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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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同業者からの誘い

前回のあらすじ


 晴嵐が宿屋を降りると、同じ宿泊客の『ハーモニー・ニール』に絡まれた。馴れ馴れしい態度を内心嫌いつつも、情報収集をかねて色々と話してみることに。

 朝の『黄昏亭』は活気がある。店を開くのは昼食時から夜まで。朝は仕込みと、宿泊客へ食事が提供される時間だ。ほとんどマスター一人で、全員分を回すらしい。

 宿屋兼酒場のこの店は、食事付きの宿として有名とハーモニーは語った。新しく降りる宿泊客を尻目に、マスターはむず痒いのか、せっせと他の客に朝食を出している。金属質の……『テレジア』と言う名前らしいロボットも、補助で仕事に追われていた。

 窓から指す光と、食器や足音、人の気配に満ちた、活気のある朝。

 どこにでもあった、文明的な朝だ。ともすれば、懐かしさに涙腺が緩みそうになる。感傷に足を取られぬよう、ハーモニーとの会話に集中した。


「あのオムレツも美味かった。このメシ食えるなら、リピーター多いじゃろうな」

「いや~ホントに! もう三年もお世話になってるのに、全然飽きないよ! 宿泊費も安いから助かるよ!」

「ほー……」


 旨いメシ付きの安宿か。人気の出る、無難な組み合わせだ。懐の寂しい晴嵐にも、ぴったりの宿屋と言える。

 しきりに感心しつつ、欲しかった情報を元に会話を誘導した。


「三年……三年と言ったか、村での生活も?」

「はい! もうすっかり顔なじみで。ここも宿屋ってより、ボクの中だと……寮?」

「それでいいのか。お主……」

「あははー!」

「笑ってごまかせる問題ではなかろうて……」


 周りの宿泊客とも、何度か挨拶を交わしていた。マスター側も気安く接し、長いだろうとは予想済み。ならば……周囲の事は良く知っている筈。色々聞き出す相手としては、悪くない。


「そうだよねーそろそろ家を買おうかなー? って考えてます」

「気に入ったか。この村が」

「はい! 過ごしやすいし、故郷も遠くありませんから……」


 故郷、と語るその口には、僅かだが……後悔や躊躇が含まれている。初対面で、触れるべきではない気配を感じ、やんわりと話題を避けた。


「家を買うなら金が要るな。稼ぎはあるのか?」

「ふふ~ん……これでも蓄えはそこそこあるんですよ? ボクは猟師ですから!」

「ほほぅ……」

 

 意外な職に、ひとしきり頷いて見せる。間を溜めてからニヤリと晴嵐は笑った。


「実はわしも猟師でな。他にも色々とこなしているが……」

「同職の方なんですか!? やったー! よろしくお願いします!!」

「……あぁ、よろしく」


 再び手を握って、激しく揺さぶるハーモニー。打算と無縁な人柄に、微妙な表情で流される晴嵐。


(獲物の取り合いになるし、あんまり歓迎せんのじゃがなー……)


 獲物を狩る猟師同士は、同じ職についていても基本は『ライバル』だ。

 互いに礼儀は欠かさないが、あまり慣れ合う事はしない。組むとしても少人数で、なおかつ別行動が多い。獲物の追跡や気配の殺し方など、少なからずセンスが問われる職だ。

 率直に言って、ハーモニーはあまりらしくない。職業柄社交的な事は、苦手な人物が多いのだが……

 さらには、こんなことまで言い出した。


「今日出ようかな? って思ってます。良ければどうです? 一緒に」

「……いいのか?」

「はい! ちょっと採取したいものもあるので……その、荷物持ちに」

「あー……なるほど。ありがたい話よの」


 口は勝手に応対したが……些か、無防備過ぎると感じる。

 良い狩場の場所は、絶対に他人に明かさない。例えるなら金の生る木の場所を、タダで公開するようなもの。ここまで来ると「迂闊過ぎて」逆に誘っているようにさえ感じてしまう。

 即ち晴嵐をおびき出し、後ろから襲う気か? それとも不穏な想像、疑心暗鬼も甚だしいのか? 

 迷いを見せる彼に、ハーモニーがきょとんと、両目で覗き込んでくる。無防備な瞳で、中身を気にせず晴嵐の目を合わせる。


「どうしたんですか? あ! 何か先約が?」

「いや……特には……」


 口にしてから「しまった」と、己の失態を戒める。適当に誤魔化せる好機だったのに。ぱぁっと笑顔を咲かせて、ハーモニーはグイグイ来る。


「じゃあ行きましょう! せっかくですから!」

「う、うむ……」


 勢いで押し切られてしまった。視界の隅で、亭主がクククと笑う声がする。ギロ、と不機嫌な眼光で、晴嵐は八つ当たりするも、ハーモニーは気が付かない。そそくさと忙しいフリするマスターを怨めしく見つめるも、決めたのは晴嵐だ。責任は自分にある。


(いかんいかん、前向きに考えろ)

 

 この辺りの地理を知るには良い機会と、無理やり己を納得させる。彼の内情を露とも知らず、ハーモニーは席を立った。


「それじゃ、準備してきますね!」


 わんぱく小僧よろしく、元気いっぱいに階段を駆け上がる。完全に気配が上の階に消えたのを確認し、晴嵐はふーっと長く息を吐いた。

 テレジアの頭部にある単眼の光が細められ、仕事終えたマスターもからからと笑う。……一瞬浮かんだ悪どい想像は、取り越し苦労で済みそうだ。


「……ったく、あの小僧め」

「あー……セイランさん? ハーモニーは女だ」


 気まずい口調で挟まれた抗議に、晴嵐の懊悩が深まる。


「あれは初見で見抜けんわ……」

「肯定します。私もマスターも、男性と誤認しました」

「ただ、本人結構気にしてるから、うっかり男っぽいとか言わないでやってくれ。色々事情があるんだ」

「分かっとる。誰だって詮索はされたくない」


 言葉を出しつつ、今後を考える。

 猟に出ると言ったが、武器がナイフ類では不安が残る。いざという時頼れるのは、己の技量と道具の備えだ。弓矢があれば安泰なのだが、すぐに用意できるかは怪しい。

 すぐに作れて、護身用に使える物。厨房を眺めて、彼には記憶の底から閃くブツがある。


「なぁ亭主。少量でいい、小麦粉とコショウ……あと刺激のある調味料の粉末はあるか? 分けてもらいたい」

「うん? 何に使うんだ?」


 想像できない亭主へ、皮肉と得意げを混ぜた笑みを、ニヤリと浮かべた。


「家庭で簡単に作れる、便利な護身用アイテムになる」

「自己思考の診断を推奨します」

「ものすごく馬鹿にされておる気が……まぁいい、見ておれ」


 小さな麻袋の中に、材料を詰め込んで軽く縛る。

 終末世界でも作製した道具の一つ。こちらでも世話になるとは……奇妙な感慨を享受する晴嵐の顔を、ロボットは胡散臭くも、興味を持って見つめている気がした。

用語解説


ハーモニー・ニール

如何にもわんぱく小僧と言った調子だが、なんと女性。本人は気にしているらしい?

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