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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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尽きない疑念

前回のあらすじ


遂に周辺30キロ圏内から、吸血鬼の駆逐に成功した『文明復興組』……神の意思に抗い、勝てたのだろうか? 何はともあれ、文明の復興から保存へと舵を切るメンバー。その中で、不穏な空気も漂っているが……

 晴嵐の復帰は、腕を失って一週間の事だった。

 術後の予後が良かった事と、本人の希望により……である。本当はもう一か月は、安静にした方が良い。老いた晴嵐は、体力や気力の回復も遅いのだが……それでも晴嵐は『文明復興組』の支援を断った。晴嵐の負傷した経緯が、大きく影を落としているのだ。

 彼の左腕が失われたのは、文明復興組メンバーの銃撃による物。不幸な事故、両者共に仕方ない……と表面上は割り切っているものの、やはり心の底には不信感がある。適切な治療を施した事に感謝はあるが、あまり深い関係を続けたくは無い。晴嵐の態度と言い分を纏めるなら、そんなところだ。


「気持ちは……分からなくもないけどよ。晴嵐、もう一週間ぐらいは休んでいいんじゃないか? まだフラフラだし、無くした腕の事だって慣れてないだろう? 吸血鬼サッカーは撃滅したから、割と安全だけどさ……」


『文明復興組』所属の三島が、晴嵐の背中に問う。彼が長らく運転していなかった軽トラは、幸い向こうが整備していた。バッテリーが上がる事も無く、親切な事に燃料も満タン。「お人よしめ」と呟いて、男は答える。


「信用だけじゃない。早いとこ復帰して、この不自由さにも慣れておきたい。今は近辺に吸血鬼がいないが、その内また迷い来むかもしれん。そん時に身体を馴らしておかんと、片腕片手の化け物になっちまうだろ?」

「それは……そうかもだけどよ。にしても早すぎるって」

「……本音を言うと、ここの空気が合わなくてな」


 それはかつて、同じ学び舎にいた友に向けた離別の宣言でもある。分からないと戸惑う三島に、大平晴嵐は目を閉じ、唇を固く結ぶしかない。

 ――もう、自分と「文明的な」思考と肌が合わなくなってしまった。一週間の養生を経て……残酷な事実を、痛いほど晴嵐は認知する。


「三島はここで暮らしているから、分からんだろうが……わしは独りに慣れ過ぎた」

「? それが?」

「――群れってのはな、それだけで抑止力になるんだよ。こいつを殺したら、仲間が報復に来る。だが単独の奴なら……潰すのも、騙すのも、ブチ殺すのも……ずっと楽で、リスクが低い。んなもんだから、ずっと張り詰めて生きているモンでな……どうもお主らと感覚が違い過ぎて、どう判断すればいいのか分からん。今回の事もな」


 孤独に生き、他者に気を許せず生きて来た男の悲しいさがだった。複数の組織と取引を続けた分、この荒廃した地球で、様々な人間を見た結果だ。

 罪悪感や、自らの悪を自覚しているならマシな方。自分の行いを悪と知りながら、必死に正当化して生きる輩も珍しくない。けれど、最もタチの悪いのは……『本当に全く、自分の言動の異常性を自覚できない』人間だ。

 いくら周辺が指摘しても、どんな風に言いくるめようとも、自分を擁護する事だけ天才的な輩は、確かにいる。

 そんなクソッタレな奴と比べれば、文明復興組はマシとは思う。思うのだが……


「分かっている。腕の事は事故だ。だがどうしても……やはり、悪意があったのではないか? と疑っちまう。治療も受けたし、食事に毒も盛られておらん。その気ならとっくにわしは死んでいるから……お主らは誰が見ても、潔白にもかかわらずな」

「人間そんなもんだろ。悪いのはこっちだし……身も心も弱っていちゃしょうがない」


 それは道理だ。人の道徳に準ずる発言に、変な笑い声が出そうになる。どうしても人の善意を皮肉ってしまう。男は……老いていく最中で、人間の悪性に触れすぎたから。

 だから晴嵐は今、外套を左側に寄せて纏っている。左手の欠損を隠し、ぱっと見で悟られぬために。肘から先を失ったが、肩から肘までは残っている。ぼろ布のマントをひらひらと動かせば、とりあえずは偽装できるだろう。どうにか抑える老人の顔が歪むのを見て、三島の顔も曇ってしまった。


「でもな三島……わしは養生中、もし襲われたらどう切り抜けるか……なんて、本気で考えていたよ。どうもわしは、どこでどう生きていようと、心が落ち着く事は無いらしい」

「おいおい……信用して無いのか?」

「信用はする。安心できないだけだ。どんな状況でもな」


 それは、晴嵐の悲しい過去の影響だった。

 かつて彼もまた、集団で生活していた。『交換屋トレーダー』拠点で、農場内部で仲間と呼べる人たちがいた。

 けれど横田含む、心の弱い人間の行動により崩壊した。以降晴嵐は、集団や他者に対し、どうしても冷ややかな目線を向けてしまう。疑ってかかってしまう。たとえそれが――客観的に見て『完全に善意だ』と断言できる状況でさえも、それなり以上に付き合いの長い組織や、同じ大学の出の友人だとしても。


「こんな時代じゃ、お人よしの方が少数派だ。どうも……お主らの関係性や性質が合わなくてな……」

「気に入らない、って事?」

「そうじゃない。なんて言えば良いのか……波長が合わない、とでも言えばいいのかの」


 同じ世界で暮らしながら、同じ景色を見る事は出来ない。

 誰もが、自分目線でしか世界を観測できない。

 より歪んでいるのはどちらなのか。そんな事は分かり切っている。

 けれど……晴嵐は曲がった自分を、元に戻す事を諦めていた。

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