第一章 ダイジェスト・2
突然スーディアが晴嵐に飛び掛かった。直後に風切り音が頬を掠め、投擲されたナイフから庇う。すぐに晴嵐も反応してナイフを投げ返し、四人で守りに入った。現れたのは紫の小人、最初晴嵐が遭遇したゴブリン……しかもその群れに取り囲まれている。
まだ疲労の残る中だったが、テティ・アルキエラが魔法の旗『立体旗』を発動。精神を高揚させる魔法と、彼女本人の棒術、加えて二人のオークと晴嵐は、素の戦闘能力も十分にある。無事にゴブリンの群れを撃退した彼らは、ようやく森の中で休息を取れる事に。
ほとんど初対面とはいえ、共に目的を達した充足感のお陰で空気は悪くない。スーディアをからかうラングレー。つい晴嵐も乗っかって冗談を交わした。テティとスーディアの二人で話してこいと勧め、見張り中の彼女とスーディアが接触する。
二人は、男女の感情で動いたのではなかった。スーディアは筋肉の動きを読む観察眼を持っており、老人特有の筋肉の使い方、姿勢があるという。正体を見抜かれたテティは、囚われの現状にやけっぱちの気持ちがあったのか、自らの『前世』を語って聞かせた。
現状に逼塞感を感じ、オークの集団で燻っていたスーディアは激しく憤った。彼女をこのまま埋もれさせてはいけない。今まで集団に感じていた不満と、世界の外側への憧憬に火がついた。彼女と自分が外に出るために、自らの生命を賭けた決闘に身を投じたのだ。
いくつかの偶然に助けられ、彼らは自由を得る事が出来た。長く話すと二人にからかわれると、鍋を囲む男達へ合流に向かう。戻る前、スーディアは晴嵐の姿勢は老人のソレと類似すると言い、テティに近い立場かもしれないと告げる。心に留めつつ、四人での場面へ。
何度かここまでも用いていた石ころ、ライフスト―ンを使って地図を開く者たちを晴嵐は見つめていた。注目したのは『地球にない技術だから』ではない。もちろん気にする一点ではあるものの、彼が最も着目したのはその技術にどこか、地球の匂いが残っているような感覚を覚えた事だった。
地図機能、地図から目的地をマーキングし、方角を指し示す機能……これではまるで『カーナビ』だ。知性体が考える事だし、たまたま偶然同じ機能がついてもおかしくはないが……
何気ない顔で見届けた後、諸々の事情から共犯者のオークたちと別れなければならない。今までずっと冷徹な立ち回りを続けてきたからか、あまり素直に言葉を送れない晴嵐。それでも、すべてのきっかけを作ったスーディアは晴嵐にも感謝を述べ、彼らは別れた。
感傷もほどほどに、テティは魔法の旗を掲げて発動させる。今度はまるで無線機のような役割を果たす魔法の旗。じっと見つめて考え込む晴嵐に対し、テティから『おじいさん』と切り込む。話が早いと互いに素性や経緯を明かしたが、ここで一つ違いが判明した。
どうやらテティは『赤ん坊から生き直した』ようだ。『死んだはずなのに、目が覚めたら若返って森の中にいた』晴嵐と状況が異なる事に気がつく。トンデモ話はお互い様として、ひとまずは信じる方向で話を進める。テティは頭の回転が早いのか、晴嵐がざっと現状を説明すると、彼の望む方向性と現実を把握して見せた。
晴嵐がテティ救出の際に、この地域の令嬢を絞め落としてしまった事、さらにオーク二人の行動は説明が難しい。変な方向に話がこじれても困るので、テティは晴嵐やオークたちの立場を悪くしないように、現状に即した話を報告する事に決めた。
そして村に帰還する二人。手筈通りに話を合わせ、助けた女兵士長に仕事を終えたと伝える。しょっぱい報酬を受け取りつつ、宿屋がないか聞く晴嵐。テティの母親が勤めているらしいので、助けた彼女に任せる事に。補佐も受けつつ、無事一室に泊まる事が出来る流れに。今までの野宿続きと疲れから、初めての寝具で晴嵐はぐっすりと眠った。
晴嵐の就寝後、ホラーソン村の兵士達は攻勢に出ていた。晴嵐が設置したマーカを頼りに、オークのいる拠点へと攻め入る。魔法の旗を使って相互に連携し、一斉に矢を射かけて奇襲攻撃を放った。内乱が起きたことで統率は乱れており、さらにスーディアが長の剣を破壊したことが、大きく集団の脅威度を下げていた。快進撃て打ち破り、ホラーソン村の人間の救出に成功するが、決闘に敗北した腹いせからか、令嬢は八つ当たりを受けた後だった……
アレックス軍団長は、逃走したオーク集団に追撃を仕掛ける。散り散りに逃げる相手に攻め込んだが、ある一点から森の奥へ進めなくなってしまった。
この森、グラドーの森の深部には結界と呼ばれる領域があり、オーク以外の知的種族が侵入することが出来ない。蛮族化したオークがたむろするのもこれが原因だ。逃げ切られてしまったと唇を噛み、目的は達成したと軍団長は引き返した。
一方、逃げ切ったオークの長は荒れていた。スーディアの反乱さえなければ、十分勝負になったと腹を立てる。取り巻きも荒れる様子を眺める中、突如甲高い破裂音が森に響いた。
『悪魔の遺産』と呼ばれる何かによって、一撃で絶命するオーク。魔法の盾や鎧を展開しても貫通され、戦意を失ったところに奇妙な金属の人型が現れる。
オークたちが意識を失う直前、謎の人型は『地球』という妙な単語を吐いた。




