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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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馴れ馴れしい客

前回のあらすじ


宿屋で夢を見る晴嵐。かつて平穏に暮らしていた頃の夢は、晴嵐が親元から離れ、一人寮暮らしを始める場面であった。異世界の宿で目覚め、終末を生き抜いた老人は、三つの環境を並べて考える。どれもこれも幻想めいていると嗤い、ならば……それでも自分は歩き続けると、宿屋の一階に降りていった。

 一階の酒場に降りると、この店の主人がカウンターを拭いていた。

 彼の足音で顔を上げ、手を止めずにひと声かけた。


「おーう、おはようさん。えーと……セイランだっけか? よく眠れたかい?」

「おかげさまでの。ただ……寝起きはよろしくなかったが」

「そういやちょっと騒がしかったな。なんかあったのか?」

「……ただの悪夢じゃよ」


 朝のドタバタを、ありきたりな言い訳でやり過ごす。亭主は慣れているのか、神妙な顔で奥に引っ込んだ。脛に傷を持つ人間の機敏を、距離の取り方を心得ている。テーブル拭きをロボめいた何かに任せ、マスターは厨房に入った。


「おはようございます。昨晩は夜分、目を覚ましましたか?」

「いや……部屋ですぐ寝て、起きるまでノンストップじゃったが」

「……よほどお疲れでしたか。仕事もほどほどに」

「昨晩何かあったのか?」


 軽い気持ちで尋ねると、二回首を振って金属は音を発する。


「村の兵士の方が遅くまで騒いでいましてね……他の宿泊客の方から苦情が少々……」

「酒が入ればそうもなろうて。わしは気にならんかったぞ」

「眺める分には興味深いですがね。あ、おはようございます」


 階段側からの足音に反応し、自我を持つ金属が頭部を持ちあげた。別の宿泊客も挨拶を返し、晴嵐の隣の席に座る。金色の瞳が、彼と躊躇なく顔を合わせた。


「おはようございます。初めまして、ですよね」

「あぁ……そうじゃな」

「やっぱり! ボクはハーモニー・ニールって言います! ニーニーって呼んでください! 初めての人!」


 晴嵐の右手をひったくり、両の手で握ってブンブンと激しく振る。馴れ馴れしい行動を拒絶する間もなく、されるがまま晴嵐はぽかんとした。

 無礼だと怒鳴るのも忘れ、ニコニコ笑顔のソイツと顔を向けあう。晴嵐の反応の鈍さに正気に戻り、これまた慌てて手を離した。


「あ! ご、ごめんなさい! つい嬉しくて!」

「…………」


 大きな声が寝起きの頭に、ぐわんぐわんと不快に響く。露骨に嫌がる晴嵐の様子を察して、しゅんと縮こまった。

 何なのだコイツは。一呼吸を終えて、改めて人物を見つめる。

 短い頭髪は黒に見えたが、光が当たると僅かに緑かかっている。限りなく黒に近いダークグリーン……違和感は少ないが、始めて目にする髪色だ。目の色は金、鼻と口は普通。耳の横側が尖って長い。人間……ではなさそうだ。

 色味の薄い肌と対照的に、引き締まったスレンダーな体系は、そこそこ鍛えている人間の物に見える。全体の背格好や身体つきは、テティより大人びているが……中身については幼く思えてしまった。それとも情緒不安定なのか? 落ち込む隣人に話しかけず、ちらと目線で金属に訴える。

 本当のロボットと異なり、情感をくみ取る能力はあるらしい。従業員として、客二人の間を取り持つ。


「心中お察します。が、30代は子供です。大目に見てやってください」

「いや、30代は大人じゃろ……」

「エルフ基準では、まだまだ子供です」

「そ、そうか……」


 地球の基準が通じないことに戸惑う。こっちの基準はよくわからない。ここは無難に合わせておく方が、厄介ごとを避けれるはず。なのだが……このまま黙っているのも気まずい。無難な話題を振ることにした。


「わしはセイランと言う。昨日から一か月、この宿で世話になることになった」

「え? あ! そうなんですね!! よろしくです!!」


 さっき落ち込んだのはなんだったのか。一瞬でテンションを高めてくる。この馴れ馴れしさは、孤独に生き続けた男には頭痛がする。シエラ以上にやりずらい。

 言葉にできない淀みを隠し、無難に無難に話を繋ぐ。


「お主はどれぐらいじゃ? ハーモニー、と言ったか」

「ニーニーって呼んで下さい!」

「すまん、初対面をいきなりあだ名は……抵抗が」

「気にしないでいいですよ!」

「そういうことではない……」


 額に手を当て深く溜息。第一、まずは質問に答えてほしい。感情と好奇心を優先する様は、まさに子供だ。朝から怒鳴り散らす気力もなく、応対に困る。

 昨日の内に、テティに詳しく聞いておけばよかった。自分の感覚で、どこまで物を語っていいのやら……困り果てた晴嵐と、勝手に笑みを作るハーモニーへ、亭主がオムレツの皿を差し出した。


「ニーニー! セイランさん困ってるぞ。とりあえずメシ食って落ち着け」

「だってー新しい人ですよ! 今日はいい日ですよ! あははー!」

「あはは、じゃねーよ! お前それで二年前、亜竜の客にボコられたの忘れたか!?」

「最後は仲良くなれましたよ?」

「ダルくなって適当に扱われただけだ。声をかける相手は選べ……」


 亭主も亭主で苦労しているのか、両目を閉じて肩を落とす。ちらと晴嵐と合った瞳が、暗に「諦めろ」と語りかけていた。ハーモニーに聞こえないよう、ぼそりと囁く。


「……難儀しておるな」

「……最初より良くなってる。辛抱してやってくれ。悪い奴じゃないんだが……」

「そうか……」


 周りの視線も何のそのと、話題のハーモニーはオムレツを頬張る。

 自由奔放に過ぎる隣人に、もう一度深々溜息一つ。朝一番から気落ちした己に、無理やり前向き思考で持ち直した。


(いけ好かんヤツじゃが……この辺りの話は聞けるか)


 感情的な子供と割り切り、上手い事くすぐってやればよい。テティのみに依存せず、自分の判断で世界と向き合わないでどうする。この村にずっといるかもしれないが、移動するかもしれない。未来なんて、結局誰にも読めないのだから……

 ほどほどに食事を進めつつ、表情を作り隣の人物に絡みに行く。この世界の足場を、一つでも固めていくために。


「なぁ、ニーニー?」

「はい!」

「この村の事教えてくれるか? 何せ入ったのは数日前でな」

「いいですよ!」


 無警戒な笑みがうるさい。指先が何かに震えている。

 平穏で、無警戒で、打算のないハーモニー。見つめるほどに湧き上がるのは、シエラ以上に燃え狂う嫉妬さついだ。


(落ち着け。情報収集じゃ。必要なことじゃ……)


 彼は必死に押し殺し続けた。胸に燻る、己の衝動を。

用語解説


ハーモニー・ニール

 黒に近い、濃い緑色の髪に、尖った耳と金の目が特徴的なエルフ。三十代のようだが、この種族では『子供』らしい。

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