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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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未来について

前回のあらすじ


左手を喪失した晴嵐を迎えたのは、文明復興組に属する三島だった。世話を焼いてくれる彼と現状を話しあうが、その中で晴嵐の左手は保管されていると言う……

「あー……悪い悪い。変な意味に聞こえたよな……」

「当たり前だ。お前まさか、人の腕を集める趣味でもあるのか?」

「んな訳ねぇだろ気持ち悪い!!」


 突然の狂人めいた発言に、最初こそぎょっとしたが……彼らなりに理由はあるらしい。全く想像できない男に対し、同年代の三島は『今の目標』について語った。


「俺達『文明復興組』はさ……なんとか前の世界の社会とか、世界とか、どうにか取り戻せないかって活動してきた訳よ」

「……そこの主張と行動は一貫しているな」

「でも……もう難しいって流れになった。だから……文明の復興から、文明の保存に移っている。んで……その中に、人間の情報も含まれていてだな……」

「すまん。何が言いたいのか全然わからん」


 遠回しな言い方がじれったく、分かりやすい説明を求める晴嵐。正直に言うしかないと分かり、三島はため息と共に唇を開いた。


「その……お前の腕は、手術で切断したけど……手首から上の、手のひらは割と綺麗なまま残っていた。だから……ホルマリン漬けにして、標本に」

「…………なんでまた」

「次の知性の為に……人類がどういう生き物だったかって、残すためだよ」


 生物の標本があれば、記録や痕跡として分かりやすいだろう。人類史を残すなら、確かに人類そのものの標本もあるに越した事は無い。だがしかし、それを本人の無許可でやるのはどうなのだろうか? 不機嫌な様子で片腕を無くした男が反論した。


「せめて一言欲しかったが」

「悪いとは思ったけど……でも晴嵐の意識が戻らないし、許可を取っている時間も無かった。健常な人から『標本が欲しいから片手をくれ』って言える訳もないだろ? そうなりゃ、やむを得ず切除した奴を、保存するしかない訳で……」

「まぁ……そうだが」

「それに、晴嵐のDNAも保存したかったって……確かに晴嵐は部外者だけどさ、今回の詫びと、今まで色々と交換してくれたし、助かってたから……」

「DNA……」


 すべての生物が持つ肉体の設計図。特例を除いて、すべての生物が別の構造を持つ二重螺旋。突然の生物学に面食らいつつも、彼らの意図は理解できた。


「次の知性とやらに、人類の復活でも願う気か?」

「ワンチャンあれば……って所だけど、あまり現実的じゃないって話。俺や奥川さん、宇谷さんとか……希望者の血液を採取して、抽出しているけど……意外と遺伝子って壊れやすいみたいでさ」

「そうなのか?」

「俺も詳しくは知らないけど……ホラ、重い病気の癌ってあるじゃん? あれも遺伝子がエラー起こして発症する病気な訳で……意外とDNAってのは、繊細な物らしい。長い事完全な状態で、保管できないんだと」

「……冷蔵保存じゃダメなのか?」


 少しSFめいた話になるが……『コールドスリープ』などに代表される保存技術は知っている。この世界では実現不能だが、冷凍庫のような設備を確保すれば、保管だけなら何とかなるのでは? 素人考えの晴嵐に対して、三島も頷き、苦笑がてら「ダメっぽい」と答える。


「確かに『低温保存』すれば、一応はDNAを保管できる。でも考えてみてくれよ晴嵐。一体誰が『低温を維持しつつける』のさ?」

「……電力不足か」

「それだけじゃない。保管設備だって、人間が手入れしなきゃ老朽化しちまう。俺達も一応『文明の保存』の為に動いているけど……手入れなしに100年、200年も持つ保管設備ってのは……」

「核シェルターでもダメか?」

「俺も知らなかったんだけどさ……核シェルターって、整備無しだと60から70年前後が期限らしい。そりゃ野ざらしや並みの設備に比べれば、ずっとずっと頑丈みたいだけど……『次の知性』が出てくるまで、持つかって言われると……」

「そもそも次の知性とやらが出てくるまで、どんだけ時間が必要かも……予想は無理だわな」


 人類の絶滅したとして……その後の復活した地球で、覇権を握る『次の種族』の出現はいつになるか分からない。人間ですら、万年単位の歴史を持ち、文明の発展や進化の痕跡があるのだ。次の知性の誕生がいつになるのか……それこそ一千年、一万年で足りるかどうかも怪しい。過去、人類の建造物で、千年や万年以上形を保った施設があると言われると……

 暗い想像を重ね、口ごもる晴嵐。けれど三島は……否『文明復興組』は、現実に抗う。


「それでもさ……やっぱ、地下の核シェルターの中に納めておけば、一割ぐらいは残せるかもしれない。遺跡とかだって、地面の中に埋まった物は結構残っているだろ?」

「……わしらの文明が、未来の化石になると?」

「イメージそんな感じ。だから色んな物を、色んなパターンで保管して……少しでも『次』に繋がる様に託す。そのために……晴嵐の手の標本も」

「そう聞くと……なんか気恥ずかしいな。未来の誰かに、ジロジロと見られる事になるのか?」

「もしかしたら、だけど」


 最初こそ『左手を保管している』と言われてギョッとしたが、目的を知れば文句はない。事後承諾なのも気に入らないが……理由を聞けば、分からなくもない。

 それに……恐らくもう、文明復興組には時間が無い。きっと今回の作戦で犠牲者を多く出した筈だ。生存者の高齢化も進んでいるし、焦りもあるのだろう。

 しばらく二人の間で、無言の時間が続いた。時々三島は何か言いたげに口ごもるが、指をもじもじと動かすばかり。きっと『不幸な事故』について、言及したいのだろう。

 慰めの言葉か、それとも別の何かか。同年代の友人自体が、この時世では貴重ではある。が、組織の仲間の失態故に……素直に言い出すことが出来ない。晴嵐の看病ぐらいなら、個人の意思でどうにでもなるが、集団の代表者のようには振舞えない。一人の勝手が全体の足を引っ張る。その事態を避けばならぬと、明言や迂闊な約束ができない。

 ――友人の見せた葛藤の表情に、晴嵐は様々な意味を込めて、小さく告げた。


「……大人になったな。三島」

「……もうジジイだよ。俺もお前も」


 学生時代、三島は非常に『軽い』男だった。少なくてもこうした『組織員としての気遣い』は、出来ない人間だったと思う。言動と責任、不自由と利益、そのバランスを計算して、かつてのように感情だけで動けない……

 だが、それでいいと思う。変わらない友情などありはしない。だがそれでも情を感じられる、この距離感が晴嵐は気に入っていた。

 初めて肩の力の抜けた苦笑を、お互いに漏らす。そして三島はやっと……『文明復興組』としての言葉を、晴嵐に伝えることが出来た。


「晴嵐……交換の物品について、注文がある」

「……なんだ?」

「本を……人類の痕跡と知識について集めて欲しい。学術書や歴史についての物を、特に優先して欲しい」

「結構燃やしちまったが……」

「今からでも遅くない。……頼む」

「……この腕だ。限界はあるぞ」

「それでも……『もの探し』は、俺らよりずっと得意だろう? 化け物もかなり掃除したから、出来なくはない筈だ」

「……いいだろう」


 誤射で失った腕もあり、文明復興組を信じきる事は難しい。が、もう残存する勢力はここしかない。他に取引先もない以上、協力するしかない側面もある。

 滅亡が決定した世界でも、最後まで何かを残せる時間があると――この時は誰もが、そう考えていた。

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