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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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安全と聞いていた十階層

前回のあらすじ


ルノミが用いていた用語を使い、連携の練習をしつつエネミーを葬る晴嵐とルノミ。練習向けの雑魚を蹂躙するが、手に入る報酬もショボイ。ぬる過ぎると考える晴嵐に、ダンジョン知識を持つルノミ目線でも違和感があると言う。何はともあれ、まずは安全圏の十階層へ向かい、魔方陣を踏むと……

 チュートリアルにもあったように、十階層は一つの都市と化していた。

 完全に視界が通らず、閉鎖された迷路のような今までの階層と異なり……ちゃんとした『街』がダンジョン内部に形成されていた。何より驚いたのは、到着した途端に彼ら二人は歓迎を受けた。


「十階層踏破、おめでとうございます!」

「へっ!? あ、ありがとうございます?」

「…………」


 唐突な声かけに、ルノミは困惑しながら無難に返す。一方の晴嵐は分かりやすく警戒心を露にする。声をかけて来た相手は、妙に華やかな顔つきで、柔和な笑顔の女だ。慣れた調子ですらすらと流暢に喋り続ける。


「今まで探索続きでお疲れでしょう? 加えて、ここはダンジョン内部とはいえ……一つの秩序を持つ町です。勝手も違うでしょうし、よろしければ私が案内しましょうか?」

「えっ、いいんです……」

「いやいい、遠慮しておく」


 申し出を受けようとしたルノミを、冷たく晴嵐が割って入り止めた。話しかけて来た女は笑顔を崩さず、丁寧な調子で引き留める。


「そうは言いますが……色々と不安な事も多いと思うのです。外とは異なる法則のダンジョンを進んで、やっと腰を下ろせる場所です。私や私の仲間たちは、ここでの生活も長いですから、色々とお教えできますよ?」

「んなモンは後で、どうしても困ったら顔を出すわい」

「晴嵐さん? そんな邪険にしなくても……」


 初対面の相手に対し、かなり失礼な言動の晴嵐。見かねたルノミが異議を唱えるが、冷たい視線がゴーレムを凍り付かせた。

 嫌悪と憎悪を隠せない、強烈な恨みの目線……憤怒も少なからず含んでいるだろうか? 晴嵐はどこに、こんな暗い感情を隠していたのか。いや、表面上穏便にやり過ごそうとしているだけ、比較的マシなのか? 滅びていく地球で見せた、晴嵐の黒い部分が表出している。反論を失ったルノミを差し置いて、晴嵐は厳粛に断った。


「まずは自分の目で確認する。貴様の案内なぞいらん」

「そうおっしゃらずに――」

「――自分の所属をまともに明かさない、親切で身なりの綺麗な人間は……わしは絶対に信用しないようにしておる」


 晴嵐がゴーレムの手を引き、強引にその場から立ち去る二人。ちらりとルノミが後ろを見るが、表情は――不自然なほど、笑顔で固まったままだ。

 なんだこれは? 頭の半分は混乱しているが、ルノミの半分は不信感が募っている。強引に立ち去った晴嵐の叱責が飛んだ。


「お上りになるな、と言ったじゃろう」

「え? え? どういう事……」

「胡散臭い勧誘の常套手段じゃろ。初めての土地に来た不慣れな奴を引っかける……お主も覚えがないか?」

「あ……そういえば」


 言われてルノミは思い出す。このダンジョンには『迷宮教徒』が存在する。このグラウンド・ゼロのダンジョンその物を信奉する集団らしく、どうにも胡散臭い。いわゆるカルト宗教集団に近いが、そうした輩は地球……厳密には『崩壊前』の地球にもいた。


「確か駅前とかが多かったような……あっ」

「気が付いたか? 大勢の人間が出入りするが、場合によっては『初めてこの場所に来る』奴も多い。狙い目なんだ、こういう『出入り口』は」

「でも、親切そうでしたよ?」

「当り前じゃろ。露骨に裏の気配出しているやつに、ホイホイついていく奴は一人もおらん。だから誘うときは、さも親切な常識人を装うんじゃろうが」


 笑顔も親切も、声をかけるのも、すべてを『手法』と断じて切り捨てる晴嵐。冷たいと感じる反面、よく聞いた話である。晴嵐は淡々と考察を続けた。


「おかしな所はまだある。ここは十階層……初めて迷宮内の町に来る所じゃろ」

「あぁ、そうですね」

「なんでそんな所で、親切に待っている人間がおる? 深く潜れば潜るほど、良い物が手に入るんじゃろ。慣れた奴ほど、こんな所に留まる理由が無い」

「……新参の誰かを、グループに引き入れる以外には無さそうですね」

「そうじゃ。んでそんなのを欲するのは……使い捨ての駒が欲しい悪党か、不安な所に付け込んで引きずり込もうとする宗教家か。大半はどっちかじゃな」

「新米同士でなんか連合とか、ギルドとか作りたかった可能性もありますよ」

「にしたって早すぎるじゃろ。中には……『とりあえず十階層まで来たが、向いてなそうだからダンジョンから抜ける』って奴もおるかもしれん。もう数回階層を抜けてから、連合云々を考えるのが筋ではないか? そういう奴を誘った方が効率良くないか?」


 ゴーレムの彼が言葉に詰まる。晴嵐の言い分は、うんざりするような現実を並べていた。

 ルノミが一度だけ振り返る。相変わらず、十階層へ到達した人を待ちわびる……否、待ち伏せる女性の姿に、流れないはずの冷や汗を感じた。


「……ここ、安全なセーフゾーンって聞いていたんですけど」

「迷宮側としては、嘘は言っておらんのだろ。『エネミー』は出てくる気配ないし、見た所罠も無さそうじゃ。じゃが――詐欺や宗教勧誘、その他もろもろの行為は、中の人間が勝手にやっておる事。だから迷宮側は関与しない」

「なんか……嫌になりますね」

「何を言っておる。人間こんなもんじゃろ」


 淡々と目を配らせる晴嵐の姿に、ため息が零れそうになる。

 ――ルノミは、かつて地球人を救おうと計画を立てた。しかし計画は恐らく失敗した。その原因の一つは……人間の『腹黒い』部分から、目を逸らしていたからか? 少なからず後悔も浮かぶが、だからこそ『真実』を知りたくもある。


「……すいません、まだしばらく助けてもらう事になりそうです」

「構わん。じゃが、出来るだけ早く、自分の身を自分で守れるようにな」

「……はい!」


 そっけないが、見捨てる気配もない。厳しいようで、意外と面倒見は良いのかもしれない。晴嵐の過去を垣間見た中では、そんな場面はあまりなかったが……

 気にはしつつも、早く慣れる必要もある。気を引き締めたルノミを連れて、晴嵐はエネミーがいないだけの安全圏、十階層の探索に移った。

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