表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

554/741

最後の崩壊

前回のあらすじ


自分の暮らしていた住居を、冒涜的な儀式に踏み荒らされた痕跡を見る晴嵐。精神への凌辱は辛かったが、彼の苦難は止まらない。背中に見える亡霊が指さした刹那、一つの派手な爆発音が聞こえた。

 ガタガタガタっ……! と、軽トラックに微細な衝撃が走る。距離があるのだろう。減衰した波動は、荷物を壊す事はなかった。

 晴嵐は慄然を味わった。謎の亡霊が見えたと思いきや、いきなり指さした方向が爆発……今までも地下礼拝堂の冒涜を見て、じっとりと嫌な汗をかいていたが、今度は別種の汗が頬を伝う。瞬時に振り返り唾を飛ばして、晴嵐は背中側に向けて吠えた。


「貴様……何をした!?」


 ――背面には、誰もいない。何もいない。

 亡霊は跡形もなく消え、ぎょっとしてミラーを見つめても……最初から何もいなかったように、積載された荷物しか目に映らない。

 けれど、コレを『亡霊と何の因果もない』『ただの幻』と断じるには、あまりにタイミングが良すぎる。止まりそうになる思考。混乱し再来する嘔吐感。が、現実をもう一度見なければと、数度の深呼吸の後にアクセルを踏み込んだ。


(文明復興組に……何があった!?)


 この近辺からは、吸血鬼サッカーを一掃した。

 敵対する大手組織も、それぞれの理由から自壊していった。

 周辺に脅威となる存在は、絶滅している。ならば何らかの事故だ。そうである筈だ。言い聞かせる理性と裏腹に、晴嵐の内心は不吉な予感を……いや、不吉な確信をいだいている。急がなければならない。ほとんど無意識に信じ、加速する車両が派手に揺れた。


「あぁクソ! こんな時に……!!」


 崩れた道路と、積載たっぷりの軽トラック……加速は重く、道は悪路、加えて今の晴嵐は、隻眼隻腕の状態だ。感情のはやりに任せようものなら、確実に事故を起こしてしまう。頭では分かっている。慎重になるべきだ。囁く理性と裏腹に、老人のトラックは荒々しく唸り、排気ガスを勢いよく吐き出していた。


「くそっ……このままじゃ行けないか……!」


 回収した物資が多すぎる。過積載気味なのだろう。もし危険な情勢なら、荷台に誰かを載せる事になるかもしれない。様々な要素を加味し、歯噛みしながら行き先を変更した。


「急げ……焦らず急げよ……!」


 寂れた商店街、横田が不法占拠した場所、晴嵐の仮拠点の一つに軽トラを進める。感知用のワイヤートラップや、銀粉煙幕を派手にまき散らしながら……自分の拠点入り口に車両を停車させた。


「順序を間違えるな……荷を下ろして、武器は……そのままでいい。包帯と消毒薬だけ詰め込んで……ええい! 集めた物資の整理は後だ!!」


 頭で考えた事柄を垂れ流し、大声で自分に言い聞かせる。動揺はあからさま。らしくない彼の心には、やはり友人の三島や『文明復興組』への情がある。不吉な予感はますます大きくなる中、雑に拠点内へ物資を置いて、再び軽トラックに乗り込んだ。


「!? 貴様……!?」


 また一瞬見えた『亡霊』――幻覚か、それとも儀式で呼び出された何かなのか、晴嵐は判別がつかない。が、あの爆発との因果を問い詰めようとした刹那、亡霊の左目から、つぅと伝う一滴ひとしずくを見た。

 錆びの混じった塩水は、醜い亡霊の身体に茶色の跡を残す。何かを口にしようとして、口ごもってから消えていった。


「何だ? 敵……ではなさそうじゃが……」


 物悲しい表情に思えた。茶色の雫は、血の涙のようにも見える。おどろおどろしい見た目と、憤怒と悲哀を抱いた『謎の亡霊』。が、今この瞬間だけは怒りの火が鎮まり、世界を悲しんでいるように思えた。

 嫌な予感が、ますます強くなる。急がなければ。いや、あるいはもう手遅れなのか? 混乱する頭の中、まずは行動を起こせと己を叱責する。


「宇谷、三島……! 頼む、無事でいてくれよ……!」


 加速するオンボロ軽トラック。悪路と振動も構わずに、大事故一歩手前の運転で『文明復興組』の本拠点を目指す。前は横田ともう一人を載せて、両手で運転していた道をたどり、あと少しという所で――

 爆発音。場所は『文明復興組』の本拠ビルの上階。今度は衝撃だけでなく、はっきりと火球が破裂する場面を目撃した。瓦礫となって崩れる壁面に、晴嵐の顔色が青ざめる。一体何が起きている? ちょっとしたボヤ騒ぎじゃない。明らかに――誰かに攻撃されているとしか、考えられない。


「じゃが、誰に……!?」


 化け物は撃滅、他の勢力も自滅、だったら一体誰が? 晴嵐のような弱小な個人が仕掛けたとでも?

 いや、あり得ない。晴嵐でさえ、すべての物資を投入しても絶対に勝てない。以前の『覇権主義者内乱』の際も、彼らには私兵隊がいた。簡単にやられる事はありえない……そんな予測を、惨い現実は容易に裏切る。必死に晴嵐が『文明復興組』のマンションに到着した時、彼が目にしたのは勝鬨かちどきを上げる者の声――

 内容は良く聞き取れない、相手が誰かも分からない。

 けれどこの時晴嵐は、極めて激しい動転の中にいた。直前まで、過去の拠点が冒涜された後だった事も、何かしら影響を与えたのかもしれない。

 オンボロトラックに乗ったまま、徐々に速度を下げて近づく。

 その光景は慎重を第一とし、生き残る事を良しとする晴嵐にしては……酷く無防備な様子だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ