下調べの情報
前回のあらすじ
これまでのあらましを振り返りつつ、ルノミに昏睡の原因を問う。どうも彼は『地球文明が滅亡を迎えるまで』を『亡霊』に『見せられた』らしい。裁くべき者、その対象に晴嵐やルノミは枠外なのだろうか? 気にはしつつも、答えを求めてダンジョンについての話に移る……
昔話もそこそこに、晴嵐とルノミはライブラリ内部で、緑色の石ころをいくつか手に取った。これからの話題『ダンジョン』について……図書館を意味するライブラリ施設にも……有益な情報がいくつかある。すべて晴嵐が話す方法もあるけれど、せっかくなら公共施設の情報も合わせて提示したい。彼は手振りで示して、ルノミも察して石ころを集めた。
「お前さんが眠っている間、わしは目覚めを待っていただけじゃない。色々とダンジョンについて調べた。少々、原本が怪しいのもあるが……まずは基本的な所から押さえよう」
「分かりました。でも、それなら晴嵐さんが全部話してもいいのでは?」
「鵜呑みにされても困る。わしもどこかで、間違っているかもしれん。ライブラリのライフストーンと合わせて、確かめながら嚙み砕きたい。わしの理解も深まるじゃろう」
「なるほど……」
人に教えるには、深い理解が必要だ。ルノミに説明しながら、晴嵐自身も整理できるだろう。まずは施設に保管された情報から……つまり公共施設の情報から提示した。
「場所は聖歌公国首都近郊、最初に――お主の目線で言えば『異世界移民計画・第一陣』が降り立った場所、グラウンド・ゼロ。奴らの影響か、神の意思か、お主の言う測定不能異能力か……まぁ原因は何だっていいが、ともかくそこに異質な空間がある。中はダンジョンと呼ばれており、内部は……どうも法則が滅茶苦茶らしい」
「滅茶苦茶? どんな風に?」
「まず、外と内側で縮尺が合わないそうだ。外側から測った『ダンジョンの外周面積』と……『ダンジョン内側から測った面積』が合わないらしい。どうも内側が明らかに広すぎる……って事だ」
「あー……空間が捻じれているんですかね?」
「すんなり理解するんじゃな……仮説の一つに、そんなのがあった」
頭の固い晴嵐より、ルノミは飲み込みが早い。尖った知識が、非常識の解読に役立つらしい。地球人相手では、あまりに説明困難と思いきや……この調子ならすぐ理解してくれるだろう。
「最深部は『999階層』らしいが……今の攻略はどれぐらい進んでいるかの詳細は探れなかった。500以上は確定らしいが、現在の進みはちぃと分からん」
「やっぱり、最深部を目指してダンジョンの攻略を?」
「それが……必ずしもそうではない。さっき法則が無茶苦茶だと言ったが、この異常な性質は利益にもなる……らしい」
「どんな事が起きているのです?」
「例を挙げると、そうだな……ある程度時間が経つと、取り尽くした金の鉱脈が、完全に復元するとか」
「えっ!? それ凄くないですか!?」
晴嵐も頷く。基本資源は有限で、金属も例外ではない。金や銀、希少金属も……採取を続けていれば枯れてしまう。
ところが、ダンジョンは法則が通じない。どうも『完全に鉱脈が枯れてから、一週間の周期で復元する』性質があるそうだ。早い話――時間は必要で、特定階層まで潜らねばならないが、そこまで到達すれば『一定期間ごとに、資源を無制限に獲得可能』なのだ。
「あっと言う間に億万長者じゃないですか!」
「そう上手い話があるか。貴重な金やら銀やらは、深い階層まで行かねば、採取出来ないらしい。鉱脈の回復も貴重な物ほど遅いし、どうも同じ階層ごとにランダムで再配置? されるとかなんとか……すまん。正直半分も理解できておらん」
「あー……不思議のダンジョン系に近いのかな」
「わかるのか……」
下手に説明するより、ルノミに読み解かせた方が早い気がする。概要は適当に、晴嵐は要点を抽出する。
「ともかくダンジョンってのは、不思議な特性がいくつもある。そして奇妙な法則も、使いようで有益になる。だから……無理に攻略してダンジョンを破壊するより、巨大な資源装置として生かす方が良い。今は迷宮教徒もうろついているから、この異空間と共存している……って所かね」
「へぇ……じゃあ、最深部を目指している人って、今だと少ないんですか?」
「あぁ……それは間違いない。詳しい年代までは、特定できないが……迷宮攻略に真剣な時代は、ダンジョン建設から200年の間まで。少なくても500年前から今に至るまで『ユニゾティアはダンジョンと共存する』路線で動いている……そうだ」
いくつかのライフストーンを開き、自前で集めた情報のメモを読む。内容を頭で整理しつつ、晴嵐はルノミに『重要な事実』を伝えた。
「そしてルノミ……ダンジョンマスターだったか? 確信はないが……」
「聞かせて下さい。どんな事でもいいです」
「迷宮教徒が信奉している存在……けれど仮説ばかりで、誰も目にした者はいないそうだ。ダンジョンの最深部で、迷宮のすべてを操る事が出来ると。どうもダンジョン内部の事であれば、完全に把握できるらしい……さしずめ、その空間であれば『神』の如く振舞えると」
「……テンプレ通りですね」
「て、てん? 何?」
「テンプレート通り。僕の知っている『なろう系のダンジョン経営モノ』のルールに近いです。やっぱりダンジョンマスターは実在すると思いますが……」
「ユニゾティアの一般的な考えでは……既にダンジョン建設から千年が立っておる。同じ人間が、そんな長い事経営をし続けられる訳が無い。わしも断言しかねるが、迷宮に意思がある……って所は間違いない、と思う」
ルノミが顔を上げた。部分的に晴嵐は、金属の彼を肯定した。戸惑うルノミに対して、晴嵐は自らの結論を述べる。
「どうもな……ユニゾティアとダンジョンが共存を始めてから――ダンジョンも殺しに来るのをやめたらしい。要はダンジョンを操っている奴が、構造を変えたんだ。人間の持つ柔軟性に思えてならん」
「少なくても、機械的なシステム……じゃなさそうですね?」
「うむ。狂信者のせいで胡散臭くなっているが……間違いなくダンジョンマスターは『いる』だろう。その証の一つを、これからダンジョンに行って確かめようじゃないか」




