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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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先行偵察

前回のあらすじ


文明復興組の行動に、晴嵐も同調する。感情の理由に整理がつかないが、この展開になった一因に責任を感じたのかもしれない。危険な現場に飛び込むと決めた晴嵐は……

 場所は『文明復興組』の本拠点から、東へ13キロ程の地点。そこには『文明復興組』の実働部隊が、無数のバリケードと武装を配置していた。

 晴嵐も参加するその拠点は、東側の敵勢力に向けて撃滅戦を行っている。元『終末カルト』の証言によれば、そちら方面に『教団支部』は存在しないらしい。すなわち、こちら方面にいるのは、大半が化け物と断じてよい。仮に生きている人間がいるとしたら、晴嵐のような個人勢のみ。理性があるなら接近しないか、自分を人間とアピールするに違いない。誤射の心配はあまり考えなくて良いから、持てる火力を集中させている。

 大量の残骸を転用したバリケードの奥に、即席の高台と土嚢で固定した機関銃が見える。夜間になれば化け物が迫るであろう側は、既に処理しきれない屍が、遠方で腐敗臭を漂わせていた。

 たまに吹く生ぬるい風に、最初の方こそ不快感が伴ったが……恐ろしい事に人間、どんな状況にも慣れてしまうらしい。元は駅前の交差点と、小さく発展した周辺を利用した陣地を拠点に……晴嵐は東側陣地から北側へ向けて一人、遠出を始めた。

 あまり褒められた行動ではない。他のグループはチームを組み、互いをカバーしながら動こうとしている。当然『文明復興組』メンバーからは、こんな疑問が投げかけられた。


「……チームで行動しなくて良いのか?」


 晴嵐より手前側で、北側の怪物狩りを担当するチームが男に問う。『良ければこちらと合流するか?』と、言外の気遣いに、口をすぼめて頭を掻いて、申し訳なさそうに晴嵐は告げた。


「すまん。わしが団体行動に慣れてない。動いている奴を見たら、反射的に殺しかねん……」

「そう……なのか?」

「目に映る奴は全員敵、よくても中立って心構えで、今まで残骸を漁っていたからな……分かりやすく敵と味方の配置があるなら、流石に大丈夫だが……」


 かつては『交換屋トレーダー』集団として、活動していた時期もある晴嵐。しかし裏切り行為により孤独となり、常にその緊張した環境で、生き延びた弊害が生じていた。自分一人を守ればよい、味方などどこにもいない。その前提で活動し続けたために、逆に集団行動が非常に苦手となってしまった。


「集団で行動する訓練も受けてない。所詮わしも部外者じゃし、お互いにやりづらいだろう。変に全力を出せずに『吸血鬼』に殺されるのも馬鹿馬鹿しい」

「理屈は分かるが……撤退する時、こっちを攻撃するなよ?」

「……気を付けるさ。引き上げる時に無線で連絡を入れて、ちゃんと気持ちを切り替えて、撤退するとしよう。同士討ちは笑えん」

「全くだ。顔も覚えておいてくれ」

「記憶できるか自信がないな……昔なら、デジカメやらスマホで保存出来たのに」

「懐かしいな……でも一度見ておけば、また会ったその時、思い出せるだろう?」

「思い出せなかったらボケの始まりだな」

「大丈夫だろう? あんたなら」


 別れ際に、軽口を叩くのは様式美。けれど、これが最後の顔合わせになるかもしれない。あまり湿っぽくなる前に、晴嵐が北側へ先行した。

 ――彼の役割は、先行偵察とマーカーの敷設。身軽な格好と外套を纏い、ウエストポーチに目印用のペンを携行。敵が潜んでいるなら、優先した排除する。それが役割だ。

 他の者たちは、晴嵐より手前で化け物の鎮圧と、残っている資源の回収を行う


「こっちは……ふむ、未開発か……」


 駅前だけが発展し、少し距離を取っただけでド田舎……あるいは特定の方向だけ、極端に発展した駅近郊は珍しくない。まだ500mも進んでいない筈だが、既に田畑だった草原が広がっている。点在する家は荒廃が進み、タイル塀は所々崩れていた。奥地にあるボロ小屋、その中から感じる気配に晴嵐は身構える。

 いる。奴らだ。化け物たる吸血鬼の気配。妙に興奮した荒い吐息と、僅かに香る死臭。こちらを捕食せんと、恐怖の欠けた堂々とした足音……人間であれば、この時世では少なからず存在感は隠したい。既に『敵』と断じて、彼はウエストポーチから、黒ずんた液体を包んだ、透明なビニール袋を取り出した。


 奴ら吸血鬼は、気配を感じる能力が高いが……より効果的に相手を引き付ける方法がある。上側に小さく爪で穴を空け、そっと上から投げ込んだ。

 ぺちゃっ……と中の液体が揺れ、僅かに空いた穴から血の臭いが広がる。犬が鼻を鳴らすような音をさせ、怪物がゆっくりと近づくのが分かった。


(数は……多く見積もっても三人か。奇襲で一人、組み付かれる前に一人……接近戦で一人。いける)


 計算を済ませれば行動は早い。崩れて役目を果たせなくなった箇所から、手をかけてしなやかに着地。膝を使い、腰を下ろし、全く音を立てずに侵入。眼前には血の袋に寄る化け物が『二匹』だ。

 油断はせずに、素早く投げナイフを三本射出し、同時に彼は距離を詰める。敵の数が予想より少ないと断じた彼は、より静かに敵を沈めにかかった。


「ギッ……!?」


 首筋に三本直撃し、一体は確実に潰した。もう一体も反応される前に詰め寄り、背後から組み付いて首を掻き切る。噴出する血液に目もくれず、彼は家の前に紙とペンを張り付ける。この家はおおよそ安全を確保したと、後続に示すマーカーだ。

 いつもの晴嵐なら、ここから家探しに入るが……今の主目標は『偵察』と『可能な範囲で敵の排除』である。後ろから着実に『吸血鬼』を殲滅する隊が、効率よく動けるようにする為の補助。普段と異なるルーチンに戸惑いながら、彼は正午を過ぎるまで、自らの役割を遂行し続けた。


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