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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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修羅場を超えて

前回のあらすじ


日が落ち、夜になると、吸血鬼共が活性化した。前線基地に群がる化け物共に、全力て抵抗する。火矢を射かけて、抗戦を続ける……

 空には半月が顔を出し、地表を静かに照らしている。天上は地上の騒乱をただ見下ろすばかり。たとえそれが……血と騒音に塗れた、ドロドロの闘争の中だとしても。


「おい! 矢が残り少ないぞ! 補充は!?」

「は、はい! 急いで!」


 火矢を始め、通常規格の矢も大量に射かけている。しかし常に弾幕を張っている影響で、その消費速度は怖ろしく早い。南だけでなく、北側陣地でも消費もあるので……当然、このような事態も起こりえた。


「予備ももう少ないです……! こうなったら……」

「あぁクソ! 分かったよ。近接戦で減らせって事だな!?」

「……すいません!」

「どこも地獄だし仕方なかろうよ!」


 完全に尽きた訳ではない。しかし、完全に使い尽くす訳にもいかない。消費と温存のバランスを取らねば、死は容赦なく彼らを飲み込むだろう。

 通常の矢なら、敵の死体から引き抜いて再利用も可能だが……それは夜を超えてから。活性化したとはいえ、やはり昼間の方が『吸血鬼』の活動は鈍い。矢の回収は、この襲撃を乗り越えた後にしか行えない。


「――度胸のある奴、前に出ろ」


 数名が『有刺銀線』で封鎖した付近に寄る。自衛用の武器を手に、接近戦に備えた。やぐら側の見張りに対し、文明復興組は無線に声を吹き込んだ。


「紫外線ライトを!」

「わかった!」


 高台にいる者達が、銃をいったん降ろして大型サーチライトに手をかける。程なくして点灯すると、紫色の光が降り注いだ。通常の人間にとっては、やや見ずらい明かりに過ぎないが……怪物どもにとっては、忌避する性質を含んでいた。

 なれど、今までと異なり、この明かりを受けても引き下がりはしない。活性化の影響だろうか? 奴らは唸り苦しみながらも、メラメラと湯気と殺気を揺らめかせ迫り来る。突進をかけた怪物に対し、前に出た者達は得物を構えた。

 多くの者は槍を用いている。やはり近接戦において、間合いの有利は絶対的だ。扱う難易度が低い事も、この武具の優れた所である。振り回すのは無理にしても、低く構えて突き出せば、最低限の仕事は可能。何より吸血鬼サッカー相手に強いのは――奴らは遠距離から仕掛ける手段が無い所だ。


「とりゃぁああっ!!」


 銃や弓はもちろん、槍や何かを投擲するような『知性』が無い。その運動能力や、捕食者としての威圧感は脅威にだが……結局奴らは爪と牙で襲い掛かるしか、襲撃方法が無い。何よりこの突進一辺倒は、槍での攻撃であれば有利に働く。

 気迫を込めた一撃は、相手の突進力でより深く突き刺さる。半分自滅に近い形で、串刺しにされて悶えた。

 胸付近を貫かれ、鮮血が溢れる。怪物であろうとも、生命の急所を破壊されれば死ぬ。数回の痙攣を見届けずに、貫いた死体を投げ捨てて次に備えた。

 ここにいる者達は、戦闘行為に慣れている。誰かが怪物を槍で穿うがち、捨てるまでの間に援護の姿勢を取る。積極的に動くのは、槍ではない武器を構えた男だった。


「結局、頼れるのはコイツよな……!」


 大量の投擲物を携行し、外套を纏った男が紫外線ライトの下で踊った。指の間に挟みこんだ、針状の投擲物を一斉に投げつける。散弾めいた攻撃を受けたが、即死は取れない。けれど怯ませて足止めに十分。別の槍を握った者が貫き、敵を次々と屠っていく。

 ――本来、化け物の勢いを考えれば、彼らは即座に潰されている。

 が、紫外線ライトの下では、少なからず『吸血鬼』は鈍化する。気は抜けないが、対処は不可能ではない。さらにまだまだ、事前の仕込みは残っている……!


 光の中にいる人々に向けて、怪物は肌を焼かれながらも突っ込んで来る。知性はほとんど保持していないが、本能的に効率は考えるらしい。光が照射されていない、あるいは薄いルートから、迂回して迫る吸血鬼の影――

 が、人の知性は予期していた。影から突撃しようと狙った怪物たちは、死角に仕込まれた罠が突き刺さる――


「ギッ……!? ギャアアァアァァァアッ!!」


 不意の一撃が絶叫を引き出した。少し太めの鉄製ワイヤーに、銀色の茨が巻き付けられている。食い込む弱点物質に悶絶するが、槍を構えた『文明復興組』の一撃で絶命。

 が、仲間が死んだにも関わらず、化け物共は止まらない。人間への殺意に足は止まらず、少年が仕込んだ『有刺銀線』が突き刺さる。

 そこに罠がある。仲間が一度引っかかっている。それなのに『吸血鬼』は止まらない。理性を失い、学習力も失い、恐怖を無くして、本能のまま突撃をする怪物には、ただのワイヤー一つでも効果抜群。確実に勢いは削がれ、鈍った所でトドメを刺した。


「よし!」

「油断はするなよ!!」


 一体、また一体と、前線にいる者達が敵を屠る中で、高台でライトを扱う者も動く。まだ切羽詰まっていない現状を見て、狙撃銃ではなく弓矢を扱う。狭いやぐらでは長弓が使えないが、短い弓でも高所からなら射程は伸びる。引き絞られたつるから、手作りの矢が闇の中へ吸い込まれた。

 手前にいる敵は撃たない。下手に誤射しかねない相手より、暗闇から迫る遠方の怪物を狙う。当てずっぽうだが、命中すれば儲けものだ。


「まだ夜は長い! 気を引き締めろ!」

「おおおっ!!」


 まだまだ士気は高い『文明復興組』――このようにして彼らは、怖ろしい夜を一日ずつ、超えていった。


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