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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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不信感を拭うために

前回のあらすじ


 十階層、タウンから脱出した晴嵐とルノミ。『ダンジョンマスター』が実在する証拠は無いが、様々な要素から実在を確信する二人。しかし外部に『地球人』な事は迂闊に話せないので、今後は慎重に発言しようと晴嵐は告げる。

 ルノミの仮の住まい。ゴーレム工房に戻り、所感について話し合う。まだ危なっかしい部分はあるが、こちらの住人はルノミを迎えてくれていた。

 ルノミがゴーレム工房に入り、グリジアと一緒に内に籠ると話している。体のメンテナンスや迷宮の所感について、話す事柄が色々とあるのだろう。こればかりは晴嵐もついていけない。今日はこれで立ち去って終わりと思っていた。

 中身が地球人のロボットを見送り終えたので、自分の仮宿に歩き出そうとする。すると晴嵐の背中に、若い女性の声が投げかけられた。


「待って、セイラン」


 慌てて晴嵐を呼び止める誰かに、何事かと振り返る。見ると、現れたのはゴーレム技師のもう一人、ドワーフのタチバナだ。晴嵐の印象としては……奥に籠ってゴーレムをいじって、あまり人と話さない印象がある。いつもはグリジアが応対しており、意外な人物の登場に思わず足を止めた。

 両者の目が合うと……彼女は小さく喉を詰まらせたような動作をする。何かを口に含んでいるのか? 相手が落ち着くのを待っていると、タチバナはゆっくりと口を開いた。


「セイラン……今晩、暇?」

「空いておるが、何か用か?」

「一回、あなたとちゃんと話しておきたくて。どこかで食べに行かない?」

「あー……なるほど?」


 正直な所、晴嵐は人付き合いが苦手だ。必要以上の関わりを避け、他者との接触は必要な範囲、最小限にする傾向がある。誰が後ろから撃って来るか分からない終末世界で、生き延びるには必然だった。

 今回のタチバナの誘いは……晴嵐目線ではあまりメリットが無い。しかし相手の目線や立場からすると、一度晴嵐と話しておきたいのは当然だろう。


(ルノミは『地球人だから』で信用を得られたが……あくまでルノミだけじゃからの)


『地球人同士』の関係性は、当人同士のみでしか通じない。だから、周囲の人間からすれば、なんだかよくわからない話で意気投合しているが、晴嵐の素性は不明のままなのだ。

 技師目線では、今までの経緯はこうなる。


 発掘したゴーレムを復旧させ、ついに再起動までこぎつけた。しかし目を覚ましたは良いが、話す内容が『別世界』の事に加え、ユニゾティアの常識をほとんど知らない。

 どう対応したか考えていたところ……今回の案件で協力していたオークのラングレーは『事情が分かるかもしれない人間』を紹介。それが晴嵐だった訳だ。事態解決を図り、行動を共にしてくれる所は良いが……それはそれとして、晴嵐個人に興味を持ったり、信用できるかを確かめたくなる。それも人間の道理だろう。


(この話し合いにメリットは薄いが……下手に断わるのは、高くつきそうじゃな)


 ここで断れば、不信感が育つかもしれない。不審者扱いされるようになれば、今後ルノミとの接触に障害が起きる危険性がある。馴れ合いと信用関係は曖昧だが……馴れ合いを拒んで、信用を崩しては元も子もない。素早く思考を巡らせた彼は、タチバナの誘いに乗った。


「そうじゃな。確かに一度、腰を据えて話したいわな。店は任せていいか?」

「ん。任された。安い所でいい?」

「構わんよ。グリジアは誘うか? 話を聞きたいのは同じじゃと思うが」

「ルノミの相手をするって。工房を開けっぱなしにしたくないし、全員で食べに行こうにも、ルノミが」

「あぁ……あの体では、食事出来んな」


 元々が生身だとしても、現在は金属の身体のルノミ。現在は電池の魔法版、カートリッジによって駆動している。栄養を摂る必要も機能も無いから、メシ屋に行っても手持ち沙汰だ。最初からロボットならともかく、ルノミは元々人間と主張している。一人だけ何も食べれず同席など、イジメか生殺しに感じるだろう。晴嵐の想像を読んだタチバナは、すぐに答えた。


「本人も『好きな物が食べれない』ってガッカリしてた」

「だろうな」

「だから、置いてく。わちきがあなたと話す。いい?」

「? 構わんと言ったが……」


 晴嵐は首を傾げた。既に了解した部分を、何故かタチバナはもう一度質問する。彼の反応を見て、何故か彼女は表情をこわばらせた。まるで傷ついたように。


「ごめん。わちき、話すの苦手」

「コミュニケーションが不得手と?」

「ん。そう。いつもはグリジア任せ。だから、今日は練習」


 それを直接、無表情に近い顔で相手に告げてしまうのは……機微に疎いと言えるだろう。お守りはルノミだけにして欲しいが、練習せねば不器用なままだ。なんとなくだが『これを機に他人と喋ってみろ』と、グリジアが裏で糸を引いてそうな気がする。変に指摘はせずに、適当な相槌を打った。


「確かにお主、工房に籠りっぱなしじゃからのぅ……基本対人関係はグリジアに任せているのか?」

「そう。人と話すのは、グリジアの方が上手。たまに暴走するけど」

「ロマン馬鹿として?」

「そう。ロマン馬鹿。でも見ていて、聞いていて、楽しい」


 そう口にするタチバナの瞳は、微かな憂いを帯びているように見える。察する事柄はあるが、まだ部外者の晴嵐が踏み込むには早そうだ。

 変に刺激はせずに、タチバナの勧めるまま港町側に進む。

 てっきりどこかの店に入るかと思ったが――彼女のチョイスは、ある意味技術者らしい選択だった。

作者からのお知らせ。


書籍化作品の作業が概ね終わりました。これから、こちらの更新頻度も上げていけると思います。お待たせしてすいません。

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