足を引っ張る感情
前回のあらすじ
面倒を見る気の無い『終末カルト』の生き残りを連れ、文明復興組を目指す晴嵐。しかし昼間にも関わらず『吸血鬼』が活性化している。儀式が原因と推測する二人。何とか入り口に辿りつき、晴嵐は急遽援護に入った。
何とか『文明復興組』の拠点に辿りついた、晴嵐と元『終末カルト』の二人。が、今は吸血鬼が活性化し、文明復興組は対応中だ。本来の目的――『終末カルト』の人間二人を引き取らせたい晴嵐。しかし、ここの安全は確保しておく必要がある。片目を失った晴嵐は、銃の扱いはヘタクソだけれど、そんな事も言ってられない。タダ働きになるが、あらかじめ恩を売っておくのも良いだろう。すぐに晴嵐は『文明復興組』と合流し、化け物たちへの対処に移った。
「援護する。おい! お前らも手伝え!」
「手伝うって……どうやって」
「す、すいません。横田司祭は……いえ、俺達教団員は、荒事全般が苦手で……」
「んな事言ってる場合か!?」
「で、でも……銃一つ使ったことも無くて……」
「ええい! 言い訳ばかり……!」
非常時に足を引っ張るんじゃない。使えない横田を放置して、晴嵐は拳銃を握りしめる。安全装置を外し、古びたハンドガンを構える。予備の弾薬は少ないが、出し惜しみで死んでは元も子もない。構えた銃器のトリガーを引き、突っ込んで来る吸血鬼へ対応する。けたたましく響く銃声の中、余計なノイズが耳をついた。
「せ、晴嵐! トラックの荷物は!?」
「馬鹿野郎! んなのは後で良い! 出来ないならすっこんでいろ、横田!」
「う……そ、そんな事言わなくたっていいだろ!? 俺だってなぁ! 何か出来ないかって考えていて……」
「あぁもう! 喋るなお前!」
グチグチと泣き言を聞く時間がもったいない。時と場合を考えて欲しい。拳銃をブッ放す晴嵐と『文明復興組』に、もう一人の教団員が後ろで控える相手に尋ねた。
「――何か。手伝えないか? 荒事は無理だけど……」
「なら、弾薬と銀粉煙幕を運ぶの手伝ってくれ。俺についてこい」
「はい!」
異様な格好だが、判断は良い。おろおろとその場で立ち尽くす横田の傍で、次の敵が迫りくる。弾切れの銃を込めた時、横田が強引に割り込んで来る。
「せ、晴嵐! おれが銃を使……」
「お前、さっき使えないって言ってただろうが!? 急に何を言い出す!?」
「だ、だから助けたいんだよ。少しでも力になりたくて……」
「せめて言動は一致させろっっ!! だったらお前、吸血鬼共のオトリになってこい! さっきから邪魔しかしてないぞ!?」
「い、いや……でも、何もしないのは不安で……!」
その不安とやらに突き動かされた行動が、より状況を悪化させていると、何故気づかない? 命の掛かった場面での愚行に、晴嵐はブチ切れた。
「いい加減にしろ! お前はもう何もするな!」
「だ、だって……だって……」
「お前が行動すると邪魔にしかならん! 隅で縮んでいろ!!」
「う……」
助けたいと言いながら、やってる事は人の邪魔。感情で救いたいと願いながら、その実行動は真逆。ある意味『終末カルト』連中らしい行動と言えばその通り。だが、自分の命もかかっている時に、平気で足を引っ張れる神経はなんなのだ? 怒りと呆れで注意が逸れた隙に、化け物が陣地側に抜けてくる――
『文明復興組』の面々も、運悪くリロード中。猛然と迫る敵に、反射的に晴嵐が首へナイフをねじ込んだ。ほとんど直感で振り抜き、迫っていた敵の陰にぎょっとする横田。返り血に濡れた晴嵐の顔は鬼気迫る。きっ、と横田を睨むと、子犬のような目で訴える横田。ますます不機嫌になった晴嵐は、威嚇するかのように牙を剥いて追い払う。拳銃のリロードを済ませたのと、ため息を吐くのは同時だった。
「……ったく、横田め。何を考えて……いや、何も考えてないか。あれは」
思考ではなく、感情での行動。恐怖と不安に押され『何かしなければ』と焦る。そうして焦って行動した結果、悉くババを引く……あるいは誰かの足を引っ張る。自らの不出来と未熟を認めて、出来るだけの事をするか、せめて邪魔にならないよう、考えて行動すれば良いのに……そうは思うが、年を取れば人間、感情のコントロールは難しくなるもの。年を食った横田には、難しい話かもしれないが……
これは、致命的な『壁』だった。知性を優先する人間と、感情を優先する人間の差。互いに互いを認める事も難しく、理解し合うのも難しい。
『自分とは違う人間がいる』
たったそれだけの事を認知するのを、人は極端に、恐れる。
「――余計な事を考えている暇はないか」
まずは生きる事。目の前の脅威を優先して排除する事。邪魔者は消え、周囲から聞こえる化け物へ応対する。逃げる訳にはいかない。横田ともう一人の教団員を『文明復興組』に任せるには、この局面を乗り切らねばならない。今は後回しだが、最終的には軽トラも回収しなければ足が無くなる。化け物の勢いを削がねば……と思案を巡らせた時、もう一人のロープの男と『文明復興組』が、積み込んだ物資を防衛線の後ろに寄こした。
「弾薬と……銀の煙幕を置いておく! トラックの奥に投げて、奴らが来ないようにするのはどうだ?」
「その隙に回収か……良い手だ」
――横田より、この教団員の方が『使える』と思う。すぐさま教団員も煙幕を投擲し、トラックの少し奥側にスモークが広がる。化け物を遮断する壁として機能し、その隙に晴嵐は急いで車両に戻りエンジンをかける。
合わせて、車両が通れるだけの道を作る『文明復興組』――跳ね飛ばさぬよう気を付けつつ、晴嵐は拠点側へと引く。
――一時間か、それとも30分か、長く感じる化け物の攻勢を凌ぎ、やっと晴嵐は番犬へ状況を伝える事が出来た……




