でも『ドワーフ山岳連邦』にいた頃より、充実していて楽しい」


 確かその地名は、ドワーフの多くが暮らす地域だったか? タチバナが暮らしていても、何の不思議もないが……あまり良い思い出は無いのだろうか? 故郷を懐かしむだけとは思えず、昔話の気配を察した晴嵐は……不器用な彼女に続きを促していた。

 本作とは関係ありませんが、告知をさせてください。

 本日五月二十日、GCN文庫様より作者が書いた本が出版されます。本作『終末から来た男』とは雰囲気がかなり違うので、一概にオススメは出来ないのですが……ご興味がありましたら、活動報告から特設ページを覗いてやってください。

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