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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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滅亡を見届けて

前回のあらすじ


 宇谷はすべてを語った。文明復興組として活動するのは、決して悪い気はしなかったと。そこまでやる事は変わらなかったが、頭が変わっただけで、随分と気分は良かったと。

 すべてを話し終えた宇谷は、復讐に走る。晴嵐はやはり、見届ける事しか出来なかった。

 宇谷遊坂は、大平晴嵐の仮拠点に逃げ延び、彼からの支援を受けた。

 自分も復讐を、と参戦を申し出た晴嵐に対して……あくまで部外者であると言葉で縫い留め、晴嵐の参加は無かった。

 晴嵐は歯噛みした。少なからず思う所はある。が、同時に今まで『この流儀』で生きて来た自分をかえりみれば、ここで命を賭ける事は矛盾する。

 人間誰しも、矛盾を抱えて生きているモノ。自分の流儀ならば、粛々と受け入れるべき結論に……晴嵐は全く納得がいかない。

 三島のかたき討ちだろうか? 文明復興組の理念への共感か?

 否だ……晴嵐が憤慨しているのは、反乱を起こした連中の気質だ。

 誰かに救われておきながら、感情のまま身勝手に生きて、世界を食い荒らして死んでいく。愚かしくも真剣に未来や世界について憂いる人間の努力を、浅ましい欲望で蹂躙できる。


 誰も彼もを救うべきではない。それは『資源に限りがあるから』だけでは無い。

 どれだけ尽くそうが、どれだけ救おうとしようが、どれだけ与えようが……全く何も返さなずに、ひたすら自分の欲求のまま、いたずらに貪るような者がいる。さっさと見捨てるか、最初から関わらないか、ドブ溜めに隔離するか――いっそブチ殺しておくべき人間は、確かに存在する。

 その蒙昧もうまいな者どもを……心からの善意で、どうにかして囲って、救おうと努力した結果が『革命』だ。

 善意と努力を、踏みにじって恥じない愚か者――そんなモノを救おうとした、心ある者達もまた愚かなのだろうか? 確かなのは食いつぶされ、屍となった者達と……僅かだが生き残り、報復心を抱く者達。


 晴嵐は……傍観者でいるしかなかった。今まで通り、第三者でいるしかなかった。

 宇谷と……彼のみならず、僅かに生き残った『元スパイ』の少数精鋭が――自称革命家と刺し違えるまでの様子を。彼らが互いに憎み合い、殺し合い、全滅していくのを……観測するしかなかった。

 それを観測したのは……当初は晴嵐一人だった。

 今はその光景を……もう一人と亡霊が、見つめている。


***


「あぁ……あぁ! どうして……どうしてこんな事に……!」


 滅亡の末期。最後のマトモな組織が滅びていく。過去を映像のように、あるいは幽霊のように眺める『ルノミ』と『亡霊』……

『ルノミ』の慟哭どうこくは酷い。少しでも人を救いたいと願い、行動を起こしたルノミ。気が付けば千年を超えてしまい、かと思えば地球文明の滅亡を見届ける事になった。

 これを回避するために。こうはならないようにと……彼なりに必死に『異世界移民計画』を進めて、何らかの失敗のせいで転送は行われなかった……あるいは頓挫とんざした。

 だから彼には、こう見えたらしい。


「僕のせいだ……僕のせいだ! 僕らが、移民計画の第一陣が……上手くやれなかったからだ……っ!」

“……”

「こんな事を……こんな事が起こらないように、やって来たのに!」

“…………オマエ、ハ”

「この人たちは……きっと、僕に近い考え方だった。もしユニゾティアに来れれば、きっと協力出来た。悪い人じゃ無かった。悪い人じゃ無かったのに……っ!!」

“…………ソレハ、上ノ奴ラダケダロウ”

「……………………」


 晴嵐や宇谷の会話を、引用した亡霊の問いかけ。奥歯を噛んで、何か反論を持ちかけようとして……出来ない。

 この光景を見た後では……全員を救うべきではない。その結論を否定できない。しかしならば……誰も彼もを救おうとして、死んでいった者を貶める事は、ルノミには絶対に不可能なのだ。『文明復興組』の姿は、ルノミにとって鏡とも言えるのだから。

 どうにかして世界を救おうと手を尽くして、救えなかった……その点において、ルノミと『文明復興組』は共通だ。それが無残に踏みにじられて、クソみたいな人間のせいで死んでいく光景は……あまりに、あまりに惨すぎる。


「なぁ亡霊……こんなもの見せて楽しいのかよ!? こんなのに何の意味があるんだよ!? これはもう……晴嵐さんの過去だ。地球世界の過去だ。いまさら何を見たって、触れないし変われない! 僕は……彼らを救えなかったのに! 救うべきだったのに! そのために……異世界転移を実行したってのに! それは全部無駄だったって言いたいのかよ!? 答えろ亡霊っ!!」


 今は同じ霊体だからか? ルノミの伸びた手が、錆びだらけの亡霊を掴んだ。目に涙をためて訴えて、きっ、と強く睨む。亡者であろうと、ルノミは一歩も引かず怯まず、真っ直ぐに詰問する。

 その時の……亡霊の変化は劇的なモノだった。この記憶の旅が始まる前、亡霊はルノミを責めるような目線だった。今は立場が逆転し、ルノミが亡霊を責めている。

 青白い瞳が、初めてルノミから目を逸らした。まるで自らの過ちを悔いるように、誤解について恥じる様に。


“ソウカ……『オ前ハソッチジャ無カッタ』ノカ……”

「何の話をしている!?」

“私ガ裁クベキ者ノ話”


 ゾクリ、と発する怖気。初遭遇の時の気配……あの怨恨と憤怒は『裁くべき者』に向けた物らしい。分かるような、分からないような、理解が追い付かない中で、亡霊は核心を告げた。


“私ハオ前ヲ……『ルノミ』ヲ、裁クベキ者ト考エタ。ダガ……オ前ハ少シ違ウラシイ”

「裁くべき……者……僕に近い誰か……って事ですか?」


 頷く亡霊。すぐに連想される人がいる。慌ててルノミは食ってかかった。


「それは晴嵐さんですか? ダメです! 彼は……彼は、見たでしょう!? あんなに傷ついて、もうボロボロじゃないですか! 確かに、まっさらな人とは言いませんけど、でも……!」

“彼ハ……許シタ”

「…………なんだって?」


 許した? いつ? どこで? 心当たりのないルノミは戸惑うしかない。問い詰めようとした刹那、不意に足元が……いや、意識が歪み始める。

 なんだこれは? という疑問もまどろみに消えていく。まるで眠りに落ちるような、逆に夢から覚めていくような――


“……オ前ヲ裁クノハ、保留シテヤル”


 ルノミの意識が離れる寸前、亡霊の声が届く。

 どこか、寂しそうだな。と思った。


幕章・終末世界編――了

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