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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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案内役の死神

前回のあらすじ


やっとダンジョンに向かう二人。周辺の町は治安が悪い。亜竜自治区に近い空気だが、より欲望を隠さないえた臭いがする。ルノミに警戒を促しつつ、彼らはダンジョンへ行くための魔法陣に足を踏み入れた。

 次に二人が目を開くと、真っ白い部屋……否、真っ白い空間の中にいた。

 地面を踏みしめると、まるで水の上を歩くように波紋が広がる。なのに、頑丈なタイル床の上のように、しっかりとした地盤らしい。何度かつま先で地面を踏み鳴らせば、軽快な音が響いた。暢気な奴なら、タップダンスに適している。と言い出すかもしれない。


「一応、事前情報はあったが……」


 淡々と現状を読み解く晴嵐。知ってはいても信じられず、奇妙な光景に戸惑う。『憑依型ゴーレム』の彼も同様だが、頭の固いジジイより順応が早い。すっと立ち上がり、ぼそりと呟いた。


「なろう系の、転生前っぽい光景ですけど……」

「全然分からん」

「あぁ、ですよね。詳しく言うと――」


 お喋りめ、と晴嵐が手で制す。液晶を困惑顔にするルノミに、指で周辺を軽く差した。


「いや待て、後の方がいい。周りを見ろ」

「え?」


 ゴーレムの彼が目を向けると、周りに様々な種族が同じ空間にいた。他の人物たちも同じなのか、困惑したり、キョロキョロと周りを見渡したりで、反応は様々。晴嵐も少なからず動揺しているものの、比較的冷静な方に分類されるだろう。

 人数は50名前後だろうか? 一体いつの間に集ったのか……と疑問に思う晴嵐と異なり、ルノミはまたしても良く分からない単語を呟く。

「あー……クラス転移モノっぽい?」と言われても、想起できる事象は無い。迂闊な所は気になるが……やはり、ルノミにのみ通じる事象も多いようだ。彼の思案を邪魔しないように、同時に喋り過ぎないように、晴嵐が気を払っていると……妙に大仰おおぎょうな声が周囲に響いた。


「よく来たな! 新しい挑戦者たち!! ダンジョンへようこそ!! 貴様らはここに来るのが初めてだ。五十人が揃うまで、貴様らの時間を凍結し、今この同一時間軸に固定している! いちいち一人一人やるのも面倒だからな!」


 またしても良く分からない単語が並ぶ。他の連中も、ちんぷんかんぷん。唯一ルノミだけは震えているが、彼らが辛うじて理解したのは『自分たちはダンジョン入場が初めてで』『その人間がこの空間に集められている』と言う事実のみ。反応に困っていると、声の主はゆっくりと彼らの頭上から降下し、その姿を現した。


「おっと、自己紹介が遅れた。オレ様は初回探索チュートリアル担当の『リーパー』だ!」

死神リーパー……ね」


 見た目があまりに『そのまま』なので、思わず晴嵐は軽口を叩いた。

 頭部は髑髏どくろがむき出し、全身を真っ黒と茶色のローブで覆い、背中に担ぐのは死神鎌デスサイズ――案内する先が地獄ではないかと心配になる。老人はそこに落ちても反論不可だが、自分から飛び込む勇気もない。

 しかしならば、晴嵐は口を聞くべきでは無かった。骸骨は空っぽの眼窩がんかで発言者を見つめて、棘を込めて言う。


「ん? なんか文句あるか?」

「……一目見て『おっかない』と思ったのでな。ついでにどうでもいい事も聞くぞ」

「質問するだけなら自由だ。ただ、手短にな」


 ごまかしついでに、考えながら喋る晴嵐。無言でやり過ごせそうにないので、パッと思いつきで質問を投げる。


「リーパー……お前男なのか? 女なのか?」

「ほんッーー…………とに、どうでもいい事質問するな!? 予想外だわ!!」


 派手にずっこけるような動作を見せて、骸骨は険悪な気配を解いた。少なくても案内役とやらには、冗談が通じる知性があるようだ。もしチュートリアルとやらが『機械的なシステム』であれば、この反応は出来まい。気を取り直した死神は、軽く鎌を振って答えた。


「えー……まぁ、コイツみたいに色々と質問もあるだろうが、いちいち俺様が聞いてたらきりがねぇ。それに習うより慣れろって言うしな。これからお前らは初期講習チュートリアルエリアに入れる。早い話練習コースだ。そのエリア内なら……保障しよう。完全にリスクは無い。得られるモノも経験だけだがな」


 これも事前情報通りだが、どこまで信用して良いものか。不審げな晴嵐の目線を受けたのか、それともいつも通りの受け答えかは知らないが……案内人のリーパーは、不遜ふそんに鼻を鳴らした。


「時間がもったいないってなら、パスしてもいい。とっととダンジョンに潜りたいなら――後ろを見ろ」


 死神鎌デスサイズを向ける先に、光の柱が見える。他の連中が戸惑う中、ルノミだけはどこか納得したような様子だった。


「あっちに行けば、俺様の説明をカットして、いきなりダンジョンに入れる。説明聞くのがめんどくせぇ。もう知ってるって奴はあの光の輪に行けばいい」

「スキップ機能かな……親切だぁ」

「そんじゃ、そろそろ基本チュートリアルを始めるぞ! 知り合いの奴は近くに寄っておけよ。去る奴も早めにな」

「なるほど……ルノミ?」

「そうですね」


さりげなく二人は近寄り、相手の合図を待つ。集められた連中の反応も様々だ。何人かは光の輪の方に向かい、晴嵐とルノミのように、知り合いの者同士は接近し備えている。一人ソロで挑む者、初対面でも適当に群れる者、戸惑う者……各々の反応を軽く見つめた死神リーパーは、その鎌を振り下ろし――空間を引き裂き、多くの者達をダンジョンへ引き込んだ。


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