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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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集団への恐怖

前回のあらすじ


腕を失って一週間、早すぎる出立を引き留めようとする友人。見送りをありがたく思いつつも、曲がった自分は『文明復興組』のお人よしと、感覚が合わないと告げる……


「別に、お主らの理念や目標を否定する気は無い。何もせず、何も残らず死んでいくよりは……人類以外であろうと、何かを伝えて残すってのは悪くない。無意味無価値にこのまま滅びるよりは、ずっとずっとマシだと思う」


 お世辞ではない。距離を置きこそすれ、彼らに対して協力を続けたのは、三島の存在と彼らの理念を『良し』とする晴嵐の心象があった。

『文明復興組』は、友人の所属云々を抜きにしたとしても、その姿勢や体制は肯定できる。化け物の治療薬は……完成こそ日の目を見なかったが、もし製造に成功していれば、人類史の滅亡を阻止出来たかもしれない。国内を安定させ、海外の人類も救済も叶っただろう。

 そして今、人類絶滅が決定的になった今、復活の不可能を悟った彼らは、人類文明の記録と保存にかかった。


「どんだけ時間がかかるかは分からんが……ほんの少しでも残るなら悪くない。ま、もしかしたら拾い上げるのは、地球を見た宇宙人かもしれないが」

「えっ!? 晴嵐UFO信じるクチかよ!?」

「いや全く。だが未来なんて、人間のチンケな脳みそじゃ予測しきれないだろ。あり得るかもしれない可能性……としての話さ」

「もしいるんだったら、すぐに助けて欲しいけどな」

「不干渉主義なんだろ。自分のケツは自分で拭け……って話さ」


 突然の宇宙人ネタトークに、久々に二人は笑った。かつて宇宙まで手を伸ばした人類はもう、地球の地を這う虫けらだ。夜間に空を見上げる余裕も、深淵の果てに思索を巡らせる事も忘れていて久しい。だからこそ、軽口のネタには丁度良かった。

 ……本当はきっと、三島は強く引き止めたいのかもしれない。けれど晴嵐の心理にも理解を示している。きっとこれが『文明復興組』と合流する、最後の機会と知りながら……申し訳ないと思いつつ、断る。


「でもな、わしはどうも集団ってのが怖い。色んな意味で」

「俺達は終末カルトとは違うぞ?」

「さっきも言っただろ……集団ってのは、それだけで抑止力になり、力になる。主らに本気を出されたら、わしはあっという間にブチ殺される。そんな気が無いとしても、わしとしては……怖い」

「だったら……俺達の仲間になれば良かっただろ?」

「それはそれで『怖い』んじゃよ。終末カルトを見ていると、良く分かる。三島だって……本当はもう少し、わしに良くしたかっただろ?」

「……バレてたか」

「バレバレだ。でなきゃ毎日、シケたツラを見せに来るもんか」

「言い方ァ!!」


 狂信的な終末カルト……あそこまで行くのは極端にしろ、組織で活動すれば個人の意思は薄まる。恐らく友人たる三島は、もう少し晴嵐に対し何かしたかった。

 が、文明復興組としては……部外者の晴嵐に構いすぎる事は出来ない。組織故のしがらみの糸が、晴嵐には見えていた。


「わしは怖い。組織と敵対するのも恐ろしいし……組織の思想に染まって、自分の善悪が分からなくなるのも。しがらみはまぁ、多少は仕方ないとは思うが……自前で全部出来るようになると、どうも面倒に思える。それに……組織が崩れる瞬間を見ていると、人間って奴も――怖い」

「……そっか」


 晴嵐の過去については、三島も聞いている。かつての拠点は、終末カルトに染まった元仲間によって崩壊したと。――その仲間が横田。今回晴嵐が連れて来た男なのだから、皮肉も良い所。三島も思う所があるのか、声量を落として晴嵐に問う。


「……よく、横田サンだっけ? 殺さなかったな」

「…………殺して得があるなら、即ブチ殺していたよ」

「おっかねぇ」


 晴嵐は、決して横田を許した訳じゃない。別に罰を与える気もない。あいつはそもそも、罪を犯した自覚すらない。だがこの発言と晴嵐の本心には、僅かだが乖離かいりがある。

 ――本人は必死のつもりで、何かしようとするたびに……結果として足を引っ張ってしまう人間。感情を制御できず、感情に流されてしまうだけの人間。徹底して関わりたくないタイプなのだが……ああいう輩に限って生き残る。現に儀式からも生還した事から、運の強さは疑いようがない。

 なものだから……下手に始末しようにも、なんだかんだで逃げられそうな気がする。かといって、自分の手元に置いた所で不幸をおっ被りそうで怖い。だから他人の所に首輪をつけて、勝手に押し付けた。そんな感覚だ。

 苛立ち交じりに、一瞬過去を想起する晴嵐。その時ふと、彼は思った。


「……そう言えば、元『交換屋』拠点は?」

「生存者はいない……前も話さなかったっけ?」

「あー……その、なんだ。わしが立ち寄っても良いか? と聞いている」

「……大丈夫だと思う」


 かつて自分が暮らしていた拠点は『終末カルト』に吸収されてしまった。以降は占拠され、取引に向かう事は出来ても、奥地への侵入は許されない。

 故郷、とまではいわないが……苦い思い出の地であると同時に、彼にはいくつか忘れ物がある。


「そうか……なら、漁りに行っても?」

「平気なハズ。でも大したもの残ってないと思うぞ」

「昔いた場所でな……私物が残っているかもしれん」


 晴嵐の留守中に、旧『交換屋トレーダー』拠点乗っ取り事件は起きた。何の準備も無く、突然逃げるしかなかった晴嵐。

 流石に食料は残っていないだろうが……運が良ければ、何か残っているかもしれない。


「そっか……何か、見つかるといいな」

「……あぁ。交換に使える物も、ついでに引っ張って来るさ」

「へへ、頼むぜ」


 これで確認は済んだ。元『交換屋拠点』こと『豊橋農場』に侵入してもお咎め無し。数日の休息の後、軽トラックで向かえばいい。

 最後に軽く手を上げて、晴嵐は文明復興組を去った。

 今生の別れとは、思いもよらぬまま。

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