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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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殲滅戦の長期化

前回のあらすじ


危険な近接戦闘も交えながら、罠を駆使して吸血鬼を削っていく『文明復興組』――一夜ずつ、怖ろしい時間を超えていくが……

 昼間は周囲の偵察と、安全な領域の拡大、そして潜んだ化け物を狩り出し殲滅する。夜間は防衛陣地で吸血鬼との戦闘。休む間もない激務であるが、全く一瞬も気が抜けない。どちらの活動にしろ命がけ、油断をすれば死に至る緊迫した環境だ。

 現状、陣地設営から約二週間が経過した。偵察の距離は伸び、見回りの頻度は減りつつある。理由はいくつかあるが、一番の動機は『疲弊』だろう。


「……やはり一筋縄にはいかないか」

「覚悟はしていたが……」


 昼夜問わずに活動を続ければ、疲労は倍々にのしかかる物。一応はローテ―ションを組んで、休息を取っているが……それでも二週間、不規則な睡眠スケジュールと、過酷な戦闘をこなしていれば、じわじわと重りが増えていくような物だ。

 蓄積した疲弊と疲労は、現場の人間から集中力と注意力を奪う。行動にアラが生まれれば……見落としやミスも増え、結果として負傷者も増えていた。もちろん、命を落とす者も。

 死者からはあえて目を背け、文明復興組の一人が現状を語る。


「でも……安全圏は広がっている……と思う。駅周辺からは、かなり吸血鬼が減った」


 何度も偵察とクリアリングを重ねた成果だろう。それても『殲滅』に至らないが、確かに遭遇率は下がっている。けれど晴嵐は良い顔をせず、忌々し気に遠くを見つめた。


「の割には、夜の襲撃が全く減らん。これだけ『掃除』していれば、徐々に夜間の敵の数も減りそうなものだが……」

「気のせいだったらすまない」

「何だ?」

「むしろ増えていないか?」

「――同じことを思っておったが、わしが疲れているだけかと……」

「よ、良かった。気のせいじゃ無かったか」

「こんな気力じゃ、自信が無くなるわな……」


 誰もが疲れている。誰もが消耗している。誰もが気が沈んでいる……その淀んだ空気の中では、誰もが自信を失うだろう。主観が歪んでしまっているのではないか? それは気のせいで、周りの人間は何とも思っていないのではないか? 変な弱気と発言で、空気を崩しはしないだろうか……


 それは集団を保つための気遣い、必要な配慮ではある。輪を乱す人間は、どんな組織であろうと嫌われる。けれど個人で見た物、感じたものが正しいかどうか……口にするまで分からない。ましてや『疲労で自分の判断力が鈍っている』と自覚していれば、ますます己の知覚を疑うだろう。そんな状態で、果たして誰かに意見を述べて良いものか……そんな不安が、疲弊した組織には漂うものだ。

 が、逆に一度口に出してしまえば、後は今までの疑問は不安を正直に話せる。回らない頭なりに考えた晴嵐は、現状を奇妙に感じていた。


「となると、おかしな話だな……夜の襲撃に、昼間のクリアリング。どっちにしたって化け物はブチ殺して、数を削っている筈だ。なのに襲撃に来る吸血鬼共は、減らないどころか増えている……」

「宇谷さんの予想では……山場は三日から一週間ぐらいと予測を立てていた」

「……そうなのか? わしは部外者なモンで聞いていない」

「悪い悪い。でも、初日は緊張している。二日もそう。で、化け物共が積極的に襲ってくる期間は多分、一週間以上は続かない……って予想だ。周りから敵の数を削っている訳だから、そこからは徐々に楽になる……って理屈」

「……予定より吸血鬼の数が多かったのか?」

「にしてもおかしい気が……まるで」


 そこから先の言葉は……『文明復興組』としては、口にしづらい内容と言えた。どこにも属さない晴嵐が、その先を代弁する。


「まるで誰かが、悪意を持って吸血鬼共を操作して……わしらを滅ぼそうと狙っているようじゃな? 例えばそう――地球を管理する神とやらが」

「………………そんな訳が無い。吸血鬼サッカーはただの、理性の無い化け物だ。神様云々って話をするなら、こんな遠回りな事をするか? それこそ、俺達の頭上に核爆弾でも落とせばいい。一瞬で抵抗も出来ずに死ぬぞ」

「……神は神で、何か都合があるのかもしれん。ま、下々のわしらが知った事ではないがな。それに、どんな理由や制約があろうとも……人類を全滅させたいのは確かだろうよ」

「それだけの事を、人間はやっちまったからな……でも、今更遅すぎるって分かってる。それでも、生きる事を諦めたくない」

「……同感だ」

 たとえ絶望的な世界であろうとも、神に『死ね』と言われても。自分自身として、最後まで生き抜く抵抗をする。それが個人か、人類文明かの違いだけで、晴嵐の指針と文明復興組の心象は似ているのだろう。


『人類史を完全に灰にしない為に、最後まで人類として抵抗する』


 そのための過酷な作戦。たとえこれが、滅亡の決まった人類の延命行為だとしても、全く何も意味を成さなかったとしても……『何もせずに』死にたくはない。せめて何か、何かを残したい。目の前に広がる絶望に、折れかけた心を奮い立たせる。老化した自分たちには荷が重いが、最後まで背負い切り、やり切るしかない。他に出来る事はもう、晴嵐にはないと改めて自覚する。

 だから――彼は非道を承知で、もう一度ある事を提案した。

 ――手段を選ばぬやり口に、良い顔はされなかったが……最終的にはその案は、承諾された。

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