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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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「ここだけネットゲームみたいです」

前回のあらすじ


 ダンジョンを進み、十階層まで到達した晴嵐とルノミ。魔方陣で転送された直後、いきなり声を掛けられる。案内を申し出る人物に戸惑うルノミと裏腹に、晴嵐はバッサリと断った。

 態度を咎めるルノミを、逆に強く窘める晴嵐。どう考えても胡散臭い勧誘だと断じ、油断するなと強く言うのだった。



 以前ルノミが言っていたように、ここはまだまだ『チュートリアル階層』なのだろう。案内役は用意されていないが、所どころに立て看板がある。しっかり注意しつつ、晴嵐は内容をかみ砕こうとした。


「十階層ごとに『タウン』が存在し、内部では『エネミー』が出現しない。人間同士や……『スタッフ』へ殺傷行為を行った所で『殺害した相手のポイントを使用して、転送ポイントで蘇生』する……ダメじゃこりゃ。何を言っているか分からん」


 独特な単語を連発しないでほしい。今は若い身体だが、晴嵐の頭は老人なのだ。いちいち言葉を変換するのを脳が拒否し、そのまま投げやりにして、放置したい気持ちが沸く。ゆっくり言葉の咀嚼を始めようとした所で、隣にいる金属の彼が翻訳を始めた。


「えぇと……あぁ、十階層は安全地帯って事ですね。敵も出ないし、ダンジョンへの参加者同士で殺し合っても、最初の入り口で復活できる。しかも殺した側の負担で」

「あー……んー?」

「例えばここで、晴嵐さんが僕を殺害したとするじゃないですか」

「なんでお主が殺される前提なんじゃ?」

「僕が晴嵐さんを殺せるイメージが湧かないからですよ。ともかく大事なのは、この時殺された側の話です。覚えています? 復活のルール」


 ダンジョン内の死は、外での死と異なっている。死ねばただ順当に死ぬ外と違い、ダンジョン内部では特殊な法則が働いていた。


「確か……ポイントで復活できるとか言っておったな。この迷宮内での行動で、ポイントが付与されていると。要はダンジョン内部で使える通貨みたいなもんじゃろ?」

「そうです。『エネミー』を倒したり、採取とか採掘とか……あ、今気が付きましたけど、十階層踏破ごとでも付与されるみたいですよ。晴嵐さんも確認してみてください」

「なんで『十階層踏破』で付与されたとわかった?」

「ライフストーンを操作して、ポイント確認した時……収支の履歴を見たいって念じたら表示してくれました。電子マネーのアプリみたいで、便利ですね」


 試しに晴嵐もライフストーンで念じると、ルノミの言う通り、ポイント入手履歴がずらりと並んだ。『エネミー』を撃破した時のポイントが端金はしたがねなのに対し、十階層踏破報酬はまとまった額に思える。出費の欄も試しに表示してみたが、こちらはまだ空白のままだ。


「ここダンジョン内でしか使えんとはいえ、ポイントは命綱じゃな。これがあれば、多少無理しても復活が叶う」

「なんか不吉な事を考えていそうですけど……本題は『十階層タウン内で死が起きた場合は、復活ポイントの支払いが『殺した側』って所です」

「は? なんでじゃ。死んだ側が払うのが筋じゃろ」

「ここでは殺しはダメ。ダンジョン参加者が安全に過ごせる場所……って事なんでしょう。そして犯人側へポイントを支払わせる仕組みにする事で、抑止力になるのでは?」


 言いたい事は分かる。何のペナルティやリスクも無しに、ルールを敷いても意味はない。加害者が危険や不利益を被るから、法と罰は抑止力となり得るのだ。しかし一つ、晴嵐は抜け穴を発見する。


「……じゃがこれ、痛めつける所まではセーフなのか? それならやり方はありそうじゃが」

「えっ……こ、怖い事言わないでください‼」

「殺さない程度に……いや、もうはっきり言ってしまうが、拷問なら通るかもしれんな」

「晴嵐さんって本当に物騒ですよね⁉」

「悪かったな。自覚しておるよ」


 町があり、秩序があるにしても、完全に機能するとは思わない。現に入り口で『勧誘』があった以上、抑止した所で防ぎ切れはしないのだろう。

 この疑問に対して……ルノミは町を歩きながら答えた。


「晴嵐さん……もう一つの項目『スタッフ』を見てください」

「『スタッフ』? あぁ、そういやそんな項目があるが……なんじゃこりゃ?」

「多分ですけど……NPCなんじゃないかな」

「なんじゃったかそれ。ゲームの用語だった気がするが」

「ノンプレイヤーキャラクターの略称です。この場合は……僕たちダンジョンに潜る人間じゃなくて、十階層ごとにある『タウン』を整備する存在の事だと思います。たとえばホラ」


 指を差した先に見えるのは、麻袋が描かれた看板と商店。ただの道具屋かと思ったが、店構えが妙だ。店員らしき格好の女性こそいるが、商品棚に陳列が無い。加えて、晴嵐とルノミがしばらく前で突っ立っていても、定期的な瞬きと微笑みを崩さないのだ。


「なんじゃこりゃ……」

「NPC……ゲーム内のキャラクターって、決まった言葉や動作しかしないでしょう? 多分、タウン内の店の多くが『配置されている人の形をしただけのモノ』なんだと思います」

「……ロボットみたいな物と思えばいいのか?」

「はい。ユニゾティアのゴーレムじゃなくて、僕らの世界の機械と同じだと思います」

「で、それを殺したとしても再度蘇って、復活代は殺した側持ちと」

「そんな感じ」


 納得はいかないが、そういうルールと飲み込むしかない。ともかく、十階層ごとに町があり、その内部で殺しをしても『殺した側が不利になる』仕組みか。


「ここだけネットゲームみたいです。多人数で遊べるネットゲームって、こういう所ありましたから」

「……お主の方が慣れていそうじゃな。しばらく案内を頼む」

「わかりました。あ、何か悪いの引っかかりそうになったらお願いしますね!」

「あいよ」


 番犬替わりの晴嵐と、この手のモノの勝手を知るルノミ。性格もまるで別物だが、こと『ダンジョン』内部では互いを補い合っていた。

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