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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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休む間もなく

前回のあらすじ


設営した『対吸血鬼』の前線基地から、周辺の偵察と吸血鬼の始末を開始。晴嵐は一人で遠方を先行偵察し、危険な敵を排除、さらにマーカーを配置して後続に伝える仕事。集団行動を嫌う晴嵐だが、役目は忘れず着実に遂行した。

 昼を過ぎた所で、晴嵐は一足先に『前線基地』へと帰還した。もう一つの本番、夜の襲撃に備える為である。しっかりと睡眠を取り、目を覚ました頃には空が夕焼けに染まりつつあった。

 人の営みなど、地球にとっては些細な物なのだろう。赤く染まる太陽の色は、滅びかけた世界に妙なノスタルジーを添える。寝起きの感傷に浸る贅沢は、文明復興組の交代役によって打ち切られた。


「晴嵐さん……南側でほとんどのトラップが作動しています。再設置しないと……」

「まだ終わって無かったのか?」

「奴ら、廃車も叩き壊していて……バリケードの再設置で時間を取られています。あと、化け物の死体を薪にするのにも、時間を食いました。それに罠の配置は、あなたと『あの子』が適任ですから……すいません」

「……わかった。何とか間に合わせよう。北側は?」

「そちらは大丈夫です。『あの子』が終わらせています」

「……そうか。なら急ぐとしよう。日が落ちた後じゃ、わしも食われちまうかもしれん」


 時刻は夕暮れ。化け物の活性化が進む前に、急いで準備を終わらせなければ。手の空いている数名と共に、急いで南側へ急ぐ。

 こちら側は見張りと、車の残骸を利用したバリケードが敷かれている。銃座は置かれていない。銃器そのものもそうだし、弾薬も無駄使い出来ないからだ。

 また、複数の方面に同時進行している事もあり、武器弾薬は分散している。本当は一つ一つ片付けるのが得策なのだが、現状はそれを許してくれそうにない。『終末カルト』の拠点へ部隊を派遣し、可能なら人員を救助する作戦は……時間制限が設けられているようなものだ。こちらの殲滅戦は……間接的に救助部隊に行くであろう敵を、誘引する目的もある。

 何も『お人よし』な理由だけじゃない。『吸血鬼』は、人間を食い殺す事で増える性質を持つ。だから『終末カルト』の人員を救助せずに放置すると、結果として『吸血鬼』の個体数を増やしかねない。化け物より、人間の方が怖ろしい……と言う考え方もあるが、状況が悪化するのを、ただ待つのも愚かしいだろう。


「だからって、ここまでするのも『お人よし』とは思うがな……」


 絶滅が決まっていると宣告されても、それでも足掻こうとする人々。晴嵐はそこまで、積極的に希望は抱けないが……最後まで抵抗を続けるのは『良し』とする。最終的に『晴嵐が住まう地域から、化け物を掃除できる』メリットもある……明らかにリスクと釣り合わない利点を言い訳にして、彼は防衛拠点南側へ移動した。

 この陣地では……南側、北側の通行ルートをバリケードとトラップで封殺し、化け物共の侵攻ルートを限定。西側にある本拠を背に、東側へ敵を集中するように誘導する……それが『文明復興組』が設営した、前線基地の概要だ。

 地形は駅前。かつて運行していた電車は朽ちて久しい。立体橋の一部は爆弾を仕込み、一度は化け物を下敷きにし、通路を封鎖するのに使えた。

 が、それだけで敵の侵攻を防ぎきる事は不可能。廃車や残骸を敷き詰めても、奴らは時に乗り越えてくる。だからあえて、狭く細い道を作り……そこにワイヤー線と爆薬、さらに応用で『銀粉煙幕』を散布するトラップも併設していたが……


「効果的に潰せているが……作り置きが足りるか? これは」


 完全に道を塞ぐと、化け物はバリケードを乗り越えてくる。

 だから細い通路を作り、そこに罠と少ない人員を配置して、効果的に化け物を駆除する……それが側面部隊の役割だ。晴嵐がぼやいていると、かなり若い人間が老骨の言葉に同調した。


「銀粉煙幕は控えた方がいいかも。これからも自衛で使うし、通常の煙幕と爆発物のコンボで十分じゃない? 『おじさん』?」

「……もうクソジジイでいいぞ。坊主」

「やだなぁ、ぼくだってもう『坊主』って年じゃないよ。子ども扱いはやめて欲しいかな。立派な青年?」

「……それを自称している内はガキだろうに」


 晴嵐が年を取る様に、その青年も年を取った。かつて『覇権主義者』で遭遇し、爆弾を晴嵐に手渡した子供……今は『文明復興組』の庇護の下、若者に成長している。あまり会う機会は無いが、罠や爆発物に関して学んだらしく、晴嵐目線でも頼れる人間だ。年月への軽口を止め、化け物対策に精を出す。


「弾薬は?」

「あるけど、出来るだけ使いたくないのが本音。銀のマキビシも作ったけど、思ったより効果が低いや。爆風で吹き飛んじゃったり、死んだ吸血鬼の死体で埋まって使えない」

「そりゃ痛い誤算だな……」

「でもこんなこともあろうかと……もう一つ秘密道具を作っておきました! 『有刺鉄線』の棘に、銀メッキを施した奴。さしずめ『有刺銀線』ってとこ?」

「……緊張感の無い奴め。使えるのか? それは」

「どうだろ? 銀のマキビシよりは効果があると思うよ。ま、どんな風に生きようが、死ぬときは死ぬでしょ。変にパニくって死ぬより良くない?」

「人それぞれじゃろ。それは」

「だねぇ」


 お気楽なのか大物なのか、青年はあっけらかんと言ってのける。

 これから来る恐ろしい夜に備えて、手の空いた人員は罠の補強にいそしみ、これからやって来る化け物共を撃退すべく、出来る事、やれる事をそれぞれに続けていた……

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