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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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十階層からの帰還

前回のあらすじ


十階層、安全とされるダンジョン内部の街、タウンにて……異常なほどの勧誘に絡まれる晴嵐とルノミ。カモ認定にうんざりしつつも、ダンジョンから脱出する手段を見つける。どうやら十階層ごとに移動可能で、ダンジョン内外の出入り口にもなっているようだ。二人が念じると――

 ダンジョン十階層の安全地帯……『タウン』から晴嵐とルノミは外に出た。

 出口は入り口同様、十階層にある魔方陣だ。最初に転送された時の様に光に包まれ、次に目を開けた時は『入り口の小屋近くの別の小屋』だった。


「慣れたつもりじゃが……一瞬で移動するのは驚くわい」

「近年のゲームですと、よくある便利システムなんですけどね。自分で体験するとなると、僕も新鮮ですね……」

「あー……それもあるが、このユニゾティアの不思議現象の中でも、今回のダンジョン周りは飛び切りでな。どうにも異質な気が」

「……測定不能異能力チートスキルの影響かもしれませんね」


 証拠は全くないが、二人はほぼ確信していた。

 晴嵐は『今までのユニゾティアで経験した魔法系列の技術』と『ダンジョン内部の特殊なルールとの差』で。

 ルノミは『ダンジョン内部のルールが、あまりに現代のゲームめいている』点で。

 明らかな異物であり、外部から持ち込まれた発想であり、故に――このダンジョンは『千年前に漂着した測定不能異能力チートスキル持ち』が生成し、運営を続けているに違いない。と。


「とはいえ……この確信は、わしらの間でしか話せんな」

「迷宮教徒の人であれば、ワンチャンスあるかもしれませんけど……」

「変な宗教に引きずり込まれても困る。聞かれて絡まれても面倒じゃ。基本二人きりで、周りに胡散臭いのがいないか注意して話そう」

「そうですね!」


 宗教的な意味合いとは異なるが、迷宮教徒の信じる『ダンジョンマスター』の存在は肯定できる。ただし『存在は認めるが、あがたてまつる気は無い』のが、晴嵐とルノミの立場だ。問題はその差を他者に伝えるのは難しい点で……この世界の住人相手だと、こっちが胡散臭い宗教家認定されかねない。

 また、教徒に聞かれたとしても『存在を信じつつも信奉しない』二人は異物だろう。迷宮教徒側の情報は欲しいが……変に踏み込んだ結果、沼に引きずり込まれる危険は否めない。


「グリジアさんとタチバナさんにも、ちょっと話せない事柄ですよね……」

「当り前じゃろ。お主、目覚めた直後に『地球』の事をペラペラ喋ったせいで、精神異常者と判断されかけていたのじゃぞ」

「えっ、マジですか⁉ 二人とも全然、普通に接してくれましたけど……」

「……珍しいゴーレムじゃから、大目に見てくれておったんじゃろ。地球関連の話をする時は、慎重に相手を選んだ方が良い」

「うぅ……すいません。本当にお世話になります」

「お主の場合……世話になるのは、わしよりゴーレム工房の二人だろう。わしよりそっちに気を配れ」

「で、ですね……」


 晴嵐は金や道具に食事、仮の宿で過ごす事も出来ている。放浪者ではあるが、生活は問題なく出来る状況だ。

 しかし、ルノミは生活基盤がまだ整っていない。物珍しさで『ゴーレム工房・タチバナ』の二人、タチバナとグリジアが面倒を見てくれているが、その好意がどこまで持つかは不安定。自立を目指す活動と姿勢を見せつつ、それまでの間、二人から支援を断ち切られるような言動は避けるべきだろう。

 少々剣呑な気配を見せる晴嵐に対して、ルノミは彼に答えた。


「でも、あの二人……ありがたい事に、僕を放り出すような気配はないです」

「雑用でコキ使われたりとかは?」

「仕事を手伝う時はありますけど、自主的にやる事が多いです。お世話になっているので、何もしていないのは気まずいですし」


 常識的な回答だ。表情も特に『表示』していないので、特に思う所もないのだろう。「人が良いな」と晴嵐が軽口を叩くと「そして『ゴーレムらしくない』と言われるまでセットです」と彼は返した。

 いくつかの会話を交わしながら、ゴーレム工房まで二人で歩く。特に危険も起こらずに、ゴーレム工房へ帰る事が出来た。

 ルノミが扉を開け、油臭い工房に声をかける。すぐにエルフの若い男性、グリジアが二人を出迎えた。


「戻りました、グリジアさん」

「ルノミ君! 晴嵐君! 無事に帰って来れたようだね!」

「はい、おかげさまで」

「あぁ。特に問題ない。十階層まで行って戻って来た」


 声の大きく明るいエルフのグリジア。職人気質にほど遠いが、独特な言動も多いゴーレム技師の彼は、満面の笑みで二人に頷く。両者の無事を確かめると、すぐにグリジアは感想を尋ねた。


「どうだった? ダンジョンは」

「色々と不思議な所でしたけど……最初の十階層は楽でした。あれで死ぬ人いるんです?」

「わしも同じ事を思ったわい。よ~っぽど油断してるか、相当なマヌケでもなければ死なんじゃろ」

「十階層までならそうだけど……そこから先が危なくなってくるからね。早い人だと、一日で百階層まで降りる人もいるからなぁ」


 晴嵐とルノミの技能が不明な以上、進行度合いも測りようがない。チュートリアルを受けなかったり、敵を避けて効率よく深く潜る進むつもりなら、今日で二十階層までなら潜れた気がする。気になる所があるのか、ルノミは進行速度について質問した。


「僕らはゆっくりめに進みましたけど……百階層は早くないですか? 何のために」

「たまに迷宮内でコンテストと言えばいいのか……『最速で迷宮を駆け抜けろ!』みたいな企画もあってさ……」

「まさかのRTA⁉」

「あ、あーる?」

「……ルノミ、分かるように話せ」


 注意した直後に若者言葉を……地球用語に頭を抱える晴嵐。

 まだ危なっかしいルノミを助けつつ、晴嵐は迷宮の所感について話す。

 親身になって話を聞く技師は、ルノミの言う通り、人が良いように思えた。

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