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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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怪物の活性化

前回のあらすじ


『終末カルト』に裏切った横田から、儀式の内容を吐かせる。半分も理解できない晴嵐と異なり、成り行きで助けたもう一人は『儀式』を正しく理解し絶望した。もめ合う二人だが、今後をどうするか尋ねられるが、アテが無いと言う。とりあえずお人よしの文明復興組に押し付けようとする晴嵐だが……

 翌日の昼過ぎを目安に、晴嵐は軽トラックを『文明復興組』に向けて走らせた。隣には教団員、荷台には裏切り者の横田と物資を載せ向かっている。

 が、その道中――晴嵐は異様な光景を目にする。と言うより、絶賛体験中だ。張り詰めた空気の中で、晴嵐は軽トラックのアクセルを踏み込む。


「くそっ! なんで昼間っから『吸血鬼サッカー』が!?」

「日光が出てないからじゃないか?」

「確かに曇りだが……奴ら夜行性だろう!?」


 絶望的な表情で、晴嵐は天を仰いだ。空は雲で覆われて、日光は完全に遮断されている。確かに奴らの弱点である『日光』は、地表に届いていないが……にしても、急に習慣を変えるのは不自然に思える。

 眼前には虚ろな目の人型。車の駆動音を聞きつけると、ふらふらと近寄って来る。曲がり角で待っていた一体を撥ね飛ばし、悪態をついた所で助手席の教団員が言った。


「……神が法則を書き換えたのか、干渉したのかもしれない。俺達の拠点が潰れた時だって、取引の最中だろう?」

「ありゃロープを着てたからじゃないのか? こいつら、格好は普通だろう」

「昨日も普通の奴がいたぞ。見てないのか?」

「逃げるのに必死で覚えとらんわい!」


 昨日に引き続き、軽トラックが唸りを上げて道を進む。舗装のひび割れた道路は、激しく車内に振動をもたらす。席に座る二人もそうだが、荷台にいる横田はもっと酷い。必死に荷台のふちを掴んで、振り落とさないように耐えていた。時々後ろから、彼の悲鳴と文句が聞こえてくる。


「ちょっと晴嵐!? もう少し穏やかな運転は出来ないのか!?」

「ふざけるな! 化け物共がそこら中にいるんだぞ!? 何ならお前がエサになって引き付けてくれ!」

「やだよ絶対!」

「だったら文句言うなっ!!」


 口論を挟むが、ハンドルから手を放す訳にはいかない。本当は『文明復興組』への場所へ直行したいが、所々に出没する吸血鬼サッカーのせいで、蛇行を繰り返している。何も知らない横田が、悲鳴と共に荷台から抗議を送った。


「晴嵐! さっきから運転が無茶苦茶だ! 本当にこれで『文明復興組』の所に行けるのかよ!?」

「馬鹿野郎! 化け物を引き連れたら……相手目線では疫病神だろうが! 奴らを振り切ってからじゃないと、お前ら二人の印象も悪くなる!」

「にしたって、命あっての物種じゃないのか!?」

「そりゃそうだがな! 生き残るために、切れない相手もいるんだよ!」


 その理屈で『終末カルト』とも、手を切らなかった晴嵐。仮に切り捨てるなら、同乗者の方だろう。口にしてもモメるだけ。もうここまで引きずったら、最後までやり通すしかない。

 そうして迂回と蛇行を繰り返しながら、やっと『文明復興組』の本拠点が遠巻きに見えてくる。もう少し、と顔を向ける晴嵐だが、次に彼の五感に届くのは、けたたましい銃声の嵐だった。


「おいおいおい、どうなっている!?」

「わしが知るか!」

「これ、まさか……吸血鬼サッカーに襲われているんじゃ……?」

「なんでだよ!? 攻撃される理由が無い……」

「おれ達の儀式のとばっちりだ。地球女神ガイアが人類の浄化に、本腰をいれちまったんだ……多分、人の集団から潰しにかかったんだ」

「よく分からないが……神に生意気な口を聞いて、逆鱗に触れたって解釈でいいのか?」

「だいたいあってる!」

「余計な事を……!」


 自前だけでなく、全く無関係の人間まで『儀式』とやらは巻き込んでいるらしい。近づく銃声に怯えつつ、晴嵐は二人に指示を出す。


「身を守る物を用意しておけ!! 話し合いの空気じゃない!」

「わ、わかった!」

「なんでおれがこんな目に……!」

「愚痴ってる暇があるなら備えろ!」


 晴嵐が『文明復興組』の第一防衛線を目にする。周囲には無数の死骸と、険しい顔で怪物と対決する、銃器を持ったメンバーがいる。軽トラックの登場にぎょっと肩を動かし、中には銃を向ける者もいた。

 もう少し接近したかったが、仕方ない。銃撃されてはたまらぬと脇に軽トラックを緊急停車。同乗者たちもすぐに飛び降り、晴嵐は『文明復興組』に大声を張り上げる。


「撃つな! 交換屋トレーダーの晴嵐だ!」


 何度も物々交換を行い、以前『覇権主義者崩壊』の際、協力した事もあり距離感は近い。すぐに銃を降ろしてくれたが、顔は険しいまま警戒を重ねている。他所を向いたまま質問が飛ぶ。


「えっ……!? なんでまた!? 今日は予定日じゃないだろう!?」

「ちと野暮用があって……しかし、それどころじゃ無さそうだな?」

「あぁ! なんでか知らないが、吸血鬼サッカーが興奮状態で……っておい!? そこの二人! お前らはカルトの連中で――」

「『終末カルト』も崩壊した。アイツらは生き残りだ」

「!? どういう事だよ!?」


 驚愕と困惑を交え、復興組のメンバーが問う。晴嵐は二人を招きつつ、説明を始めた。


「わしも場面に居合わせたから、間違いない。お蔭で昨日は大変だったよ」

「……今回の『吸血鬼の活性化』についても、私たちなりに解答を持っています。申し訳ない。どうも私たちの儀式は、宗派は、大きな過ちを犯したようで……横田司祭。あなたも証言して下さい」

「……やだなぁ」

「横田司祭!」


 明らかに証言を渋る横田。その時、化け物共の叫び声が聞こえてくる――ぎょっとする『文明復興組』に合わせ、晴嵐も投げナイフと古い拳銃を引き抜き、戦闘に備えた。

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